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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.026
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★
++ 珍客の迎え方 ++

作品はこちら
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タイトル:「卵の番人」
製作:ノルウェー/1995年
原題:Eggs

監督・脚本:ベント・ハーメル(Bent Hamer)
出演:スヴェレ・ハンセン、ヒエル・ストルモーン、
   レーフ・アンドレ
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■STORY
雪深いノルウェーの片田舎。老いた兄弟ファーとモーは、長く一緒に暮らして
いた。

ラジオを聞いて、食事をして、皿洗いをして。
クリスマスなら、ツリーを用意して、少しは飾り立ててごちそうも食べる。
宝くじはやっぱりいつも当たらない。
ルーティンな毎日。

そんなある日、ファーがかつてスウェーデンに行ったときに作った息子・コン
ラードが滞在することになる。母が病気になったのだ。
コンラードの登場で、二人の今までのリズムが、少しずつ狂っていく。

■COMMENT
二人の静かな生活は、どこか童話か、絵本のような世界だ。
森の一軒家で、老いた兄弟が、トランプやクロスワードパズルに興じながら、
ゆったりと流れる時間。
二人の掛け合いや、細かなエピソードは、時に「ふふっ」と笑ってしまうおか
しさに包まれている。気に入りの絵本の好きなページをぱかっと開いて現れる、
楽しさやかわいさ。そんなものにたとえると、二人の世界の雰囲気が伝わるだ
ろうか。
そこへ、珍客がやってくる。コンラードは珍客も珍客。

スキンヘッドにぎょろりとした目で、車椅子に一日中座っている。雌鳥そっく
りの奇声をあげる。好物はバナナとミルクをミキサーで混ぜた「ミルクセー
キ」。大事にしているのは、様々な種類の鳥の卵を分類し並べた木箱だ。
じゃあ、何か悪さをするかといえば、そんなことはない。ただちょっと、その
姿、奇声、卵への異常な執着などが、なんだか薄気味悪い。怖い。でもちょっ
と愛嬌がなくもない? …ないか。

突然、そんな訪問者が生活に入り込んだら、「不条理」ってやつだ。でも、
ファーにとっては大事な息子であって、一生懸命世話をする。スウェーデンど
ころかオスロにも行ったことのないモーにとっては、甥っ子とはいえ、見たこ
ともない外国人。コンラードが来て以来、調子は崩されっぱなしである。

おしゃれでさりげない笑いがいっぱい詰められながら、ラストはせつない。
私には、せつなかった。

このラストにどう思うかは、人によってかなり違うのではないかと思う。ひと
りでこっそり見るのにも適した映画だけれど、誰かと一緒にみて、感想を言い
合うのもいい。
ご覧になったら、私のところにも、ぜひ感想を送ってくださいね。

■COLUMN
外国の映画を見る楽しみのひとつは、知らない食べ物や、なじみのない習慣に
出会えることだ。時には真似したくなるようなものもある。
この映画の場合、物語世界そのものが寓話的だから、現実にどれだけ近いのか
はよくわからないけれど、この際それは問わない。

冒頭アップになる兄弟の家の階段は、左右が一段ずつずれた不思議な形。最初
にこの階段が長く映って、映画世界の不思議な雰囲気を象徴しているのだけれ
ど、ひょっとしたらこれ、狭い日本の家にはいいアイディアなんじゃないかな。
小さいお子様のいるご家庭には勧められないか。

コンラードのリクエストって事で、ファーが奮発して買ったブラウンのミキサー
と大量のバナナ。作るのは牛乳とバナナをミキサーにかけるだけの「ミルクセー
キ」なのだが、栄養もあるし、忙しい朝には最適なのでは? 私の家にはミキ
サーがないし、第一バナナが苦手(でも、バナナマフィンとかバナナ味のお菓
子は好き)だから、私は遠慮しておくけれど。

ミキサーもバナナも、なじみの商店の人が家まで配達してくれる。一緒に配達
されるのは、シロップやミートボール缶や、ラップや、肝油の錠剤などなど。
ヨーロッパの映画では、こういう配達の風景をたまに見かける。地域社会が崩
壊したとか、ご近所づきあいがないとか、昔ながらの商店街がシャッター通り
になったとか、いろいろ問題が噴出している日本では、こういう光景を見習っ
て、再生できないもんだろうか。
といいながら、じゃあ私がやれるかな、と考えたみたら、なじみの商店の人に
配達してもらって世間話なんて、めんどくさい、が本音なのだな。でも、何か
うまくはまったらやってみたい、というのもウソじゃない。

すぐに生活に取り入れるのは難しいけれど、よその世界の姿には、何かしらヒ
ントになるものがあって、おもしろい。
よくできた映画ほど、その世界を本当に見てきたような気にさせてくれて、
「家にいながらヨーロッパ旅行」は決して詭弁ではないのである。


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編集・発行:あんどうちよ

Copyright(C)2004 Chiyo ANDO

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