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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.024
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★
++ 天使の目線で見るロンドン ++

作品はこちら
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タイトル:「ひかりのまち」
製作:イギリス/1999年
原題:Wonderland

監督:マイケル・ウィンターボトム(Michael Winterbottom)
出演:ジーナ・マッキー、シャーリー・ヘンダーソン、
   モリー・パーカー
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■STORY
ある家族の週末4日間を淡々と映し出す。

三姉妹の真ん中、カフェのウェイトレスをして働くナディアは、伝言ダイヤル
で、恋人を探す日々。なかなかいい人には巡り会えない。
9歳の息子と二人暮らしをする姉のデビーは美容師。ナディアよりは幾分サバ
サバと、夜遊びには熱心だ。
妹のモリーは、臨月を迎えているが、どこか落ち着かない様子。

すっかり関係が冷え切った姉妹の父母。末の弟は、両親の不和にうんざりして、
家を出てしまい、今は連絡もとれない。

■COMMENT
手持ちカメラで、クルー全員が街に飛び出した、リアルな雰囲気がただよう。
ロンドンのいつものカフェ。いつもの人々。いつもの街並み。
観光でおなじみの二階建てバスも、住民のいつもの足となり、気取りのない日
常を見せてくれる。

市井の人々の、ふつうの姿が映し出されていくが、いや、ただリアルというに
は、何かが違う。
画面に大写しされる、登場人物たちの顔。限りなくアップに、細かい表情まで
映りこむ。
私はこんなふうに人の顔を見ることがあるだろうか。話す相手の顔を見るだろ
うか。

人の目をしっかり見ないでいる私の欠点はさておいて、こんなに間近に、人の
顔を見る角度って、どんな時があるだろう。恋する相手なら、視野ぜーんぶ、
顔、という場合もあるだろう。だけれど、いろいろな人の日常を、観察するの
に、こんな角度って、何だろう。
この視点は、天使だ。

独立した4人の子どもと、その両親、その周囲の恋人や夫や、元夫。ある家族
のいつもの生活の、ある4日間を切り取った物語は、彼ら家族の様子を見てお
いでと言い渡された、天使から見たかのよう。

伝言ダイヤルで知り合った人と話す、ナディアの顔を間近で見る。かわって相
手の表情を見る。「どんな人だろう? ナディアは気に入ったのかな」。
モリーの夫は、何か隠し事をしているらしい。彼は、どこにいて、何している
かな。
デビーの新しい恋人は? 今日のデビーは楽しそう?

入れないところに入り込んで、間近なところから、皆を観察する。だけれど、
天使は見守るだけ。物語を変えることもできないし、誤解を解くことも、緊急
を知らせることもできない。
でも、じっくり見ることはできる。彼らの不幸せと、幸せと、本音を。

物語には、大きな事件は起きない。とは言っても、出産、恋愛、夫婦の不和、
などなど、どれもこれも、もしも自分の身に起きたら、それだけで頭がいっぱ
いになるような大事件。皆が抱える可能性のある問題を、皆と同じように抱え
る人物たちだから、感情移入できる相手や事件も多いだろう。

天使のように、どこか私に似た彼らを見守って、素顔のロンドンをのぞく。
いい「旅」になる1本。

■COLUMN
ひらがなで「ひかりのまち」って、なんだか、近未来が舞台のアニメみたいな
印象を受けないかな。何か大きな戦争があって、人々は死に絶えて廃墟と化し
た町に、生き残った少年と少女が……、いかにもありそうじゃない?

「光の街」でも「ひかりの町」でも「街の灯」(?)でもなく「ひかりのま
ち」ってなんだか、意味深だ。なんでまたひらがなで「ひかりのまち」にした
のか、よく分からない。しかし何度も登場する、暮れた町に、部屋の灯りや、
街灯の光が瞬いていく様子は、確かに美しい。

けばけばしいネオンと、いくつものビルの街頭スクリーンに満ちた、世界有数
の「光の街」トーキョーに住む人間からすると、ヨーロッパの都会の夜は、ず
いぶん暗く感じるけれど、大事なのは、明るさの度数ではなくて、そうやって
光を眺めることで、世界がどう映るか、ってコトだ。

原題の"WONDERLAND"には、苦しいことや、悲しい思い出や、やりきれない寂し
さをかかえながら、それでもみんなが時を過ごす、素敵な「ワンダーランド」
という意味が込められている。なんでもないいつもの街並みに、なんでもない
いつもの人々が集う、その街が、夜を迎え、瞬く光に彩られるのを見るとき、
私たちの目には、その街が違って映る。

そして、それは、特定の街に限らず、私たちの暮らすこの世界が違って見える
瞬間。寂しかったり、辛かったり、退屈だったりで、不平と不満を漏らしてい
たこの世界が、ワンダーランドに見えてくる瞬間なのだ。

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転載には許可が必要です。

編集・発行:あんどうちよ

Copyright(C)2004 Chiyo ANDO

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