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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.027
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★
++ 世界の秘密を知りたいならば ++

作品はこちら
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タイトル:「ベレジーナ スイス最後の日」
製作:スイス・ドイツ・オーストリア/1999年

原題:Beresina oder Die letzten Tage der Schweiz
英語題:The Last Days of Switzerland

監督・脚本:ダニエル・シュミット(Daniel Schmid)
出演:エレナ・パノーヴァ、ジェラルディン・チャップリン、
   ウルリッヒ・ノエティン、マルティン・ベンラス
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■STORY
高級コールガールのちょっとした行動が、国中を混乱に陥れる騒ぎへと発展す
る。
スイスの政財界を風刺したブラックコメディ。

ロシアからスイス国民を夢見てやってきたコールガール・イリーナは、その純
粋無垢なキャラクターと、抜群の容姿で、政財界の人気者。銀行家、軍人、政
治家、あらゆる要人がイリーナの許を訪ね、甘い時間を過ごしていく。

コールガールの斡旋をするシャルロットは、弁護士ヴァルト博士と組んで、ス
イス国籍取得をえさにイリーナから要人の秘密を聞き出そうとする。二人は国
の上層部に入り込むことをたくらんでいるのだ。
盗み聞きはしたくないけれど、スイス国籍は欲しい。イリーナは、話をでっち
あげてその場をしのいでゆくが、やがてそれが、大きな政界スキャンダルとつ
ながって……

■COMMENT
今回の映画は、ビデオ店で見つけるのが難しいかも知れない。
あるところにはあるんだけれど(たとえば我が家の近所のさして大きくない
TSUTAYAにはある)、見つからなければさっぱり見つからない。

風刺が効いて楽しくて、適度にナンセンスで適度におおげさで、コメディの王
道を行くかのような作品。なんで、もっと多くのビデオ店に置いてないのかな。
不思議だ。風刺コメディとして描いているとは言え、どこか謎の国スイスの
<ホントの秘密>がのぞけるような作品、この出回らなさ具合も、神秘的魅力
のひとつと考えている。

旧東側諸国がこぞって加盟するEU地図の中で、ぽつりと白い国。2年前までは、
国連加盟国を塗りつぶした地図の中でさえ、ぽつりと白かった国。映画や小説
の中で、ヤバイ金は必ず「スイス銀行」に振り込まれる。美しいアルプスは雄
大で憧れの的なれど、他国のどことも与しないその社会は霧に包まれている。

イリーナに入れあげた将軍が、<国家の秘密>であるアルプスの山肌に掘られ
たシェルターに彼女を連れて行く。大戦中にも要人達はそこに隠れて、パーティ
だってできるようになっていた、という、ずいぶん豪華なホールや寝室を案内
する。「自分たちだけは助かろう」という権力者の身勝手な行動に、嘲笑を隠
せないシーンだが、山肌のあちこちに、シェルターが掘られているということ
は事実らしい。
一般家庭にも地下シェルターがあるというスイス社会の一面を、存分に楽しま
せてくれるシーンだ。ちなみにこの美しい山々でのシーンには、お決まりの「写
真を撮りまくる日本人観光客」が登場。

そんな謎の国スイスでも、権力者の俗物ぶりと言ったら、どこの国も同じ。期
待を裏切らない。正しくは「権力者に対するイメージ」かも知れないが。
毎回同じ自慢話のジジイ。それを取り巻いて愛想をふりまくジジイ予備軍。毎
日誰かが主催のパーティで、根回しやら策略やらを練る輩。私の国の大物たち
も、どうも同じようなことをしているようにしか見えない。

国家レベルの話でなくても、ちょっと偉くなっちゃった俗物てのは、ホントに
うんざりするほどいるもので、上司、取引先、親戚のおっちゃん、きっとまわ
りに似たようなのがたくさん見つかる。

そんなジジイたちが、なんの力もない娼婦に振り回されるのだから、痛快だ。
イリーナがただの高級娼婦ならば、面白みも説得力も半減なのだけど、いわば
「天然」のキャラクターに仕立ててあるのがいい。
彼女はただ、スイスを愛していてスイス国籍が欲しい。ロシアには彼女の呼び
寄せを待っている家族がわんさかいる。

彼女を求めてやってくる要人達を「親切なお友達」として、一緒に時を過ごす
ことを楽しんでいる。要人達は彼女の母性的な天然に癒されるのか。彼らの楽
しむプレーと言えば、覆面をかぶるとか、好みの衣装を着せてスカートの中を
のぞくとか、そういうジャンルがあるのかは知らないが、「お子ちゃま変態
系」。
ふだん権威のただ中にいる人って、いかにもそんなことしそう。彼らのプレイ
ぶりは、エロティックというよりコミカルで、快楽を極めるための創意工夫が
笑いを誘う。

アップテンポな展開で、驚きの結末に。風刺的寓話の一級品!

■COLUMN
今年の夏に、パリで秘密の地下映画館が見つかった。映画を見られるだけでは
なく、レストランも完備されたりっぱなサロンで、警察と電力会社が調査に入っ
たときには、「我々を捜すな」という張り紙が残されていたという。
(参考ページ)

このニュースにはなんだか興奮してしまった。警察が踏み込んだ際、大型の鍋
とコードのつながったものがあって、「すわっ、爆弾?!」と慌てたらしいが、
なんのことはない、ただの電源コードの近くに鍋が落ちていただけ。秘密の地
下組織は、悪の相談をしていたんでもなんでもなく、映画や食事を楽しんでい
ただけらしいのだ。
べつに隠れる必要のないことを、手間ひまかけてわざわざ、隠れて地下でやっ
ていた。この無駄な行為が、なんだか「かっこいいー!」。

この話がすっかり気に入って、ちょっと調べてみたら、こうした会員制の映画
館の存在はともかくとして、大昔に使われた地下通路が張り巡らされているこ
とについては、わりとよく知られた事実らしい。地下通路マニアのような人も
いて、こっそり入り込んで冒険を楽しむのだ。(危ないし、禁止されてますよ)

エミール・クストリッツァの「アンダーグラウンド」という映画では、ヨーロッ
パの各都市が地下通路で結ばれているという壮大な寓話が成り立っていた。か
の大陸に住む人たちにとって、地下に知らない秘密の世界があることは、想像
をかきたてられるテーマなのかも知れない。

そしてこの「ベレジーナ」。地下に張り巡らされた秘密の世界、大物が暗躍す
る秘密の世界、暗号「ベレジーナ」によって結ばれた結社。風刺を笑いながら
も、スイスの国中にシェルターがあるのは事実。この現実世界のどこかに、秘
密の世界に接触する入り口があるのではないか、そんな甘く危険な招待状をこっ
そりしのばせた作品だ。

■HP更新情報
「“ネタバレあり”のつぶやき」コーナー
「僕の妻はシャルロット・ゲンズブール」を追加しました。

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編集・発行:あんどうちよ

Copyright(C)2004 Chiyo ANDO

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