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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.051
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。


★心にためる今週のマイレージ★
++ 欧州のいまとむかしを旅にみる ++


作品はこちら
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タイトル:「永遠の語らい」
製作:ポルトガル・フランス・イタリア/2003年
原題:Um Filme Falado 英語題:A Talking Picture
仏語題:Un film parlé 伊語題:Un film parlato

監督・脚本:マノエル・デ・オリヴェイラ(Manoel de Oliveira)
出演:レオノール・シルヴェイラ、フィリッパ・ド・アルメイダ、
   ジョン・マルコヴィッチ、カトリーヌ・ドヌーヴ
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■STORY
7歳の少女マリア=ジョアナは、母・ローザ=マリアとともに、リスボンから地
中海をめぐる船旅に出た。行き先はインドのボンベイ。パイロットの父親に会
うのが目的だ。
ローザ=マリアは、ポルトガルの大学で歴史を教えており、この機会に歴史的
な遺跡を直に目にしたいと、船旅を選んだのだ。

マルセイユ、ポンペイ、アテネ……、二人は寄港地で多くの遺跡を見、母は娘
に神話や伝説や歴史を語って聞かせる。

■COMMENT
ヨーロッパを描いた映画と言い切っても大げさではないだろう。
船旅で欧州の要所をまわるという表層的な意味でももちろんそうだし、遺跡を
見ながら歴史を娘に教えるという構造にもそれは見られる。

リスボンから始まり、漁師がつどうマルセイユの港、突きだした半島をナポリ、
ベスビオ火山に失われたポンペイの町とたどる。そして文明発祥の地、ギリシャ
に流れ、悠久の月日に思いを馳せる。母が娘に語る歴史と物語は、観る者にも
語りかけるように響く。
私などはヨーロッパの基本的な歴史の流れもあやふやなもので、子どもへのや
さしい語りかけがちょうどよい。ぼんやり持っていた知識と、眼前の景色とが
一致していくのはうれしい。

どこも、ここを訪れるならこんな天気のときがいいと思うような好日。

イスタンブールからエジプトのピラミッドへと、しだいに船はヨーロッパを離
れ、イスラム圏へと進んでいく。現代、地理的にヨーロッパと呼ばれていなく
とも、ヨーロッパの歴史と深く関わり、親しい場合もそうでない場合もある地
であることに、あらためて気づかされる。

旅で出会う人々も、描くことヨーロッパ、だな、と納得させられる。

アテネでは、マリア=ジョアナが「十字の切り方が違う」といぶかしがる、東
方正教の聖職者との出会い。日本の人々はカトリックとプロテスタントが違う
ことは知っていても、オーソドックスと呼ばれる東方の宗派があることは忘れ
がちだ。人の心に平安をもたらすと同時に、多くの対立を呼んできたヨーロッ
パの宗教の来し方に、発想を飛ばす。

船のレストランには、フランス、イタリア、ギリシャ、各寄港地から乗船した
女性たちと、アメリカ人船長が囲むテーブルがある。彼らはそれぞれの国の言
葉で話し、互いを理解する。それぞれの国の文化を残しながらも、ひとつにな
ろうとするヨーロッパを表すのか、国や言葉が違っても人々が理解し合うこと
への希望が託されているのか。興味深く美しい光景だ。

絶景を堪能し、永い歴史に想像の翼をふくらませた後に、ふいをつかれる驚き
の結末が待っている。この結末もヨーロッパの行く末のひとつだと、作り手は
言うのだろう。

■COLUMN
フランス人、イタリア人、ギリシャ人、アメリカ人、この4人が、それぞれ自
分の国の言葉で話すテーブル。希望やヨーロッパの成り立ちを表す、象徴でも
あるのだろうが、語源の似ているヨーロッパの言語というのは、そういうこと
もあるのかもしれないな、と光景にリアリティを感じる。

語源の問題だけではなくて、人と物の流動が、互いに盛んで、近所の国の言葉
なら、しゃべれないけれど、言ってることは何となくわかる、という事態がよ
く出現するのではないかとも思う。(そんなわけで、製作国に名を連ねる国の
言葉でのタイトルは皆挙げてみた。字面はそっくりだよなあ)

中国と韓国と日本の人々がテーブルを囲んで、話せないけど言ってることはわ
かる、という状況を映画のなかに作っても、あまりリアリティがないように思
う。もちろん互いの国の言葉を勉強している人のあいだでは起こることだが、
一般的にはあるだろうな、とは思えない。

あるとすれば、中国語と日本語で漢字を介して何となく意志疎通できる、とい
うようなことか。以前私は、フランス語の学校で、tolérance という単語の意
味をわからないでいたら、台湾の人に「寛」という字を示されて、そうかそう
か、と納得したことがある。

近年、より団結していこうとする流れのあるヨーロッパ。しかし、EU憲法条約
の批准は、フランスに続いてオランダでも否決され、共同体となる目論見はた
やすくないようだ。
ましてや、遺恨の残る東アジアでは、結びつきを強めることは、もっと困難を
極めるかもしれない。
各国の言葉が飛び交うけれど、お互い何となく理解できている、アジアのテー
ブルがリアリティをもって受け入れられる日も、いつか来たなら。ヨーロッパ
の姿を見てそう感じた。

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編集・発行:あんどうちよ

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