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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.040
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★
++ 旅する肉体から見えてくる世界 ++

作品はこちら
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タイトル:「めざめ」
製作:フランス・ベルギー・スペイン・スイス/2002年
原題:CARNAGES 英語題:CARNAGE

監督・脚本:デルフィーヌ・グレーズ(Delphine Gleize)
出演:アンヘラ・モリーナ、キアラ・マストロヤンニ、
   ルシア・サンチェス、リオ、エステル・ゴランタン、
   ジャック・ガンブラン
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■STORY
スペイン、フランス、ベルギー、一見何の関係もない4家族14人の物語が、闘
牛を介してつながっていく。

スペインで闘牛「ロメロ」と闘った若いマタドールは、最後の一撃を誤り昏睡
状態に。「ロメロ」は解体され、骨になり、肉になり、各地へと散らばってい
く。
「ロメロ」の肉体が旅する先には、小さな秘密を抱えた人々がいた。

保育士ジャンヌは、5歳までの記憶がなく母アリスに疑いの目を向けている。
保育園では、何かを見通すかのような不思議な雰囲気を持つ5歳の女の子、ウィ
ニーと対するのが少し怖い。臨月を迎えたベティは、獣医の夫ジャックにある
事実を言えないまま抱えている。売れない女優のカルロッタは、母に似たほく
ろがコンプレックス。トレーラーで息子と二人で暮らすロージーは、父親の不
在をいつまでも説明できない。

■COMMENT
「闘牛ロメロ」を介して、バラバラの人生がつながっていくのだ、ということ
を知らないで見ると、さっぱりわからないだろう。
広範囲に散らばっている人々の生活が、断片的に映し出され、何がどうつなが
るのか、観客にはなかなか知らされない。
そういう意味では少しミステリの雰囲気も楽しめる。

一頭の闘牛が死にその肉体が解体される。その肉体がたどり着く場所で「新し
い生」や「新しい出会い」を呼ぶ。
生命と生命がつながり合っていること、誰かや何かを通して、見も知らないど
こかの人とつながり合っていること。それらは、ミステリアスにもおどろおど
ろしくも喜びに満ちても、描けるもので、 ─なぜなら、知らない誰かや知らな
い何かと見えざる関係でつながっていることは、一面では怖く、一面では喜ば
しいことだから─ おおざっぱに言えばこの作品では、最初は少し妖しげに、最
後には生命の喜びに微笑んで、描かれている。

「死」が「生」を呼んだり連鎖したり、といったことは、描き方が稚拙な場合
には浮ついてしまいがちだけれど、そうならないのは「肉体」をきちんと見せ
ていることが大きいと思う。「ロメロ」が切られて、内臓が取り出されて、食
肉としてつるされ、角がとりはずされて、「肉体」が「部位」になっていくと
ころがちゃんと見せられている。

なんていうと、ちょっとグロい、と思われるかな。
それがそうでもないところが、この映画の「肝」。

生々しくなりそうな映像は乾いたトーンで淡々と、逆に、日常のささいな出来
事を少しばかり大げさにウェットに描く。そのコントラストのおかげで、何で
もない人生にはふだん以上に注意を払って観察し、ふだんならば直視したくな
いようなことを目をそむけずに見届けるだろう。

死ぬ命があり、誕生する命があり、再生する人生があること。それは事実とし
ては当たり前のことなのだけれど、それを目の当たりにすることは、ありふれ
ていない。世界をこんな目線でとらえることもよい。そんな満足に浸れる映画
である。

■COLUMN
ブタニク、ギューニクなどと呼んで食べている身近な肉だけれど、あんまり、
豚の肉体とか牛の肉体を食べている意識はない。それはもちろん、そう考える
と食べにくいから。特にほ乳類の場合は、生きて動いているそれと食材として
のそれは、別物と頭の中で処理していたりする。

そういう処理方法は私たちの生きる知恵で、日常をつつがなく過ごすためには
そうする必要がある。だけれど、ものを食らうことは誰かに命をもらっている
んだってことも、たまには考えた方がいい。学校の先生が好きそうな非常に月
並みな話だが、月並みになのもたまにはよろしい。「みんなが食べてる牛の肉
は牛の命をとって食べてるのよ」って指摘が月並みではなくなったら、それが
一番怖い。

もう一つ、ふだん意識して遠ざけている事実、見えないところでも人と人はつ
ながっているのだ、ということ。同時刻に同じ番組を見ていたとか、同じ病院
に居合わせたとか、同じ牛の肉を食べたとか。数々の他人とのつながりを抱え
て人は生きている。だけれど私たちはいつも、仕事仲間とか、仲のいい人とか、
家族とか、知ってる人との間の関係に忙殺されていて、知らない人との関係を
考えることがない。

それも生活の知恵。今だっていっぱいいっぱいなのに、これでまだ知らない人
ともつながっているなんて考えるだけでも果てしない。だけれど、社会は知ら
ない人同士の集まりだから、知らない人との関係をほっぽり出していると、社
会が成り立たなくなるかもしれない。

そういうことは、普通ならずーっとずーっと上の方から俯瞰しないと見えてこ
ないことだ。それをあえて俯瞰しないで、バラバラになったかつて命だったも
のと一緒に地上を旅をした。そこから見えてくるものは小さくない。

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編集・発行:あんどうちよ

Copyright(C)2004-2005 Chiyo ANDO

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