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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.058
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★
++ 世界に名だたるルーヴル そこで働く名も無き人々 ++

作品はこちら
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タイトル:「パリ・ルーヴル美術館の秘密」
製作:フランス/1990年
原題:La ville Louvre 英語題:Louvre City 

監督・脚本:ニコラ・フィリベール(Nicolas Philibert)
出演:ルーヴル美術館で働く皆さん
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■STORY
世界最大の美術館ルーヴル美術館。ここには様々な職種に従事するおよそ1200
人の人々が働いている。

美術品以外の撮影の許可を許さなかったこの美術館に、はじめて映画クルーが
入った。巨大な美術館の舞台裏と、そこで働く人々にスポットをあてたドキュ
メンタリー。

■COMMENT
ふだん絵なんて見たことのない人から、熱心な美術愛好家、専門家まで、あら
ゆる国籍の人々が訪れるルーヴル美術館。
この作品の公式ページを見たら、全部見て回るのに一週間はかかると書いてあっ
たけれど、私は、もっとかかるんじゃないかと思う。その見て回るだけでも一
週間以上かかる「美術館のスペース」はこの巨大な美術館の一部でしかない。
一般の客には見えないところで、美術館は昼夜動いている。

作品の最後に、職員1200人とか、なんという部署があるとか、窓の数が2410 で
あるとか、そういったデータ的なことが字幕で簡単に出てくる他は、ナレーショ
ンもないし、説明もない。
ただただ、美術館内部でふだん通りに自分の仕事をこなす人々が映し出される。
ただそれだけのことなのに、次には何が出てくるのかと、昂揚する。世界に名
だたるルーヴル美術館とはいえ、働く人は華々しくもなんともない。だけれど
その姿は、見てワクワクする。
そして、客の入っていない美術館は、夜中の学校のように、あふれすぎた冒険
心に釘をさす、どこか冷たく怪しい空気に満ちている。

絵の修復をする人々、目録を作る人々、展示の準備をする人々、美術界の裏方
の様子を見れば好奇心をくすぐられ、掃除人、警備員、運搬の人、厨房で働く
人、電話交換手、当たり前だが、こんな裏方もここでたくさん働いているのだ
と感心する。あらゆる職種の人が自分の持ち場で働き、休み時間にはジムでト
レーニングもできる。
原題は「ルーヴルの町」、その通り、ここはルーヴルというひとつの町なのだ。

ルーヴルを訪れた経験のない人も、ヘビーリピーターも、現地でも決してみら
れない、希有なルーヴルツアーを堪能できること間違いなし。

■COLUMN
ちょっと考えてみれば当たり前のことだが、ルーヴル美術館には様々な人々が
働いている。
あのガラスのピラミッドは、それをみがいて常時きれいにしておく人がいるの
だし、警備員もいて、火災や急病人救出の訓練は、他の職員にも施される。展
示の企画を考え、実際の展示のバランスを考える人がいて、展示室の音響を調
べる専門家がいる。配管工も電気技師も待機しているし、時計のネジを巻いて
多くの時計を管理する人がいる。

誰が見ても美術館の中枢と言える人もいれば、雑用係のように見える人もいる
のだろう。しかし、ここでは誰の名も明らかにされない。誰も特別な人物では
ない。たまに文句を垂れながらも、自分の持ち場に責任をもって働いている。
働く人々を映し出すカメラは平等だ。

私たちは生活の中で、たくさんの「他人」と接している。宅配便を届けてくれ
た人、切符やチケット売り場の窓口の人、タクシーの運転手、カフェの給仕を
する人、などなど。接する「他人」は多すぎて、日々やらなきゃいけないこと
は多すぎて、ひとりの人間と接している、という感覚がなくなっていくことす
らある。目を合わせないまま応対したり、ついぞんざいになったり、相手の都
合など考慮しなかったり。

ストレスいっぱいの世で生きるひとつの術ではあるけれど、見ず知らずの
「他人」とその一瞬きちんと向き合うのもいい。
名も無き働く人々の姿を目に焼き付けた後には、あふれかえった「他人」に少
し優しくなれるような気がする。


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編集・発行:あんどうちよ

Copyright(C)2004-2005 Chiyo ANDO

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