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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.050
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

誰も読んでくれなかったらどうしようかと
不安を抱えながらはじめたこの「欧州映画紀行」。
読者の皆さまのおかげで1周年、50号を迎えました!
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。


★心にためる今週のマイレージ★
++ パリと恋に、迷いこんでみるココロ ++

作品はこちら
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タイトル:「パリのランデブー」
製作:フランス/1994年
原題:Les rendez-vous de Paris 英語題:Rendezvous in Paris

監督・脚本:エリック・ロメール(Eric Rohmer)
出演:クララ・ベラール、アントワーヌ・バズラー、
   オーロール・ローシェル、セルジュ・レンコ、
   ミカエル・クラフト、ベネディクト・ロワイアン、
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■STORY
3話のオムニバス形式で、パリの男女を描く。

第1話「7時のランデブー」。女子大生エステルは、恋人が浮気をしていると
知らされ、不安になってしまう。果たして彼氏の浮気は真実なのか…。

第2話「パリのベンチ」。パリのあちこちの公園でデートを重ねるカップル。
女性は同棲相手がいるがその関係はもう破綻していると言う。男性の方は、だっ
たら早く彼と別れて、一緒に住もうと言うが、彼女が提案するデートはいつも
公園。ふたりの行く末は…。

第3話「母と子 1907年」。ピカソの同名の絵をきっかけに偶然出会う、男女の
物語。マレ地区にアトリエを持つ画家は、ピカソ美術館に友人を案内したとき、
美しい女性を見かける。一目惚れしてしまった彼は…。

■COMMENT
パリの風景がふんだんに登場する、パリ好きな人にはたまらない作品だ。

ただパリを舞台にしているというだけではない。この作品では、撮影の際、通
行人を閉めだしたり、エキストラを使ったりはしなかった。行き交う人はその
ままに、カメラにたまたま映ったものはそのままに、物語の中に組み込まれる
のだ。だから、この映画を見ていると本当にパリに行ってきたかのような錯覚
を起こす。

第1話、市場のシーンには、日々のパリの生活を見てとれる。人通りの多い美
術館ポンピドゥーセンター付近では、雑踏のなかで俳優たちの台詞もちょっと
聞きづらくなったり、ざわついた街の雰囲気まで味わえる。

第3話でカメラはピカソ美術館に入るが、ここで映っている役者以外の人は、
その日たまたまピカソ美術館を訪れたお客である。パリを旅してピカソ美術館
を訪れたなら、出会うかも知れない風景だ。

第2話のカップルたちは9月から11月の末まで、いろいろな公園を歩き回る。
旅行者にもおなじみのリュクサンブール公園もあれば、地元の人しか行かない
ような公園もある。秋の入り口から冬の入り口まで、実際に時間の経過に沿っ
た撮影は、青々とした緑が赤や黄色に色づいて、葉が落ちる季節の移り変わり
も捉える。後半のデートで落ち葉を踏みしだく音は、異国情緒だけでなくて、
どこか慣れ親しんだ気分をわき起こすから不思議だ。

3つの恋の物語は、どれも「偶然」がキーとなる愛らしいスケッチ。誰にでも
起きそうな身近なエピソードだが、本当にこの身に起きれば、なんのかんので
びっくりする類の何気ない話だ。
おしゃべりのひとつひとつは、ひょっとしたら明日使えるかもしれないね、と
いう大げさ過ぎぬ素敵な言葉たち。恋に戯れる人も、真剣に世紀の恋を求める
人も、きっと気に入る風景ばかりだ。

どの登場人物もどこにでもいそうな普通の人だけれど、それぞれ皆自分のスタ
イルを持っていて、決してどこにでもいる凡人ではない。どこにでもいそうな
普通の人だけれど、他の誰かと決して同じじゃない、それはどこにでもいる
「私たち」のことだ。

私がいちばん好きなのは、第2話の彼女。
他人から見れば少し不思議な、絶対のこだわりで、デートはいつも公園や街の
散歩。男をさんざんに振り回した上、最後まで思いっきりわがままに自分の理
屈を通し、そのことに自分ではちっとも気づいてない困ったちゃんぶりは、
彼女の魅力でもある。
変な理屈で押し通して被害者になっちゃう辺りに、私は親近感がわく。

この映画をそのままパリ旅行の行程にしてしまうことだってできるし、パリに
行ったことのある人なら、かつて訪れた場所を見つけて楽しむのもよい。
もちろんこの作品に入り込んで行った気になることもよし、である。
そして自分に似た誰かを探したり、自分の好きな誰かを探したり、自分の気に
入りの言葉を探したり、素敵な見つかりもののある一作だ。

■COLUMN
エリック・ロメール監督は、私が最も愛する映画作家である。
本当ならメールマガジンで真っ先に取り上げたかったところだが、なんという
か、あまりにも好きなため、「手前味噌」な気がしてしまって(「手前」など
とするのが、本人にも他のファンの方々にも失礼なのは重々承知だが)、今ま
で取り上げられないでいた。1周年を区切りに取り上げてみようと決心したは
いいが、どの作品にするか、どれもこれも好きなだけに、セレクトは辛い作業
だった。

結局、この作品を選んだのは、私が見たところ、レンタルビデオ店に置いてあ
ることが多い、ということと、観光案内のようにパリのあちこちが登場するこ
の作品は、欧州映画「紀行」に合っているのではないか、ということからだ。

やっと取り上げる作品を決めても、書く作業は予想以上にハードものだ。
「いい作品だよ」と強調すれば、独りよがりになってないかと心配になるし、
かといって、よさを強調しなくては、ファン魂が黙っていない。「もっといい
ところを書け書け」と昂揚する自分がいる。

度を超えて好きなものには、他の人にも好かれて欲しい、少なくとも嫌われた
くはない、いや好みに合わないなら仕方がないけれども、せめて誤解は与えた
くない、と屈折した欲望がからみつく。バランスのとれた説明ができているの
かどうか、さっぱり判断がつかない。

このメルマガの作品セレクトに関して、こっそり自分に課しているルールに
「同じ監督の作品は1年間は取り上げない」というものがある。私は気に入っ
たものがあると、そればっかりにずぶずぶはまる性質。少なくともメルマガで
はそれをなくそうとして、そう決めている。
まあ、勝手に自分で作った「1年縛り」、変えたきゃ変えればいいのだが、こ
のルールを遵守するのなら、ここで1作取り上げたら、この先1年は他のロメー
ル作品は取り上げられない。それは残念であると同時に、ほっとすること。
熱烈なファンのココロは複雑なのである。

■おしらせ
来週、再来週は、発行をお休みさせていただきます。
次の配信は6月2日(木)です。
お休みのあいだに、まだ見たことのない国や監督の作品を、発掘してみるつもりです。
よろしくお願いします。

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転載には許可が必要です。

リンクは自由です。

編集・発行:あんどうちよ

Copyright(C)2004-2005 Chiyo ANDO

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