一覧へ ←前へ →次へ 登録フォーム HOME

ネタバレありのつぶやきへ


============================================================

*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.028
============================================================

「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★
++ はかなくも、断ちがたく強い女の友情、と人生 ++

作品はこちら
----------------------------------------------------------------------
タイトル:「ミナ」
製作:フランス/1994年
原題:Mina Tannenbaum

監督・脚本:マルティーヌ・デュゴウソン(Martine Dugowson)
出演:ロマーヌ・ボーランジェ、エルザ・ジルベルスタン
----------------------------------------------------------------------
  ケータイ等に作品の情報を送る
■STORY
1958年、パリ。ミナとエテルは、同じ病院で3日違いで生まれた。7歳の時バ
レエ教室で知り合い、以来二人は幼なじみの親友だ。
60年代、70年代、80年代と、二人の恋、仕事、友情を追った物語。
キャラクターのまったく違う二人が、相談しあい、反発しあい、関係も少しず
つ変わっていく、女の友情と生き方をじっくり見つめた作品である。

■COMMENT
親友となるミナとエテルの性格は対照的。ミナは絵を描くのを好み、どこかクー
ルで個性派だ。彼女に比べてエテルはもう少し「よくいる女の子」。バレエ教
室で知り合ったとは言え、エテルは素敵なダンサーを夢見て習い始めたのに対
し、ミナは親に無理矢理連れてこられたのだった。

女の子は、ある程度大きくなってしまうと、「自分と性格が合うかどうか」に
すごく敏感で、うまいことえり好みをするから、かなり小さい頃に出会って仲
良くならないと、こういう関係は築けないだろう。そんな二人の友情を見守る
のは楽しい。

思春期の二人はと言えば、エテルは太めの体型が、ミナはビン底メガネが、コ
ンプレックスだ。16歳の頃の二人の恋は、切ないけれど、自分を一生懸命よく
見せようと必死な姿は、もう倍以上年をとってしまった私から見ると、ほほえ
ましい。きれいになろうとして、変な髪型になって外出できなくなってしまっ
たミナなんて、おかしくて笑っちゃうけれど、そのくらいの年頃だったら、世
界が沈没するほどの大問題だったもんな。

自分の恋を報告しあう二人だけれど、ホントは、相手の話なんかそれほど聞き
たくなくて、自分の話ばかりしたかったり、相手をちょっと意地悪に批評した
り。そんな口には出さない心の中でのつぶやきなんかも、映画には出てくる。
この辺りで、女の友情は怖いとか、内にあるドロドロしたものが見えて嫌だと
か思う人もいるみたいだけれど、私は面白いと思うし、こういう描き方がとて
も好きだ。実際に出した言葉と、飲み込んだ言葉があることって、日常的なこ
とだし、女同士に限った事じゃなく、男女でも男同士でも、ビジネスの場面で
も、いろいろあるんじゃないかな。

時には自分自身でも気づかないまま、相手を腹の中で批判していることもあっ
て、ミナとエテルのやりとりを見せられて、「そういえば、あるある」とはじ
めて気づくようなことも。人の心理を鋭く観察している。

ミナは新人画家として注目を浴びるようになり、エテルはジャーナリストとし
て歩み始める。そもそもキャラクターの違っていた二人は、大人になって、さ
らに別の種類の人生をゆく。長じてからだけの二人を見たら、どうしてこの二
人がそんなに仲がいいのかな、と疑問に思うかも知れない。

ファッションなんかも全然違う。ミナは芸術家(にもいろいろいるけど)にふ
さわしく、中性的でカジュアル、個性的な雰囲気。エテルは、女性っぽさを強
調した、男性受けもよさそうな服装。この映画は、ファッションの変遷も興味
深くて、60、70、80年代、主役2人ばかりでなく、道行く人のファッションに
までしっかり凝って、その頃の街にタイムスリップをしたかのようだ。

古い価値観に支配された親との軋轢や、友情や恋の変化、仕事での成功、失敗。
女の子も男の子も、誰もにふりかかる「人生のひとコマ」がたっぷり散りばめ
られている。

■COLUMN
いわゆる5月革命といわれる、学生の蜂起を伝えるラジオのニュースが彼女ら
の背後に流れる。その年二人は10歳。
この運動は、学生や労働者のものだけでなく、女性解放運動でもあった。この
事件を機に、フランス社会は中絶と避妊ピル解禁へとむかっていく。

10歳で、自由へまっしぐらと進む社会がはじまった。彼女らが大人になるとき
には、女性が恋を自由に楽しみ、自立して生きることが当たり前になっていた。
圧倒的な自由の空気の中で大人になり、親の世代とはしばしば対立する。しか
し、何にでもなれる、自分の意志を通すことができる、という希望とともに年
を重ねていった世代だったろうと想像する。

日本社会も同じとは言えないが、高度経済成長で富を手に入れ、学生運動が沈
静化した後は、一通りの自由を手に入れた。女性でも高学歴の人は増えたし、
キャリア・ウーマンも世に認知された。雇用機会均等法は85年まで待たなくて
はならなかったが、細かい実態はさておき、女性でも、能力を発揮して仕事を
すること、独身をとおしたりすることも珍しいことではなくなった。

私が生まれたのは1971年。女性も自立して生きることがもてはやされ、男女の
別にかかわらず、「好き」を仕事にしたり、旧来のスタイルから自由になって、
自分らしく生きることがカッコイイとされる空気の中で、私は大人になった。
別に皆が皆、疲れてつり革にぶら下がるサラリーマンをやらないでも、自分ら
しく、自由に生きたらいい。本当の自分が生かせる職業に就いて、自由に生き
たらいい。世の中の空気は私たちにささやいていた。「自由」いい言葉だ。
自由の中で、自由に自分を生かす。それが時代が求めた正しい生き方だと思っ
た。

大人になって、思ったほど自由は実現しないし、何事も自由だとしたら、それ
は案外辛いことだとわかった。だけれど私は性懲りもなく、昔夢描いた自由の
色はどんな具合だったかと、手持ちのクレヨンで画用紙を塗りつぶしかねてい
る。

ミナのような女性には誰もが憧れる。個性的なアーティスト。旧来のスタイル
から自由に、やりたいことで食べていける。
だけども、アーティスティックに生きすぎれば、やがてつき合いきれず。
女達がうまくやったな、とうらやましがるのは、昔ながらの「女性らしさ」を
少しずつ、上手い具合に使いながら生きていったエテルの方だろう。

自由は誰にとっても必要だ。しかし、時にその自由に自分がおぼれることもあ
る。誰もが満喫した自由さの中で、その犠牲になる者が間違いなくいる。それ
がミナだったと思う。

---------------

感想・問い合わせはお気軽に

転載には許可が必要です。
リンクは自由です。

編集・発行:あんどうちよ

Copyright(C)2004 Chiyo ANDO

---------------
→筆者にメール

ネタバレありのつぶやきへ


一覧へ ←前へ →次へ 登録フォーム

HOME