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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.008
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★
++ それでも話してみる ++

作品はこちら
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タイトル:「トーク・トゥ・ハー」
制作:スペイン/2002年
原題:Hable con ella 英語題:Talk to Her
監督・脚本:ペドロ・アルモドバル
出演:ハビエル・カマラ、ダリオ・グランディネッティ、
   レオノール・ワトリング、ロサリオ・フローレス
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■STORY
女性闘牛士リディアは、競技中の事故で昏睡状態に陥ってしまう。恋人のマル
コはただ悲しみに暮れるのみだ。病院には、事故で、同じように昏睡状態となっ
たアリシアがいる。看護士のベニグノが、日々の出来事を話し、マッサージや
髪、肌の手入れも欠かさず、献身的に看護をしていた。他人には一方的に話し
ているようにしか見えなくても、ベニグノは彼女にそれが届くことを信じてい
る。
互いの境遇を語り合ったマルコとベニグノは、しだいに友情を深める。少しず
つだが、ベニグノに習って、マルコもリディアに話しかけるようになっていく。
しかし、ベニグノの献身はいつしか、悲劇的な運命を導く。

■COMMENT
「見終わって、話し合いたい作品」というのがある。家族の形や、戦争の傷跡
やらを家族みんなで見て、語り合いたい(語り合って欲しい)とか、ロマンチッ
クな映画を、恋人同士で見て語り合って欲しいとか。
そういう点から考えたら、この作品は断然「見終わって、話し合いたくない」
映画である。

この映画をどう評価するのか、それを口にしたら、日頃、奥底に秘めている自
分の本質的な部分をさらけ出すんじゃないか、怖い。その本質の部分を相手に
受け入れてもらえなかったら、そう思うと怖い。相手が語ってくれたとしても、
その本質を聞いて、自分がそれを受け入れられなかったら、怖い。それほどに、
この映画は、日頃あまり見ないことにしている、本質的な部分に深く踏み込ん
でくる。
これをカップルで見に行った人たちは、無言か、ひどく饒舌か、とにかく今見
た映画の話はしないようにしたんじゃないかと、勝手に想像している。

ネット上ではベニグノの愛の形についての論争が多く見られる。だが、私はやっ
ぱり「トーク・トゥ・ハー」という題名に、この作品の根幹があると思う。

意見が違うもの、未知のなんだかわからないもの、そういうものに出会うと、
「わからない」とか「あいつは敵だ」とか、思考停止してしまうことがある。
世の中、すべてが理解できるものではないし、分かり合えないもの、分かち合
えないものはたくさんある。話せばわかる、とは言わないが、話してみること
は重要だ。

最終的にベニグノはすべてを敵にまわすこととなるけれど、マルコは必死に彼
と話す。そして彼の思いを、他の人に伝えようとする。マルコは両方の世界を
知っている。ひとつはふつうの人の世界。そこではベニグノは1ミリも理解さ
れない。もうひとつは、眠りの世界にいるリディアと話すことで知った世界。
ふつうの世界に属しながらも、ベニグノの世界を少しはわかるマルコは、他の
人のように断罪する道ではなく、断罪する人とベニグノを仲介する道を選ぶ。
「試合の後で話があるの」と言ったまま眠ってしまったリディアを悔いながら。

そういえばマルコは、世界を旅して旅行ガイドに記事を寄せるライターだ。未
知の世界を、人に伝える仕事を持つ彼は、根っからの仲介者なのだ。互いを理
解し合えない者には、仲介者が必要。両方の世界を少しでも理解していること
が仲介者の条件だ。あいだにいる者には可能性と責任の両方がある。

わからない、と思考停止せずに話してみる。理解が進むか対立が深まるか、好
感が生まれるか嫌悪が増すか、その後の運命がどうなるのかはわからないが、
話してみるところにしか第一歩目はない。それが作品のメッセージかどうかは
別として、そんなことを考えた。

■COLUMN
同じ監督の「オール・アバウト・マイ・マザー」。どんな映画なのかまったく
情報を仕入れずに見に行って、冒頭で移植手術がテーマなのかと思いきや、そ
ういう話ではなかった。今回も、「オール・アバウト……」の監督の映画ね、
という知識だけで見て、前半で意識不明の人に話しかけるのがテーマかと思っ
たら、違う方向にどんどん進んで「ああ、前もこんなんだった」と思い出す。
私も学習しない人間だ。

しかし、どちらがいいのだろう。まっさらな状態で見ていれば、ある程度知っ
てる人が驚かないところで驚けるし、新鮮な面白さを味わえる。だけど、ある
程度知ってて見ないと、自分の中でテーマを絞れなくて見るべきところを逃す
かもしれない。特に人物関係がちょっと複雑だったりすると、どんな人が出て
くるのか、予備知識がある方が、話を理解しやすい。

最初にその作品に出会うのは一度だけ。どんな状態で出会うのが理想なのか、
難しい問題だと思う。


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転載には許可が必要です。

編集・発行:あんどうちよ

Copyright(C)2004 Chiyo ANDO

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2004.9.13 原題と英語題を追加

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