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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.025
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★
++ 流行歌に思いをのせて ++

作品はこちら
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タイトル:「恋するシャンソン」
製作:フランス・スイス・イギリス/1997年
原題:On connaît la chanson 英語題:Same old song 

監督:アラン・レネ(Alain Resnais)
共同脚本・ニコラ役:ジャン=ピエール・バクリ
共同脚本・カミーユ役:アニエス・ジャウイ

その他の出演者:サビーヌ・アゼマ、アンドレ・デュソリエ、
        ランベール・ウィルソン
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■STORY
フランス人なら誰もが知っている歌に、俳優が口パクで合わせる画期的なアイ
ディアを結実させた作品。
男女7人の恋と仕事と生活を、コミカルに精緻に描く。

歴史の論文を準備しながら、パリの史跡ガイドのバイトをするカミーユ。
姉オディールのアパルトマン探しにつきあった折に、不動産屋のマルクに出会っ
て恋がはじまった。マルクはハンサムで誠実。オディールも妹の幸せを喜んで
いる。
しかし、カミーユを密かに想っていたシモン(実はマルクの部下)は、気が気
ではない。

オディールのもとには古い友人ニコラが現れる。親密な二人の雰囲気に、夫は小
さくジェラシーを抱く。

■COMMENT
フレンチポップス好きには堪らない、特に好きでなくても面白い、
観たら幸せな気分になれる作品だ。

何といってもカギは歌である。

場面に合わせて、登場人物の台詞の替わりになったり、心情をあらわしたり、
30曲以上の流行歌が、そのまま流れる。俳優が歌うわけではなくて、オリジナ
ルの曲がそのままかかる。俳優は、その歌詞に合わせて口は動かす。

大真面目に流行歌に思いを託すようなものだから、一見ばかばかしくも見える
んだが、そのばかばかしさが、絶妙なバランスで品よく、面白くしている。そ
こでそう歌うか! と感心するやら、歌にすると、台詞や仕草だけでは表せない
それぞれのキャラクターがよく伝わってくることもある。イメージをかき立て
るのに、みんながよく知っていて唇にも乗せる歌は、最高の道具なのだ。

フレンチポップスを知らなくても大丈夫。曲名がわからなくても、聞き覚えの
ある曲に出会えるだろうし、始めて聴く曲でも、そこは「ポピュラーソング」
の力。ほんの一片を聞いただけで、その歌が表す雰囲気は感じることができる。

演歌、フォーク、ロック、アイドル、新旧織り交ぜて、日本で同じようなこと
をしたら、どうなるのかな、と想像してみるのも楽しい。今更やっても「パク
リ」と言われるだろうけれど、そんな作品も見てみたい。

ニコラの妻役ジェーン・バーキンが、自分の歌に口パクする「おまけ」もつい
てくる。

もちろんストーリーも忘れちゃいけない。
ちょっとした行き違いや誤解が笑いを産んだり、当人は真面目に悩んでいるけ
れど、端から見たら笑い事なんてことや、逆にやきもきさせられることなど、
心理の描き方がうまい。人間の弱さや嫌な部分を隠さず、それでいて、それで
も愛すべき人物に描かれている。

論文も成功して、素敵な恋人が現れて、順風満帆に見えるカミーユが、実はど
こかで無理しているところ。事業がうまくいかないのに、つい見栄を張って、
羽振りよく見せてしまうニコラ。頭痛もしたことがないほどエネルギーがあっ
て、颯爽とした雰囲気を持つオディールが、ふとしたことでポキンと折れてし
まいそうな弱さを持ってるところ……、などなど。きっと多くの人に、心当た
りと親近感が満載だ。

部屋探しのシーンが多く出てくるから、パリでの生活事始めを、少し体験する
こともできる。
カミーユのガイドも、観光気分を味わえるスパイスだ。(冒頭、日本人観光客
の相手もしているし!)

■COLUMN
ニコラが動悸やら息切れやら、ありとあらゆる身体の不調を訴えて、医者をは
しごする。この作品に私が、並々ならない親近感を覚えるのは、このニコラの
言動のおかげでもある。

私もかつて、あそこがおかしい、ここがおかしい、と、いろんなトラブルを抱
えて、医者のはしごをしたもの。
たまたま3日続けて薬局に処方箋をもっていくハメになり、薬剤師さんに「あ
ら、今日は眼科さんですか」と言われたときには「ほっとけ!」と胸の中で独
りごちた。

微熱、じんましん、どれも「気のせい」ではないのだ。何か重大な病気が隠れ
ているに違いない、とその頃には思った。だが結局、気のせいではないにして
も、自分では気づかないところで精神的に無理をして、それがサインのように
身体に出てくる、と思うのが正解のようで、心配だけが募る医者のはしごは、
いつしかやめてしまった。

この手のことは、ふと誰かにもらしてみると、似たような体験を持っている人
がいるもので、体験が共有できたとき、新しい世界が拓けたように、ほっとす
る。苦手だと思った人が、急に気の合う人に見えたり、体調の悪さにばかり目
がいって、忘れ捨てていた日常のいいことが、鮮明に感じられたり。
そんなところが、とてもリアルに描かれているところがいい。でも同類相憐れ
むだけでは、べたべたしてしまう。リアルさのためには、オディールのように、
すごく元気で「そんなの全然分からない!」ていう人もいてくれないといけな
い。

いろんな人がいて、いろんな可能性があることに、あらためて気づかされる。
こんな映画との出会いも心地よい体験だ。

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転載には許可が必要です。

編集・発行:あんどうちよ

Copyright(C)2004 Chiyo ANDO

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