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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.002
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

今週の作品はこちら
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タイトル:「ムッシュ・カステラの恋」
制作国:フランス/2000年
原題:Le Goût des autres 英語題:The Taste of Others
監督・共同脚本・マニー役:アニエス・ジャウイ
共同脚本・カステラ役:ジャン=ピエール・バクリ
その他出演者:アンヌ・アルヴァロ、ジェラール・ランヴァン、
       アラン・シャバ、クリスティアーヌ・ミレ
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■STORY
中規模会社の社長カステラ氏。裕福だが、教養がなく、ジョークを言えば下品
なネタばかり。そんなカステラ氏が舞台女優に恋をした! 慣れない演劇や文学
や芸術の話をしてみたり、彼女の世界に入り込もうと努力がはじまる。

邦題にあるように、このカステラ氏の恋を軸に物語は進むが、ひとりの主人公
の物語ではなく、この恋をきっかけに周囲の人に様々な変化がもたらされる群
像劇である。以下がカステラ氏をめぐる主な登場人物だ。

カステラ氏の思い人は舞台女優の<クララ>。カステラとは英語の教師として
知り合い、カステラのことは最初から嫌っている。

<マニー>はクララの行きつけのカフェでウエイトレスをしている。麻薬を売っ
て副収入をあげ、恋愛にも奔放な彼女だが、こんな生活を抜け出して幸せな主
婦になろうかとひそかに思っている。

カステラ氏のボディガード、<フランク>。女性にはもてるが深入りするのが
こわい。マニーとつき合うも、関係を継続するのにはためらいがある。

カステラ夫妻の運転手、<ブリュノ>。 アメリカに行ったきりの恋人を信じ
て待つ純粋な男。マニーと昔寝たらしいのに覚えていない自分にショックを受
ける。

<マダム・カステラ>はメルヘンあふれる内装づくりと夫の食餌管理が生きが
いの女性。日々の楽しみは、ペットの犬を可愛がることと恋愛ドラマを見るこ
とである。

■COMMENT
ストーリーを説明するのが非常に難しい。カステラ氏の恋の行方を追った説明
をしても、この作品の半分以上が抜け落ちてしまう。ただし、難しいのはストー
リーの説明であって、ストーリーそのものが難しいのとは違う。ストーリー説
明はたいがい、主人公ひとりに視点を絞って語っていくものだが、複数の人間
関係が交差していくこの作品は、その方法では魅力が正確に伝わらない。

この作品で面白いのは、すべての登場人物が、直接、または間接的に、関係し
あうところ。見終わって、登場人物一人ひとりを思い浮かべていくと、それぞ
れカステラ氏をめぐる物語をしっかり構成していることがわかる。
どの一人が欠けても、この物語はできあがらなかったのだ。多くの「主人公」
を抱えながら、ややこしくなったり、わかりにくくなったりせず、かつ、一人
ひとりをていねいに描いている。出会い方も関わり方も自然で無理がない。い
つ身近で起こってもおかしくないような話だ。

しかし、簡単に、どこにでもある日常とは言えない大事な要素がある。それは、
この映画の中で築かれる人間関係の多くが、別世界にいる者同士を結びつける
クロスオーバーな関係であることだ。そのことがこの作品を、格別に楽しくし
ているように思う。

例えば、会社経営だけをしてきたカステラは、これまで知らなかった芸術の世
界に出会い、逆から見ればクララのように芸術に囲まれた生活をする人間が、
芸術には無縁のカステラに出会う。ふだん出会わなかった人との出会いが、そ
れぞれの心に影響していく。
マニーは副業で麻薬を売る軽めの女性だが、元刑事のフランクから行為をたし
なめられ、「保守的な男!」と文句を言いながらも、人生の見方が少し変わる。
女に深入りせずと世をすねた風のフランクも、マニーとの出会いに変化の兆し
が見える。
短い恋を楽しむフランクとマニーに出会い、純朴だったブリュノも恋人との仲
を再考する様子。
他にも、無知なカステラとエリートの経営コンサルタント。シンプルな内装を
好むカステラの妹とこてこて好みのマダム・カステラ。はじめは相容れなくて
も、互いに何かしら影響しあう。ジャンルを超えた出会い、関わり合いが、人
生も、生活も豊かにする。

億万長者もドラマティックな大恋愛も出てこないけれど、こんな世界に入り込
めたら、どんなに楽しいことか。クロスオーバーは、ささやかだけど、贅沢な
体験なのだ。

■COLUMN
アニエス・ジャウイとジャン=ピエール・バクリは、フランス映画界の喝采と
期待を「二身」に背負う名コンビだ。本作は各映画賞も多く受賞し、アカデミー
・フランセーズからも映画部門で表彰されている。批評家受けが良いだけでな
く、96年以降、手がけた作品はすべて200万人以上の動員を記録と、数字の面で
も実績を積み上げている。

プライベートでもよきパートナーである二人は、ともに、もともと舞台で活躍
した演劇畑の人だ。共同執筆の脚本も、はじめは戯曲からはじまった。演劇と
映画、共通するものはたくさんあるが、ジャンルの違う別の世界でもあったろ
う。この二人が映画界で活躍していることは、観客にとって幸せなクロスオー
バーであったと思う。

このマガジンも、ヨーロッパ映画が好きな人に読んでいただきたいことはもち
ろん、「映画はハリウッドだけだなー」とか「ヨーロッパ旅行は好きなんだけ
ど、映画は知らないや」とか、別のジャンルの方を向いている人のもとにも届
いてくれたら、と願っている。自分の好みの世界はあるけれど、そこだけを頑
なに守っていても、硬直してしまってつまらない。
狙ってできることではないのだろうけれど、意外なクロスオーバーを、ちょっ
とだけ待っている。
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転載には許可が必要です。

編集・発行:あんどうちよ

Copyright(C)2004 Chiyo ANDO

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2004.9.13 原題と英語題を追加

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