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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.030
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★
++ 子どもを愛しはじめる風景 ++

作品はこちら
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タイトル:「コーリャ 愛のプラハ」
製作:チェコ・イギリス・フランス/1996年
原題:Kolja 英語題:Kolya 

監督・共同脚本:ヤン・スヴェラーク(Jan Sverák)
出演:ズディニェク・スヴェラーク(脚本も担当)、
   アンドレイ・ハリモン、リブシェ・シャフラーンコヴァ
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■STORY
80年代終わり、ソ連占領下のチェコ・スロヴァキア、プラハ。生活の苦しいチェ
ロ奏者ロウカは、報酬につられ、チェコ国籍を欲するロシア女性との偽装結婚
に応じる。
しかし、彼女は5歳になる息子・コーリャをおいて、西ドイツの恋人の許へ逃
げてしまった。

偽装結婚で当局に目をつけられた上、言葉の通じない子どもを押しつけられて、
大迷惑に思うロウカ。金はなくとも恋愛は自由に楽しんできた独身貴族の名が
すたるってものだ。
気の進まないまま、コーリャとの生活がはじまる。

■COMMENT
不思議な映画だった。
目立ったシーンや、強烈なエピソードがあるわけでもないのに、「このあと、
どうするの? どうなるの?」と思ううち、いつのまにか作品に引きこまれて
いった。

ロシアからやってきたコーリャは、とりたててかわいいというわけでもない。
「とりたてて」というのは、例えば少しませた機知に富んだ事を言ったり、子
どもらしいかわいい勘違いをしたり、といったこと。少なくとも、最初のうち
は、あまり愛想のない、特徴のない子どもだ。

子どもなら誰でも「かわいい」と思える人なら、コーリャの魅力にはじめから
気づくのだろうが、我らが主人公ロウカはそういうキャラクターではなく、こ
の私もそうではない。だから、はじめのうちは「なんか面倒なガキを押しつけ
られちゃったよ」という、ロウカの戸惑いに共感して「大変だ、このままどう
するんだろう」と、心配になるわけだ。

しかし、これは、ロウカが、小さき者を慈しむ力を獲得してゆく物語。
しだいに、コーリャを思い、コーリャの笑顔に喜ぶことを覚え、よき父・ロウ
カが誕生する。

私の目にもコーリャがかわいく映るのは、ロウカがそんな力を獲得していく過
程でのことだ。ロウカの目線で「何だかめんどくさそうなガキ」から「かけが
えのないかわいい子」に、私の中でコーリャは変身を遂げる。はじめから手放
しで「かわいい」と思えなかったからこそ、体験できる心の変化である。

変化するのは人の心だけではない。まさにこの時期、東側世界は自由化と体制
打破へとなだれ込んでゆく。
社会変動のうずの中で誕生した、「ある大人」から「ある子ども」への愛の物
語は、この後、民主主義社会を獲得していく人々の未来をも表しているようだっ
た。
革命のとき、広場に集まった民衆が皆、キーホルダーを手にシャンシャン鳴ら
すシーンが印象的だった。
おそらく、体制を倒した喜びを表するため、何か<鳴り物>を鳴らしたい、と
いう気持ちが自然と、誰もがポケットの中に持っている鍵の束を鳴らすムーブ
メントになったのだろう。
歴史の一場面に、本当に立ち会えたかのような興奮を味わえた。 

私に、群衆の一人として何か感情を表す機会が訪れるかどうかはわからない。
別に「政変」なんかじゃなくて、応援しているスポーツチームが優勝した、な
んて時でもいい。東欧の人々が、世の変化を歓迎するのに鍵を鳴らした知恵は、
記憶しておくとよいな、と思う。

■COLUMN
コーリャはロシア語しか話さず、はじめは意志疎通もうまくいかない。
5歳の子どもは吸収が早くて、二人がうち解けていくにしたがって、コーリャ
のチェコ語がうまくなっていく。コーリャの言葉の上達が、二人の親密さを表
す指標でもあるのだが、少し残念なことに、今「どっち語」を話しているのか、
がわからないことが多かった。

同じ監督の「ダーク・ブルー」という作品では、イギリスに渡ったチェコ空軍
の軍人が、少しずつ英語を学び取っていくのが、イギリスに溶け込んでいくひ
とつの指標だった。「英語」と「チェコ語」ならいい。今英語をしゃべってる
のか、英語以外をしゃべっているのかはわかるから。しかし、「ロシア語」と
「チェコ語」では、ほとんど区別がつかないのだ。

区別がついて見たら、きっともっと楽しめる!
悔しかったから、語学入門書「エクスプレス」シリーズの「ロシア語」「チェコ語」
を借りてきて、付け焼き刃で勉強してみた。
私はイタリア語もスペイン語も話せないけど、どっちがどっちかは、何となく
区別がつくもんな。ロシア語とチェコ語だって、語尾とか、be動詞にあたるも
のの音などを覚えたら、どっち語なのか、区別くらいはつくだろう……、て、
甘かった。
特にロシア語のように、文字から覚えないといけないのは、ちょっと見てすぐ、
いくつかフレーズを覚えるってわけにはいかない。チェコ語の方がとっつきや
すいけれど、すぐにいくつかの音や言葉を聞き取れるようになろうなんて、甘
い甘い。反省。

ともあれ、いろいろ「トリビア」的なことは覚えられたのは面白かった。
「This is a pen.」の「is」「a」にあたるようなものはロシア語にはなくて
「This pen」て感じに表現するんだとか。
チェコでは女性の名字は最後に「ova」をつけるとか。(Sverakさんの奥さんは
Sverakovaさんになる等。例外あり)
二つの言語を区別できたら、より理解が深まると思う。でも、それが分からな
くても映画の魅力が減ずるわけじゃない。ご安心を。


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編集・発行:あんどうちよ

Copyright(C)2004 Chiyo ANDO

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