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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.020
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★
++ 誰かに足りぬ、何かをもたらす、天空の使者 ++

作品はこちら
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タイトル:「WATARIDORI」
製作:フランス/2001
原題:LE PEUPLE MIGRATEUR 英語題:THE TRAVELLING BIRDS

製作・総監督:ジャック・ペラン(Jacques Perrin)
ナレーション:ジャック・ペラン
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■STORY
世界中に存在する渡り鳥が、どんなルートを通って、どのように飛ぶのか、克
明に追ったドキュメンタリー。
天文的学座標を利用し、地球の磁場にも鋭敏に反応する渡り鳥は、一度も通っ
たことのないルートでも間違えることなく、生まれ故郷へと渡ってゆく。

昼夜を通して飛び続ける鳥や、行く先々の水辺で翼を休める群れ。無事<約束
の地>へたどりつく者もいれば、突然の天敵襲来や、天候の悪化で、はぐれて
しまう個もいる。

スタッフは、3年間の月日をかけ、40カ国以上で鳥たちの旅路を追った。
超軽量飛行機にカメラを乗せ、鳥の群と一緒に飛んで、撮影した映像は必見。

■COMMENT 鳥はいいなあ、どこへでも飛んでいける。
そんな無責任に、鳥に憧れた私を許してほしい。

鳥たちが飛ぶ様子を、至近距離から捉えた映像は、はばたく筋肉の動きまで見
せてくれる。とても、自由でスムーズな飛行ではない。必死に翼を上下に揺ら
し、必死で空を進む。地上で指をくわえて見ていたところから、一転、鳥の目
線で見てみれば、それはとてつもない命の物語だ。

天空での映像がこの映画の一番のみどころ。羽を休める姿も含めて、知らなかっ
た鳥たちの世界には目を見張る。
しかし、それだけにとどまらない。見ていると、じんわり涙が溜まってくるよ
うな、何か忘れ物に気づいたような、心の変化が訪れる。

この作品を見て、「渡り」の姿に心を躍らせるのは、皆共通のことだろうが、
その他のどこに関心を示すのか、きっと人それぞれ、バラバラなのではないか。
そして、その人独自の関心の持ち方は、きっとその人に足りない何かに起因す
るのだと思う。

例えば私なら、鳥たちがひたすら生き抜こうとしている様子が、小さな矢のよ
うに胸に刺さって抜けていかない。
生まれて初めて飛ぶルートでも、仲間がいなくなっても、雛を捕られても、ヒ
モが足に巻き付いても、ただ、生き延びなくてはならないのが彼ら。
野生動物なのだから当たり前なのだが、天災、天敵、不運、すべてを乗り越え
て、ただ愚直なまでに力強く生きる姿が私にはまぶしい。

自他共に認める、バイタリティとは縁遠い私。でも、あと一歩でも力強くなれ
るかな、と怠惰から引きはがしてくれるようだった。刺さった小さな矢は、私
を傷つけるのではなくて、あと一歩の力を貸し続けるだろう。

のんびりした気分が足りなくなっている人なら、鳥たちが、他の植物や動物と
一緒に、うららかに時間を過ごす水辺に関心が向くだろうし、他者のぬくもり
が恋しい人には、仲良く子育てするつがいや、求愛のダンスが目に残るかもし
れない。

雑踏にうんざりした人には、ただひたすらに飛ぶ場所としてある空が頼もしい。
どん欲さを欲している人なら、もしや、抜け目なく雛を狙う猛禽類の眼差しに
ひかれるや、なきや。

足りない何かに訴えかけて、何千キロの旅路をゆく鳥たちに乾杯。

■COLUMN
いわゆる大自然の映像が多い中で、ふっと人里を通るシーンがはさまれる。
パリのセーヌ川、自由の女神のすぐ隣を鳥たちが飛んだり、上空を飛ぶ鳥を上
から映せば、遙かな地上にモン・サン・ミッシェルがのぞく。別の世界のでき
ごとを見ているような気分になっているときに、ヒトの世界との関わりが見え
て、少しうれしくなった。

そんな場面をよく覚えていたからから、ヨーロッパが舞台のような気がしてい
た。ヨーロッパと北極方面を往復する者が多いのは確かだが、しかし、改めて
見てみたら、アメリカ大陸や(N.Y.の映像もあった)、アフリカ大陸へ赴く鳥
もたくさんいて、中には、北半球と南半球、両方を渡る種もいる。うぅーん、
うっかりしていた。

だから、よくよく考えると「欧州映画紀行」に取り上げる作品としてふさわし
くない、ともなりそうなのだが、渡り鳥の美しさに免じて許してもらおう。旅
する鳥には文字通り国境も、地域名もない。ただ、遙か昔から約束されたルー
トがあるのみ。

空気が澄んだ拍子に、涼しさが顔を撫でた拍子に、物思いにため息をついた拍
子に、何かと空を眺めることが多い季節だ。天空の使者たちに思いを託すのは
いかが。

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転載には許可が必要です。

編集・発行:あんどうちよ

Copyright(C)2004 Chiyo ANDO

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