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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.011
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★
++ あの瞬間に戻ってもう一度 ++

作品はこちら
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タイトル:「ラン・ローラ・ラン」
制作:ドイツ/1998年
原題:Lola rennt 英語題:Run Lola Run
監督・脚本:トム・ティクヴァ
出演:フランカ・ポテンテ、モーリッツ・ブライブトロイ
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■STORY
恋人のマニからローラに電話が入る。「しくじった、取り引きしたブツの代金
10万マルクをなくしてしまった!」正午までに10万マルク作らなければ殺され
る。正午までにはあと20分。ローラは恋人を救うため、家を飛び出し、走り出
す。

テクノのBGMにのって真っ赤な髪のローラが町を疾走する。父親に金を頼み、広
場で待つマニのもとに金を届ける20分間。これを、ちょっとしたタイミングの
ずれによって結末が異なる3つのパターンで描く。

■COMMENT
忘れ物を思い出して家を出るのが1分遅れた。電車に乗り遅れて15分も待つハ
メに。あの1分がなければなー、なんて悔しい経験は誰にでもあるもの。
さらに、もっと偶然が重なれば、待った末乗った電車で、旧友とバッタリ、な
んてことになれば、あの1分のおかげでよかったーということもある。

あの時に戻ってもう一度やりなおせたら。あの時、別の道を選んでいたらどう
なっただろう。電車の乗り遅れのように些末なことから、人生の一大選択まで、
誰もが考えることだろう。
そんな気持ちを、そのまま素直に映画にしてしまったのがこの作品だ。

ビデオ鑑賞にこんなに適した映画も珍しい。3つのヴァージョンの結末はまっ
たく違う形になるが、どこでどうなってこうなったんだ、と前に戻って確認・
比較できるのが楽しい。

結局のところ、最初にマンションを飛び出したとき、踊り場で出会う犬にびっ
くりするか、犬を連れた少年に足を引っかけられるか、思い切ってジャンプし
て飛び越えるか、で後の運命が変わっているのである。ほんの少しのタイミン
グのずれが、人とのすれ違い方、通りの走り方を変え、その違いがつもりつもっ
て、結末はガラリと変わる。自分の人生でもこんな小さな違いで、何かとてつ
もない違いが起きていたかもしれない。そんな想像をかきたててくれる。

走っているときすれ違う人々の行く末も、矢継ぎ早に挿入される写真で映し出
される。もちろん、ローラとのすれ違うタイミングによって、大きく違う運命
をたどる人もいる。見知らぬ人とも、知らず知らずのうちにこうして関わって
いるとしたら、うれしいような、怖いような。
この辺りも、巻き戻したり、チャプターで探したりして、細かい違いを何度も
確認する作業を楽しめるところだ。

もう一度やり直して、状況を変えられたら。あの時の選択がどう影響したのだ
ろう。そんな誰もが持つ疑問を題材に、ただ愛する人を救いたいという一途な
思いが加わって、楽しい作品に仕上がっている。走る、走る、走る、ローラが
爽快!

■COLUMN
アニメや早送り、画面の分割や写真の多用など、新しい技術を駆使した映像、
真っ赤に染め上げた髪の主人公、全編に流れるテクノ調の音楽、すべてが「人
工的」と呼ばれるようなものに満ちあふれている。しかし、よく考えれば、そ
の芯は実に人間くさい。

20分という限られた時間にローラが選ぶのは「走る」という身体を酷使する行
為であり(直前にバイクが盗まれていたために強いられた状況だが)、行き交
う人と、影響し逢って互いの運命を変えるというのも、人間関係の基本を思い
出させてくれるようなことだ。走るバックにかかるテクノ音楽が、イメージと
は逆に、とても人間っぽいリズムを刻んでいるように感じられる。
これが車だったり、バイクだったりしたら、カーチェイスを繰り広げたり、ス
リリングな映像を用いても、訴えかけるものにはならなかっただろう。いざっ
ていうときの人力。身体を使うのが、人を気持ちよくさせる。

長いこと運動嫌いだった私が、2年ほど前から、自転車にはまった。生まれて
はじめて、身体を動かすことの快感を味わった気がする。大げさに言えば、人
生変わった。決して体力のある方ではないが、気が向くと10キロ、15キロ先の
目的地なら自転車で行く。(案外見落とすんだが、15キロ行くと、15キロ帰っ
てこないといけなくて往復30キロになる。見落とすなって?)
「電車のが早いじゃない」と言われるけれど、自転車で、まとまった距離を進
むのって、燃料の力を借りずに、自分の力で行けるっていう充実感がある。走
ることに比べれば、歯車の力を借りているけれど、でもエネルギーは自分の足
で生みだしているから、道路が続く限り、私は私の力でどこにでも行ける、と
思える。

恋人を助けたくて急ぐローラを素敵にするのは、彼女自身の力で走ることだ。
身体を使うからこそ、爽快感と充実感が映画に満ちている。

■お知らせ
スポーツにもビジネスにも不案内な私ですが、
『Sports - Business View』( http://www.ss-ss.jp/ )というメールマガジ
ンにコラムを寄せました。
スポーツをイベントとして盛り上げる裏方の人たちや、文化として定着させる
べく尽力する人々など、興味深いインタビューで構成されたマガジンです。よ
かったらのぞいてみて下さい。

私が書いた号のバックナンバーはこちらです。
http://www.ss-ss.jp/mail/011.html


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転載には許可が必要です。

編集・発行:あんどうちよ

Copyright(C)2004 Chiyo ANDO

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2004.9.13 原題と英語題を追加


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