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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.015
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★
++ 寛容にならなくっちゃ ++


作品はこちら
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タイトル:「僕の妻はシャルロット・ゲンズブール」
     (公開題「ぼくの妻はシャルロット・ゲンズブール」)
製作:フランス/2001年
原題:Ma femme est une actrice 英語題:My Wife Is an Actress
監督・脚本:イヴァン・アタル
出演:シャルロット・ゲンズブール、イヴァン・アタル
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■STORY
実生活でもシャルロットの夫であるイヴァン・アタルが、有名女優を妻に持っ
た男の苦悩を描いたラブ・コメディー。

35歳のスポーツ記者イヴァンは、女優を妻にしたために、悩みが尽きない。道
を歩けばファンに取り囲まれて、蚊帳の外の自分はシャッターを押すハメに。
自分が電話すれば満席のレストランも、シャルロットが頼めば予約OK! と、な
んだかダメ夫の様相を呈している。

そんな折、シャルロットが、映画の撮影でロンドンへ行くことに。相手役はか
なりのプレイボーイと聞いて、すっかり不安になったイヴァンだが……

■COMMENT
シャルロットとイヴァン夫妻、両方が実名で本人役をやる、という設定。夫婦
のやりとりが自然なので、つい実話かと思ってしまうが、イヴァンの職業は俳
優ではなく、スポーツ記者、完全なフィクションである。

とはいえ、失礼ながら、イヴァン・アタルは、少なくとも国際的にはたいして
有名ではないお方。道を歩いていたらシャルロットだけがキャーキャー騒がれ
るというのは、本当のエピソードかも知れない。体型維持のために1日10リッ
トルの水を飲んだり、次々とやってくるインタビュアーに同じことを答えるな
ど、笑えるところが、とってもリアル。実生活のパロディでもあるのだろう。

「有名人の私生活のぞき見」のおまけつきコメディー。笑って笑ってハッピー
エンド、と、単なる軽ーい作品に見えるが、その底に流れているのは、女優な
んていう、しちめんどくさい女性を妻にしてしまった男が、どうやってその
<女優たる妻>を受け入れるのか、という話だと思う。

イヴァンをスポーツ記者と設定したのは、「演劇だの映画だのという芸術を理
解しないサッカーバカ」なキャラクターを作るためのようだ。服装はいつももっ
さりしていて、妻の出演作も見たことがない。「女房がラブ・シーンやって平
気かよ?」と下世話な質問にも、不安をかきたてられてしまう。芸能界という
ものをどこかでバカにした風。女優なんてことをしているが故に、自分の妻を
信じられなくなってしまう。

嫉妬し、誤解し、すれ違いが重なって、二人の関係に少しずつひびが入ってい
く。イヴァンの嫉妬はたいていの嫉妬がそうであるように、とても滑稽だ。け
れど、まったく違う世界にいるパートナーを理解するのが難しいのは、当然と
もいえる。自分の妻(夫、恋人)の仕事を理解できなくて衝突するカップルは
いくらでもいるんじゃないだろうか。
だから、有名女優を妻にしてしまったレアケースの物語と同時に、相手にどう
寛容になるか、という誰にでもありうる物語としても見られて、感情移入がで
きるのだ。

イヴァンが自分の無理解をどうやって克服するのか。右往左往がおかしいけれ
ど、健気な努力も見もの。

二人が出歩くパリの街、霧に包まれたロンドンの街、二都を結ぶユーロスター、
そしてセレブの日常。別世界をのぞいてみるのにもよき1本である。

■COLUMN
ヨーロッパの映画を見ていると、しばしばお目にかかるのが、ユダヤ系の人々。
身近なところにユダヤ系の文化を見かけないで育ってきているから、ユダヤ文
化が少しコミカルに描かれていても、いまひとつピンとこなくて、完全には理
解できていないのだなあ、と残念に思うこともある。

この作品にも、ユダヤ家庭の楽しい一面が繰り広げられるのだが、ここでの話
は具体的なので、ユダヤ人ならではのエピソードが、いつもよりずっと身近に
感じられる。
赤ちゃん誕生を待つイヴァンの姉夫婦。生まれてくる子が男の子だったら割礼
をするか。この夫婦、しょっちゅうケンカしていて、イヴァンが会うときには
いつもこのことでもめている。姉は敬虔なユダヤ教徒で、割礼をしないなんて
信じられない。その夫は、もう少しやわらかくて、ユダヤ人として生きるか否
か、本人に決めさせることなんじゃないかと、消極的。

習慣や宗教的背景の違いが原因でカップルがもめることも、よくあること。特
に、子どもの育て方となると、解決も難しくなる。これもユダヤ人の男の子の
割礼問題という特定ケースであると同時に、カップルみんなの共通問題でもあ
る。

どちらかが、どちらかに、もしくはお互いに、どこかで寛容にならないといけ
ない。横たわる問題が宗教でも、仕事でも、習慣でも。そして、カップル間で
も、友人の間でも、ビジネスの相手でも、人種、国と国との間でも。


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転載には許可が必要です。

編集・発行:あんどうちよ

Copyright(C)2004 Chiyo ANDO

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2004.9.13 原題と英語題を追加

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