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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.009
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★
++ さわやかに地元根性おし出して ++

作品はこちら
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タイトル:「ウェールズの山」
制作:イギリス/1995年
原題:The Englishman Who Went Up a Hill But Came Down a Mountain
監督・脚本:クリストファー・マンガー
出演:ヒュー・グラント、タラ・フィッツジェラルド、
   コーム・ミーニー、イアン・ハート
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■STORY
1917年、ウェールズ南部の小さな村に、イングランドから二人の測量技師がやっ
てきた。地図作りのため、「フュノン・ガルウ」という山を測量するのだ。305
メートル(1000フィート)以下なら「丘」とみなされ、彼等の作るグレートブ
リテンの地図には載らない。
「フュノン・ガルウ」は305メートルあるのか。「俺たちの山。丘のわけがない
だろう」と、村は大騒ぎ。

しかし、測量の結果は299メートル(984フィート)。「山」には6メートル足
らず、「フュノン・ガルウ」は「丘」となり地図には載らないことが判明した。
納得いかないのは村人たち。大切な山をイングランド人にとられてたまるか。
あと6メートル、土を盛ってやろうじゃないか。男も女も子どもも総出で大作
業がはじまる。

■COMMENT
山を丘にされたくないから皆でせっせと土を盛る。このあらすじだけで大いに
笑えた私は、すぐに見に行くことを決めた。ばかばかしくて単純で、出てくる
人は、ひと癖ふた癖いろいろあるけどみんないい人。私好みのコメディーだ。
今回約8年ぶりに観たわけだが、とても楽しかった。

地図に載せてもらえないんじゃ困るっていうんなら、当局に手を回すとか、測
量技師を買収するとか、イングランドの連中のことなど聞かずに、独自に測量
して独自に地図を作るとか、ある意味もっと高等な手段があると思う。しかし
住民が選ぶのは、実際に山を高くすること。一応、嘆願書を出そうという案も
出るのだが、皆が乗るのは、山に土を盛ること。確かに実際に高くなるのなら
一番確実だ。実直さがほほえましい。もう一度測量をしてもらわなきゃならな
いから、測量技師をあの手この手で村に引き留めておく策略は必死で練るけれ
ど。

私たち日本人は、「グレートブリテンおよび北部アイルランド連合王国」を漠
然とイギリスと呼び、イギリス人をイングリッシュと言うけれど、「連合」し
た王国であって、それぞれ国は別。ウェールズは、はるか昔にイングランド人
に制圧される形で連合王国に組み込まれている。そんな歴史を持つから、イン
グランド人に俺たちの誇りを奪われるなんて許せない。イングランド人は「フュ
ノン・ガルウ」をまともに発音することさえできない。

血塗られた歴史もあるが、決して測量技師を逆恨みしたりしない辺りが、物語
の楽しさであり、ウェールズの人たちの寛大さだ。ブチ切れて暴力を振るった
りはもちろんしない。皆で誇りを持って土を盛る。
丘と呼ばれようと山と呼ばれようと、緑豊かな風景は絶品。好色な宿屋の亭主、
厳格な牧師、ほんの少しずつ誇張して描かれている愛すべきキャラクターたち
が面白さを増している。しだいに村の人の努力に共感してゆく技師を演じた
ヒュー・グラントの笑顔もいい。(ふだんはああいう甘いマスクの二枚目はあ
まり好みではない私だが、なぜだかOK!)

蒸し暑くてじめじめした昨今には、さわやかで、あたたかい気持ちになれる一
作をぜひ。

■COLUMN
私が生まれて19歳まで育った町は、愛知県にある。赤味噌が名産で、自慢は徳
川家康が生まれたこと。町の表札屋の見本は「徳川家康」と彫られるのが定番
だ。実家には祖母と両親が健在だが、大学に進学したあとは、ほとんどの時間
を東京で過ごしているから、中高生の遊び場以外には、私はその町のことをよ
く知らない。地元意識が強いのは苦手だ。味噌は赤でも白でも構わないし、方
言で話してほっとしたりしない。実家に行っても東京で話すのと同じように話
す。(ただし同行する夫は、かなりなまっていると証言する)

ふだんはどこの人でもないような顔をしている私が、故郷をアピールにムキに
なることがある。それは、おおざっぱに他の地域と一緒にくくられた時。私は
出身を聞かれるとわざわざ「愛知県」と答えるのだが、たいていの人の頭では
「名古屋」とインプットされるらしく、次に会うと「名古屋の人ってさー」と
くる。
外から見れば同じなのはよく知っている。しかしどうしても「私は名古屋出身
じゃないので…。文化的にも全然違うところなんですよ。みゃーとか、だがや
とかは言わないで、うちの地方では、だら、とか、りんとか言うんです。ひつ
まぶしも食べないし…」と微細な(私にとっては大きな)違いを必死で説明す
る自分がいる。

ウェールズの人たちも、それと同じように、と言っちゃあ、次元が違うかも知
れないが、「ウェールズ? イングリッシュでしょ」なんていう外からの乱暴な
一緒くたに、今も昔もあらがっているのだと思う。ふだんは意識にのぼらなく
ても、我が町が唯一無二だ、との誇りは、きっと誰の胸にもある。

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転載には許可が必要です。

編集・発行:あんどうちよ

Copyright(C)2004 Chiyo ANDO

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2004.9.13 原題を追加


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