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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.052
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★
++ ダメさもろとも、愛して生きるの ++


作品はこちら
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タイトル:「家族のかたち」
製作:イギリス/2002年
原題:Once Upon a Time in the Midlands

監督・共同脚本:シェーン・メドウス(Shane Meadows)
出演:ロバート・カーライル、リス・エヴァンス、
   シャーリー・ヘンダーソン、フィン・アトキンス
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■STORY
イギリス・ノッティンガムを舞台に繰り広げられるファミリー・ラブ・コメ
ディー。

12歳の娘マーリーンと暮らすシャーリーは、テレビの公開番組で恋人デックに
プロポーズをされた。シャーリーは動揺のあまり、「ノー」と答えてしまう。
それをたまたま見ていた元夫・ジミーは、妻を取り返すチャンスだとばかりに、
かつて飛び出した町へと帰っていく。

ゴロツキだけれど強くて魅力的なジミーと、堅実でマーリーンもなついている
けれど気弱で頼りないデック。
ふたりの男の間で揺れるシャーリーの恋心と家族の行く末はいかに。

■COMMENT
ありがちな話と言えばありがちな話で、監督も現代の西部劇にしたかった(町
を出ていった男が捨てた妻子のもとに舞い戻る)と、話の構造のクラシックさ
について説明している。
クラシックな構造を持ちながらも、この映画が最後まで観客の目を惹きつける
のは、案外話の筋が「みえて」しまわないからだ。

女が悪い男の方に惹かれてしまうのはよくあること。舞い戻ってきたジミーに
ぐらつくシャーリーにハラハラする、というのが既定路線というものだが、今
の恋人デックという奴が、ほんとうに情けない。見かけからしてどうも鈍くさ
いし、気弱でたくましさがないばかりか、追いつめられて卑怯な手段でジミー
を追い落とそうとする。

だんだん、どっちの男がいいのか観てる方にもわからなくなってくる。ジミー
だって、心根は優しい奴、ほんとに、若い頃のちょっとしたつまづきだけだっ
たのかも知れない、やっぱりかっこいいし、たくましいかも、とシャーリーの
揺れる気持ちにシンクロしていってしまう。ひょっとして元の鞘におさまっ
ちゃってもいいのかな、と。

善玉も悪玉もはっきりせず、ジミーもデックもそれぞれ猛烈にダメなところを
抱えていて、ふたりの男にふらふらするシャーリーもやっぱりダメな女だ。ダ
メな人間がいっぱい出てきて、それでも当人は大まじめ、いいところだって皆
それなりに持って、一生懸命生きている。私たちの日常にそっくりな登場人物
の姿が魅力なのだ。

唯一しっかりしているのがシャーリーの娘、マーリーンだ。顔かたちも割と大
人びているというか、子どもらしいあどけなさの足りない、失礼ながらちょっ
と「老け顔」。シャーリーは逆に童顔だから、ふたり並んでもいろいろな意味
で、どっちが子どもだかわからない。

恋人・配偶者を奪われないかとひやひやしている人も、昔の恋人が忘れられな
い人も、ルーティンな日常に飽き飽きした人も、みんながどこかに共感できる
ドラマである。

■COLUMN
遠く東の海に浮かぶ国から見れば、いっしょくたに<イギリス>だが、そこに
暮らす人のなかでは、イングランド、スコットランド、ウェールズ、と明確に
線引きがあることが興味深い。どの程度「明確」なのかは肌感覚としてはわか
らないのだけれど、この映画はそれを垣間見られるいい材料だ。

どうしようもなく気の弱いデックは、どうもウェールズの人らしい。何か不都
合があると、「ウェールズ人はこれだから」と言われてしまうあたりは、日常
にしっかり根付いた共通のイメージのあることがうかがえる。

ジミーは町を出てスコットランドで暮らしていたのだが、ことあるごとに「ス
コットランドに帰りな」と吐き捨てられ、それはあたかも外国に厄介者を追い
出すような口調だ。ジミーに儲けを独り占めされて、コソ泥仲間が追いかけて
くる。このときのデックの恐がりようは、他でもない「スコットランド人が」
襲ってきたことで増幅されているようだ。
ウェールズにしてもスコットランドにしても、見る人が見ればよくわかる、誇
張された描き方がされているのだろう。

日本から見ていると、その違いを存分にわからないから残念、と考えることも
できるが、私はあえて、ほのかに香るその国の事情をかぎとるのが楽しい、と
思う。知ったかぶりにもなりかねないが、自分とは違う分野の人と出会って、
「へー、そうなんだー」と知識が広がった喜びにも似ている。

舞台となっているノッティンガムの街並み、それも住宅地の街並みも、そんな
知識の広がりのひとつだ。一定区画に整理され立ち並ぶ煉瓦の家々と、遠景で
見ると息を飲むような斜面。家以外に何もないところだけれど、もし近くまで
行くことがあれば、ちょっと立ち寄ってみたいと思う光景だ。イギリスといえ
ばロンドンが登場することが、映画にしろ、ニュースや紀行番組にしろ多いわ
けだが、イギリスの地方都市の、何でもない一面を見られるのもなかなかの楽
しみである


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編集・発行:あんどうちよ

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