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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.022
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★
++ やり遂げる情熱とそれへの愛 ++

作品はこちら
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タイトル:「映画に愛をこめて アメリカの夜」
制作:フランス・イタリア/1973年
原題:La nuit américaine 英語題:Day for Night

監督・共同脚本・出演:フランソワ・トリュフォー(François Truffaut)
出演:ジャクリーン・ビセット、ジャン=ピエール・レオ、
   ジャン=ピエール・オーモン、ナタリー・バイ
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■STORY
ある映画の撮影開始から撮影終了までを描いた作品。ドキュメンタリータッチ
だが、フィクションである。
ニースのスタジオでは「パメラを紹介します」という映画の撮影が行われてい
る。わがままな大物女優や、神経質な俳優、現像所の停電など、現場は問題山
積み。監督の思惑通りに作業は進んでいかない。

技術的な面での映画の作り方を垣間見て、映画の現場で働く裏方やエキストラ
の人の様子を知って、楽しめる。次々起こる難題も、見ている側は大いに笑え
る。
フェラン監督役はトリュフォー自身が演じている。

■COMMENT
実際の作品では、ほんの何十秒か、一、二分になってしまうシーンを撮影する
のに、たくさんの機材と、たくさんの人々がいる。
エキストラや、スタッフが有機的に動いて、撮影がなされる。
撮影現場では当たり前なのかも知れないが、ふだん見ている映画が、こんな風
に大作業で作られていることに驚く。
スタジオにセットで作った広場の撮影風景が描かれる冒頭部分は、実際に見学
で見に行ったかのような気分になれる。圧巻である。

監督役をトリュフォー自身が演じていることもあって、まるで、ほんとうにト
リュフォー映画の撮影現場にいあわせたような錯覚に陥る。実際、細かい演技
指導をする様子は、トリュフォー自身にそっくりだったそうだ。

しかし、これはフィクション。次から次へと起こるトラブルに笑わせてくれる
ところは、完璧なシチュエーションコメディー。
気の毒なんだけど笑っちゃったり。失敗続きの大女優には、まわりにもこうい
う偉いおばちゃんっているよな。失恋してまわりに大迷惑をかける俳優も、ど
こかでこんな輩を見たことがあるな、なんて。

映画作りといえど、要するに、人間がたくさん集まって目標に向かう。私たち
が日常体験する、チームやグループや、組織と、何ら変わりない。

「パメラを紹介します」のためにカメラが動き、スタッフが働く様子を眺めな
がら、当たり前の事実に気づく。このフレームの外側には、「アメリカの夜」
を撮るためのカメラや、スタッフがいるのだと。なんだか途方もない広がりを
見せられたように、くらくらする。よほど映画が好きな人でなければ、こんな
作業はできるまい。
ひょっとしたら、この中のトラブルのひとつくらいは、この「アメリカの夜」
の現場で本当に起こったことじゃないかと思わせられる。それくらい、皆が自
然に現場を表現しているのである。

タイトルの<アメリカの夜>とは、フィルターをかけて撮影し、日中撮ったシー
ンを夜のシーンに見せる技術のこと。

■COLUMN
テリー・ギリアムの、いろんな事情でお流れになった映画「ドン・キホーテを
殺した男」の、その「いろんな事情」をつめこんだ、「ロスト・イン・ラ・マ
ンチャ」は、たぶんこの「アメリカの夜」を意識して作られていると思う。保
険会社の介入の話なんかは、「引用」としてわざとよく似せているんだろう。

本来「メイキング」を撮るつもりでまわしていたビデオが「”アン”メイキン
グ」のドキュメンタリーになってしまうとは皮肉なものだが、転んでもただで
は起きないしたたかさと、絶対に映画を撮りたいという強い情熱も感じられる。

土砂降りで流される機材、ロケ地の騒音、俳優の降板…、これでもかというほ
どに、襲いかかる困難に、つい大笑いしてしまう「”アン”メイキング」だけ
れど、最後に再チャレンジを誓うモノローグには、少ししんみり。底に流れる
のは映画への愛だ。
「アメリカの夜」も、次から次へと起こるアクシデントに笑わせられながらも、
あきらめず、ただでは起きないしぶとさで、映画を作り上げる「映画人」の愛
に心が動かされる。

ドキュメンタリーを含めた、こういう内幕物が人の心を捉えるのは、すごいこ
とをやっているのだけれど、私たちと同じじゃん、と親近感を持てるからでも
ある。小さいことで大騒ぎをして、うまくいかないことだらけ、失敗の連続で、
いい人も嫌な人もいい加減な人もいて。でもその中でなんとかやっていく。
舞台裏が、私たちの日常と変わらないと知れば、親近感が沸く。

大人になって、すっかりなくなってしまった、仲間みんなで協力して好きな何
かをやり遂げる、なんてことに目を向けたくなる。
忘れていた愛と情熱を、お土産にしてくれる作品。

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転載には許可が必要です。

編集・発行:あんどうちよ

Copyright(C)2004 Chiyo ANDO

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