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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.039
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★
++ 花とワルツに祝福される小さな日々 ++

作品はこちら
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タイトル:「ポーリーヌ」
製作:ベルギー・フランス・オランダ/2001年
原題:Pauline & Paulette

監督・共同脚本:リーフェン・デブローワー(Lieven Debrauwer)
出演:ドラ・ファン・デル・フルーン、アン・ペーテルセン、
   ローズマリー・ベルグマンス
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■STORY
ベルギー北西部の小さな町。知的障害を持つ66歳のポーリーヌは、姉マルタと
暮らしていた。
マルタは手厚く世話をしてくれ、大好きな花に囲まれてポーリーヌは幸せだっ
た。そんなある日マルタが急死してしまう。

マルタが2人の妹ポーレットとセシールに託した遺言では、どちらか一人がポー
リーヌを引き取り同居しなければ、遺産は全額ポーリーヌのものとなってしま
う。
ポーリーヌはポーレットが大好き。ポーレットと暮らすのが希望だ。
彼女を施設に預けるつもりでいたポーレットは渋々引き取ることにするが。

■COMMENT
何でもない人のちょっとした交流を描いた、小さな小さな物語だ。だけれど心
には小さくはない余韻を残す。
ポーリーヌは花が大好きで、彼女のアルバムには雑誌から切り抜いた花の写真
や、花の描かれたの包み紙まで、花のついたものなら何でもスクラップされて
いる。もちろん花の水やりは彼女の大好きな仕事。

純粋に何かが好きな気持ちは人の心を温かくする。見ていて自然に表情がゆる
むのが自分でわかる。66歳の彼女は、6歳の少女よりも少女らしく無邪気で純
粋だ。

ポーリーヌが大好きなもののもう一つは、妹のポーレット。
ブティックを経営する彼女のまわりには、カラフルな洋服や、素敵な包装紙な
ど、きれいな物があふれている。きれいなものならなんでも大好きなポーリー
ヌには、ポーレットがアイドルなのだ。ポーレットが素人オペレッタ劇団で
ディーバをつとめていることも、「姉」ポーリーヌには自慢の種である。
お店の中をうろちょろされるのが嫌で、ポーレットは慕ってくるポーリーヌを
邪険にする。でもポーリーヌはお構いなし。

ポーレットは気づかないけれど、実はポーリーヌとポーレットの好みはぴった
り。ポーレットのバラの装飾で統一された寝室は、ポーリーヌの好きな柄や小
物であふれ、ポーレットが好んでまとう明るい色の洋服はポーリーヌの幸せの
素だ。
ポーリーヌを心底からは受け入れられないでいるポーレット。
ポーリーヌの慕う気持ちはいつも一方通行。
でも観客は、二人は本当に仲良くなれる姉妹なのだと、好みを見ていてわかる
から、安心して二人の行く末を見守れる。

見逃してしまいそうなほどのちょっとした表情やしぐさに、登場人物の気持ち
が表れる、繊細で多くを語らない演出が目立つ。
それ対し、花が登場するシーンは、思いっきり華やかで豪奢だ。画面いっぱい
に花々を映し出し、ポーリーヌが楽しそうにじょうろで水を遣る。ファンファー
レのように高らかに流れるのはチャイコフスキーの「花のワルツ」。色が鮮や
かで、きれいなものの好きなポーリーヌの心の踊りが、画面一杯から伝わって
くる。

明るくて大げさな表現と、静かで繊細な語り口のコントラストが愉快な、美し
い小品である。

■COLUMN
ベルギーの映画というのはそう多くはやってこない。それでも言語がフランス
語のものはたまに見かけるが、ベルギー北部で使われるフラマン語のものは少
ない。
欧州映画紀行としては、フラマン語圏のベルギー映画、見逃すわけにはいかな
いのだ。特にこの作品にはベルギー的なるものがたくさん描かれていた。

ポーリーヌたちの言語はフラマン語だが、四姉妹のうちセシールだけはブリュッ
セルで暮らしていてフランス人とつき合っている。だから日常はフランス語を
使う。ポーリーヌがセシールを訪ねたブリュッセルは、フランス語中心ながら
フラマン語を話す人もいる、ちょっと不思議な空間だ。一国に公用語が複数あ
るという事態が、日本に住む私には異空間に入り込む体験だ。

ポーリーヌのブリュッセル旅行には、彼女にも観客にもうれしいオプショナル
ツアーがついてくる。町の中心広場「グラン・プラス」での花の絨毯の祭典、
フラワーカーペット。広場に花を敷き詰める2年に1度の催しは、花の可憐さ
と幾万本もの花が集結した雄大さが同時に味わえる、素敵なお祭りだ。日頃花
を愛でるなんて習慣のない人にも、きっと勧められるだろうと思う(フラワー
カーペットはもちろん、この映画も)。

そんな観光の側面だけでなくて、ベルギーのふつうの人の生活をのぞく楽しみ
もつまっている。インテリアや、町の様子や、花を大事にする心とか、いろい
ろあるけれど、私が惹かれたのは、薄く切ったパンに、ジャムかチョコを塗っ
て、折り曲げて食べる朝食。つつましやかだけれど、真似したくなる親しみや
すさがある。
明日の朝食は、ただのジャムサンドでも「ベルギー風」と名付けようかな。

■お知らせ
都合により、来週はお休みさせていただきます。
次回の配信は3月3日(木)です。
よろしくお願いします。

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編集・発行:あんどうちよ

Copyright(C)2004-2005 Chiyo ANDO

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