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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.042
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★
++ あきらめるな、投げ出すな、突き進め ++

作品はこちら
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タイトル:「穴」
製作:フランス・イタリア/1960年
原題:Le trou (英語でもこの原題を使う模様)

監督・共同脚本:ジャック・ベッケル(Jacques Becker)
出演:ミシェル・コンスタンタン、ジャン=ケロディ、
   フィリップ・ルロワ、レイモン・ムーニエ、マルク・ミシェル
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■STORY
ある刑務所で、同房の4人の男が脱獄を企てていた。そこへ若い新顔ガスパー
ルがやってきた。
計画をうち明けて仲間に入れるべきか、4人に緊張が走る。互いの境遇を話し、
うち解けて、迷った末に、彼らはガスパールを仲間に入れると決めた。

床に穴を空け、地下室に入り、そこから地下水路への出るべく、壁に穴を空け
ていく。5人の地道な脱獄計画が動き出す。

■COMMENT
45年前のモノクロ作品だが、今見ても新鮮な緊張感を味わえる。

彼らの脱獄劇は、ルパン三世がやるような華麗な作戦ではなく、ただ黙々と、
穴を掘り、ただコツコツと穴を空けるもの。ローテク極まりなし。
夜中にこっそり、穴を掘って、壁に穴を空ける。とても単純な話だけれど、
一緒に緊張して、一緒にハラハラする。
むしろ、単純でローテクだからこそハラハラするのかもしれない。私も大半の
人も脱獄なんてしたことがないけれど、穴を掘ったり、壁や机に傷を付けたり
削ったり、少しずつ穴を空けたり、硬いものをチャチな刃物でギコギコ切った
り、そんな小さな経験ならある。

夜中の刑務所にとてつもなく大きく響く、穴を空ける音、鉄格子をヤスリで切
る音。そんな音を立てたら気づかれちゃうよ、と、見ながらどんどんからだが
こわばっていく。やっとのことで欠けたコンクリート。何度も何度もそこをた
たき、一心に穴を空ける。そこがアップになって、少しずつ、ほんの、少しず
つ穴になっていくところを観客は見せられる。まるで自分のことのように。

塀の中という閉塞感までが、観ている側に伝わってくるようだ。ほとんどが刑
務所内の映像だが、一瞬、外の風景が映る。何の変哲もない刑務所前の通りだ。
しかし、そのすがすがしいことといったら。外の空気をいっぱい吸い込んでみ
たいって気にさせられる。あんなに何でもない街角が、一瞬しか見られないか
らこそ、とてつもなく美しい光景に見える。これも映画の作り出す力だろう。

最後には、少し意外な結末が待っている。
観る人によって解釈が異なる、あえて言い切れば、このラストをどう解釈する
かでその人の人生観が見えるような結末。親しい人と観て、しばし議論するの
も、よし。

■COLUMN
今私は、ものすごく追いつめられている。

風邪をこじらせている間に、免疫力が低下したところを狙われたか、花粉症デ
ビュー。そこへなんだかとってもヘビーな仕事を受けてしまった。
いや、話をもらった時点ではそんなにヘビーな感触もなかったはず。だけれど、
実際にはじめたらとんでもない。

ろくに資料がなくて私自身も知識のないことを何ページも何ページも書く。そ
して毎日今晩中だの、明日中だの、手を変え品を変え、締め切りがやってくる。
やっと書き終わったところに、字数やデザインの変更が起こる。
睡眠不足ってのは日を追うごとに雪だるま式に疲労を蓄積してないか。

一体いつまでこんなことが続いてしまうんだか、3月中という予定だったけれ
ど、はじまりが大幅に遅れて、今この状態、予定通りに終わるわけはない。確
定申告の書類と、資料が入り乱れて床に散乱する。はーっ。

そもそもが、大変そうなことが始まるときにはまず最悪の状態を心配するたち
である。
やれなかったら、どうしよう。
無理したらぶっ倒れるのと違うだろうか。
一生懸命やっても、企画自体がぽしゃるんじゃないだろか。

最悪の状況を考えるのは、いつもなら儀式のようなもので、一通り心配した後、
じたばたしてもしょうがないな、と観念して流れにのまれていく。しかし今回
は毎日毎日新たに、やれないんじゃないかと不安になって、だけれど不安に一
区切りつける間もなく、物理的行動を起こさなけりゃどうにもならない。

もう泣いちゃおっかなー、ごめんなさいって逃げちゃおうかなー。ちょっと筆
(キーボード?)が止まるとこの2つが頭をこだまする。
平たく言えば、「やることが多くてめげている」といういたってシンプルな事
態なんだが、不安とイラつきにさいなまれた頭は、平たくなる余裕もない。

そんなめげかけの私に、脱獄を企てる男たちの姿が目にしみる。
監獄の中だ。物資はない。創意工夫で道具を作り、何度も訪れる困難を、その
度に一つひとつつぶし、文字通り壁を突き抜けていく。

そう、今目の前にあるそれを、一つひとつつぶしていけ。
無力な小槌の一振り一振りは、少しずつ壁を崩し、いつか穿ち、やがて風を通
すだろう。
ただ、今目の前にあるそれを。

■お知らせ
ホームページ「ネタバレありのつぶやき」コーナー
「リトル・ダンサー」と「めざめ」を追加しました。


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編集・発行:あんどうちよ

Copyright(C)2004-2005 Chiyo ANDO

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