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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.010
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★
++ 美し自由の都パリに放り込まれて ++

作品はこちら
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タイトル:「勝手にしやがれ」
制作:フランス/1959年
原題:À bout de souffle 英語題:Breathless
監督:ジャン=リュック・ゴダール
出演:ジャン=ポール・ベルモンド、ジーン・セバーグ
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■STORY
互いの素性も知らぬまま、自由な関係を楽しむ男女の物語。生き生きしたパリ
の風景が恋人たちによく似合う。

気ままに自動車泥棒をして暮らすミシェルは、盗んだ車でマルセイユからパリ
に向かう途中、白バイ警官を射殺してしまう。
ニースで出会って以来、忘れられなかったアメリカ人留学生パトリシアに、
一緒にイタリアへ逃げようと持ちかけるが……

■COMMENT
ヌーヴェル・ヴァーグの記念碑的映画、後の映画技法に多大な影響を与えた
云々、いろいろな観点があるけれど、私にとっては何と言っても、生のパリが
みずみずしい映画なのだ。恥ずかしげもなく、惜しげもなく大映しにされるノー
トルダム寺院や凱旋門、それにエッフェル塔。

しかし私が特に好きなのは、通りを歩くミシェルとパトリシアの側を行き交う
人々が、ふつうに振り返って見ているところだ。通り過ぎてから、立ち止まっ
てじっと眺めているおじさんもいるし、「なんか、撮影やってるよ」のノリだ
と思う。うっかり画面の片隅に映ったものが生かされる自由さが好きだ。ふつ
うなら、通行人はエキストラとしてふつうの通行人であってくれないと困るの
だろうけど、ここでは、素の反応する人が多い分、リアリティが出る。ああ、
ここには本当にそこにあった1959年のパリがある。さすれば、その中にいるこ
の二人も、リアルに映る。

お互い素性も知らず、なんとなく惹かれるから一緒にいる二人の関係も自由そ
のものだ。彼女に「車ある?」と聞かれる度に、いちいち盗んで高級車を調達
してくるミシェルも、バイト先の新聞社で記事を書かせてくれそうだから、と
記者とデートするパトリシアも、それぞれに自由。パトリシアが物書きになり
たいのは、男から自由になるためなのだ。
アメリカ人のパトリシアが、フランス語が完全ではないために、しじゅう、「そ
れどういう意味?」「何、それ?」と聞き返している。物語の自由闊達さはそ
んなところにも表れる。

しかし、自由は人をつねに幸福にはしない。パトリシア自身もどこかで恐怖を
抱えているように、息苦しくとも、どうにもならないほど追いつめられはしな
い自由な恋人たちは、その自由の犠牲者にもなっていく。ラストシーン、カメ
ラを見すえるパトリシアの視線が心に残った。

■COLUMN
これを書くために、いろいろネットで調べものをした。そしたら、ジャン=ポー
ル・ベルモンド演ずるミシェルがカッコイイ! という意見がたくさん見られた
のだ。
んー、そ、そーかなあ。カッコイイかカッコワルイか、で言ったら、ワルイ方
じゃなかろうか。悪い意味ではない。愛すべきちんぴらさんという感じで。
ハンフリー・ボガートにあこがれて、斜めに帽子をかぶって、煙草をくわえて、
ボガートのポスターの前で「ボギー……」とつぶやく。いや、なんだか、すご
くいいヤツ! だけど、カッコイイかなあ。憧れるっていうなら、分かるんだ
が。私が男のロマンを分かってないだけかな。

もう一つ。この映画、原案がトリュフォーによるものというのは有名だが、そ
のトリュフォーの書いた原案なるものも見つけた。主人公がリュシアンだった
り、細かい違いはいくつもあるが、いちばん大きな違いはラスト。ミシェルは
パトリシアに捨てぜりふを吐き、車で走り去ることに、原案ではなっている。
その結末では、きっと映画史に残る作品とはならなかっただろう、と思う。

当時のゴダールはすべてに絶望した状態で、原案にない悲劇的な結末にする必
要があったのだそうだ。(参考:中条省平『フランス映画史の誘惑』集英社新書)
原案より、実際に撮られたこの結末のがずっといい。自由が、悲劇と絶望の紙
一重にある様は、ぜひ実際に作品で見てください。

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転載には許可が必要です。

編集・発行:あんどうちよ

Copyright(C)2004 Chiyo ANDO

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2004.9.13 原題と英語題を追加


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