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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.044
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★
++ 恥ずかしがらずにそわそわしてみよう ++

作品はこちら
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タイトル:「ナンニ・モレッティのエイプリル」
製作:イタリア・フランス/1998年
原題:Aprile

監督・脚本・主演:ナンニ・モレッティ(Nanni Moretti)
出演:シルヴィオ・オルランド、シルヴィア・ノーノ、
   ピエトロ・モレッティ、シルヴィア・ボヌッチ
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■STORY
ある映画監督の仕事と私事を追ったコメディ。

映画監督ナンニは、9年前に挫折したミュージカル映画にもう一度取り組もう
としていた。
しかし、そんなとき、選挙で左派が大敗し、ドキュメンタリーを撮ることを勧
められる。うまく集中できずにまたもやミュージカルは挫折。
2年後再び選挙が近づいて、ドキュメンタリーを撮ろうと奮起するが、今度は
妻が妊娠し、最愛の子がいつ生まれるかと そわそわして、ちっとも映画作りに
集中できない。

■COMMENT
上のストーリーに見られるとおり、とにかく そわそわ と落ち着かない奴が主
人公である。
思いつけば行動はするんだけれど、なにやかにやといろんなことが起こり、そ
の度に集中できなくて物事が頓挫する。周りにいたらちょっと迷惑かもしれな
いけれど、ただ眺めている分にはおもしろくて、楽しい人。
映画なんだから、そんな人をただ眺めてればいい、ということはそりゃあ、楽
しくておもしろい。爆笑はしないんだけれど、ひとつひとつの挙動にクスクス
笑ってしまう80分。

父になる前の そわそわ なんて、ここまで堂々と そわそわ してくれれば、気
持ちがいい。妊娠中の妻と最低の映画(実在の映画、題名は見てのお楽しみ)
を見てしまって、胎児の性格形成への影響を真剣に考えるところ。病院で待っ
ている間にあちこちに電話をかけるところ。その他いろいろ。気もそぞろになっ
ているのにそれをさっぱり気にしもしなけりゃ、隠しもしない。おかしくて愛
らしい。

日頃、私を含めた多くの人は、 そわそわ と落ち着かないことが、なんとなく
恥ずかしくて、落ち着いているように見せかけたり、そわそわ の素を隠したり
している。しかし、この映画を見たら、もっと そわそわ を表に出してみたら、
案外周りの人との友好関係が築けるんじゃないかと思えてきた。

監督と同じ名前の映画監督が主人公。私生活を追った作品ということで、エッ
セイと間違えられることもよくあるという。この時期に実際に彼に子どもがで
きたことも事実だし、出演しているのは彼の妻と息子である。彼の身辺に起こっ
たことを題材にしているのは間違いない。しかし監督曰くこれは映画のために
作ったキャラクターで、本人とは違うのだそうだ。といいながら、きっと周り
が、どこまでホントなんだろ、といぶかしがるのを楽しんでいるのだろう。

私は表現された結果がおもしろければそれでいいので、実際の本人とどのくら
い隔たっているのかとか、どこまでがホントの話なのか、といったことには、
興味がない方だ。ただ、この作品で感じた「ホントの話」というのはストーリー
とは別にある。

それは、画面の奥の方や、隅の方に、ふっと映った物やら景色やらから、イタ
リア人の生活がのぞけること。ナンニも妻のシルヴィアも、キャラクターを作っ
ているのだろうが、うっかり(じゃないかもしれないが)映ったキッチンの小
物や、壁のタオル乾燥器や、雑然とした本棚に、紛れもないホントが見えたよ
うな気がして、ちょっとしたホームステイ気分を味わえた。

■COLUMN
ナンニがやたらと そわそわ 心配することの中に、陣痛がはじまったらどうす
るのか、という話がある。
お産の日の手順を夫に教えながら、シルヴィアは「分娩室に入ったら私を励ま
すのよ」と言うが、ナンニには新しい心配の種が生まれる。「ぼくが君を励ま
すって? じゃあぼくのことは誰が?」。

情けないと怒られてしまいそうな話だが、確かに、お産に不安なのは男も同じ
で、男だけが一方的に励ます役をやるのは酷なのかもしれない。この夫婦の例
を見ても、どう見ても妻の方が落ち着いてどしんと構えているし、夫の方を励
ます誰かが必要な場合もあるだろう。子どもが生まれてからも、厳しさを教え
たり、社会性を教える「父の役割」を担うのは男の方で、損をしているように
感じるナンニもかわいらしい。(父らしく、母らしくではなくて、「父の役割」
と「母の役割」と言い換えるあたりが現代風かな)

女たちは母性本能を持った母親役を押しつけないでと怒るが、強き父の役は男
の専門分野と、案外気軽に押しつけているのかもしれない。
「父の役割」と「母の役割」があって、それを双方が気質や能力に応じて果たし
ていく……、理想だけれど、実現するのは難しい。父母のことに限らず、性差
の役割分担を乗り越えようとする時、ともすると、自分の苦手なことをやらず
に済ませようとするだけになるからなあ。

あらら、軽くて楽しい映画なのに、なんだか最後はうっかり反省してしまった。


■おしらせ
-----ちょっとPRです-----

私の友人の画家、鈴木年(すずきすすむ)氏が、東京で個展を開いています。
もう会期はあまり残っていませんが、お近くの方はぜひ足を運んでみてください。

 鈴木年 展
 アートスペース羅針盤
 東京都中央区京橋 3-5-3 京栄ビル2F (京橋駅から2分)
 2005年3月28日(月)〜4月2日(土)
 AM11:00〜PM7:00
 最終日はPM5:00まで

参考(アートスペース羅針盤のページ)

鈴木年氏は、色づかいが楽しい作風が特徴。
2003年には、作品がフランス・ボルドーのワイン「Domaine de Viaud」の
アートラベルに選ばれました。
それを記念し同地で個展が開催された、フランスでも注目の作家です。

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編集・発行:あんどうちよ

Copyright(C)2004-2005 Chiyo ANDO

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