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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.005
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★

++ さわさわと泡立つ恋心 ++


作品はこちら
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タイトル:「マドモワゼル 24時間の恋人」
制作:フランス/2002年
原題:Mademoiselle
監督・共同脚本:フィリップ・リオレ
出演:サンドリーヌ・ボネール、ジャック・ガンブラン
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■STORY
思いがけず出会い、恋に落ちた男女の、24時間限りの静かな愛の物語。

クレールは、製薬会社の営業を勤め、家庭ではよき妻であり、二人の子どもの
母である。ピエールは、即興劇団を作って各地で公演する俳優兼脚本家だ。

フランス南部の小さな町で行われた製薬会社の全国大会。社員として出席した
クレールと、会社の招きで即興劇を上演したピエールは、ひょんなことから、
帰りの車に同乗することになる。駅に着いたらそこでお別れの筈だった。しか
し様々な偶然が重なって、結局クレールはその日の列車に乗り遅れてしまう。
翌朝7時12分の列車に乗るまで。どうしようもなく惹かれ合った二人に残され
た時間は、あと少し。

■COMMENT
恋の思い出は身体感覚だ。心臓の鼓動の高まりであったり、ジェットコースター
で落下するときのようなくすぐったさであったり、背中に走るしびれであった
り。心にしまっていた恋愛がよみがえるとき、体内に何がどう働くんだか、やっ
てくるのは相手を思ったときの身体感覚だ。

その感覚が呼び覚まされるのには、なにかスイッチになるものがある。二人で
聞いた曲や、咲いていた花の香りや、その人、その恋によって様々だ。クレー
ルの場合、それは「灯台」である。勇退する船好きの同僚のために皆で贈った
灯台の模型。これを同僚が忘れたことが、巡り巡って二人の恋のきっかけとなっ
たのだ。

映画は、市場で夕食の材料を買う、日常に戻ったクレールの様子が映し出され
てはじまる。別の買い物をしに行った、夫と子どもたちとは、車で待ち合わせ。
トランクに材料をしまって、彼女がふと見上げたそこには、灯台が大きく描か
れたポスターが貼られている。吸い寄せられるようにその芝居のポスターに近
づくクレール。きっと彼女の中では、日常に封じ込めていた恋愛感覚が、よみ
がえっている。私が思うに、それはきっと、胸の辺りで何かが泡立ってくる感
じ。“ぶくぶく”ではなくて、“さわさわ”と、静かに。
そこから、彼女が今思いを馳せている、何ヶ月か前の恋物語が語られはじめる。
その物語は終わり、映画の最後、物思いの彼女のもとに、夫と子どもが戻って
くる。子どもはプレステを買ってもらって大はしゃぎだ。
作品の構成から見ても、彼女の泡立つ心は、冒頭と末尾の「マダム」と呼ばれ
る現在の日常にしっかり封印されている。

よく見ないとわからないのだが、彼女が釘付けになったポスターは、実はピエー
ルの芝居のポスターなのだ。書きかけだという灯台守の戯曲の話を聞いて、ク
レールは「面白そうだからぜひ続きを書いて」と言った。
もしこの映画に続きがあるとして、トゥールーズ国立劇場での公演に、彼女は
行くのだろうか。一観客として、行かないで封印した物語のままにしてほしい、
と思うけれど、そう言いきった次の瞬間、恋する彼女の笑顔は美しかった、と
迷う気持ちも生まれてくる。どちらがいいのか、私は答えを決められない。

■COLUMN
お国柄というか文化の違いというか、映画を見ているとおもしろい違いに気づ
くことがある。一般の人々がみんな映画みたいな暮らしをしていると思いこん
だら、悲しい誤解が生まれかねないから、気をつけなければならないけれど。

ピエールと仲間がやる即興劇。笑いがあって、テンポが良くて、ちょっとした
“仕込み”もあり。これから見る人のために、多くは言わないけれど、さすが
パフォーマンスを愛するお国柄か、と思わせる。もちろん日本にだって、即興
の試みはあるし、質の高い芝居はある。だけれど、それは、たいがい演劇愛好
家のものであって、日常とともにはない。堅い製薬会社の社内イベントで、こ
うしたひねりの効いたパフォーマンスを見ることはないんじゃないかと思う。

クレールとピエールが、一番最初に出会うシーンもそう。たまたま店に居合わ
せた見知らぬ同士が、互いの買い物のアドバイスをするなんて、日本の、特に
都市では、ありふれた光景ではない。
二人を新婚と勘違いしているホテルの従業員が、ベッドにいる二人にお祝いの
シャンパンを持ってくるのも、日本では見られない光景だろう。ちっともいや
らしくなくて、素敵なシーンだから、あんな自然な振る舞いができたら、と思
うのだけれど、日本の恋人たちには無理、きっと。

ただこの映画を見ていて、「花嫁の友人のスピーチ」というやつは、どこでも
一緒なのかな、と思った。同じところを発見するのは、違いを見つけたときよ
り、ちょっとうれしいことも、あり。


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転載には許可が必要です。

編集・発行:あんどうちよ

Copyright(C)2004 Chiyo ANDO

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2004.9.13 原題を追加
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