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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.054
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★
++ 人はつながり、ともにうつろう ++

作品はこちら
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タイトル:「ビューティフル・ピープル」
製作:イギリス/1999年
原題:Beautiful People 

監督・脚本:ジャスミン・ディズダー(Jasmin Dizdar)
出演:ダニー・ナスバウム、フォルク・プルティ、ダド・ジェハン、
ニコラス・ファレル、ワレンティン・ジョージヴァ、ラドスラヴ・ユルコフ、
エディン・ジャンジャーノヴィチ、シャーロット・コールマン
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■STORY
1993年10月、ロンドン。町の人々は、ロッテルダムでサッカーW杯予選を闘う、
イングランドチームを気にしている。ボスニアでは紛争は激しさを増していた。
ボスニアからの難民とロンドンの人々の交流を5つのエピソードで描き出す。

ロッテルダムまでサッカーの応援に行った不良少年が、眠り込んでしまったの
は空港の積み荷の上。
内戦を逃れてきたセルビア人とクロアチア人が、偶然異国のバスで再会し、
はじまるのはいがみ合い。
内戦中のレイプで妊娠したために堕胎して欲しいと懇願する夫婦と説得する
医師の物語、などなど。

■COMMENT
バラバラに見える5つのエピソードだが、実は隣人同士だったり、同じ病院に
入っていたり、ボスニアで偶然会っていたり、他人同士が少しどこかでつながっ
ている。題名「ビューティフル・ピープル」には、一人ひとりのキャラクター
のほほえましさとともに、気づいていなくとも、どこかでつながり合って生き
ている人間そのものの美しさをも表していると思う。

今の日本風に言えば「ニート」。悪い仲間と町をぶらついているだけの少年が、
ちょっとした偶然で本物の戦場を見てきてしまうことで、人生が違う方向にま
わりはじめる。上流階級の娘と恋に落ちるボスニア難民の青年は、そんな身分
違いでやっていけるのかとハラハラさせられるけれど、生きていることを感謝
できる人間は強い。紛争中のレイプで身ごもった女性とその夫は、「敵の子ど
も」をやがて宿った大切な命と認識していく。人間はいつどんな状況にあって
も変われる能力を持っているし、そのチャンスもあるのだと素直に励まされる
作品だ。

問題が起きても、自分の力で歩んでいこうとする人の話ばかり並んでいると、
ともすれば説教臭くもなるものだが、笑える要素もしっかり盛り込まれていて、
バランスがよくなっている。
英語がさっぱりわからない難民青年、ロンドンまで戦渦を逃れてやってきてま
で、セルビアが悪いかクロアチアが悪いかケンカをはじめる元隣人などは、所
作だけでもおかしい。セルボ・クロアチア語に字幕はついているが、ロンドン
の人のようになって、彼らの話すことの意味が分からなくても楽しめるだろう
と思う。

5つのエピソードの中で私がいちばん気に入っているのは、ニート少年のボス
ニア行きの話だ。彼がちょっとした行き違いでボスニアに連れて行かれたり、
美談ができてしまうズレが絶妙でおかしく、その後の彼の変化も気持ちがいい。
彼の仲間まで変わっていくのは、少しできすぎか、という気もするけれど、ハッ
ピーなのに超したことはない。

セルビア人とクロアチア人のいがみ合いも、BBCの記者の帰国後のノイローゼ
も、この紛争をもとにはじまった数々のことは、いずれも根の深い深刻な問題
だ。世界全体として、すぐにすべてを解決することは不可能だろう。だけれど、
一人ひとり、そしてその身の回りにいる人々から少しずつなら、状況を変えて
いける。
胸に小さく希望を灯して、置き土産にしてくれる作品だ。

■COLUMN
学も金もなく難民としてロンドンにいる青年が、上流階級の娘と恋に落ちる。
恋する本人同士はいいのだが、やっかいなのは家族との関係だ。家族や親族に
囲まれて、あからさまにバカにされるボスニア難民に、観客はハラハラさせら
れることになる。だが、やがて、本当に知性があって世をきちんと見ているの
は、どちらの方やらわからなくなってくる。

レイプで身ごもった夫婦は、毎日辛く悩み、それをロンドンの医師に上手く伝
えることもできない。彼らが少しずつ苦しみを溶解させんとするのに対し、そ
の医師の家庭は、崩壊しようとしている。外部の者、外から見た視線を中心に
すると、時には面白く、時には容赦なく、真実を見せてくれることがある。

「真実」と大げさなことだけでなく、例えば、外国人が日本語を話すときの
ちょっとした誤りから、ふだんは気にすることのなかった日本語の特徴に気づ
いたりなんてことはよくある。自分の世界の中心を、ちょっとずらすと、意外
なことが見えてきて、世界の彩りにも変化がついたりする。

そんなことの実践という訳ではないけれど、ブラウザの「ホーム」(立ち上げ
ると最初に出てくる画面)には、外国のニュースサイトを設定しておくのが好
きだ。日本で皆が騒ぐことは、新聞やらテレビやらキオスクの張り紙やらで、
イヤでも知ることができる。だから、そこからちょっと逃れて、外国のトップ
ニュースを見ていると、日本のニュースの狭いところにずっぽり浸かるのを防
げるような気がする、というわけだ。

だけれど、見出しをつらりと見て、結局目がとまるのは、日本のことが伝えら
れている項目だったりする。日本をどっぷり中心にしたくないと言いつつ、実
はしっかり日本中心な、己の正体が見える瞬間だったりもするのである。


■おしらせ
ホームページ「ネタバレありのつぶやき」コーナーに
「スパニッシュ・アパートメント」を追加しました。


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編集・発行:あんどうちよ

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