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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.060
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★
++ イヤなところも日常的に。愛らしいところもやっぱり日常として ++

作品はこちら
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タイトル:「みんな誰かの愛しい人」
製作:フランス/2004年
原題:Comme une image 英語題:Look at Me

監督・共同脚本・シルヴィア役:アニエス・ジャウイ(Agnès Jaoui)
出演:マリルー・ベリ、ジャン=ピエール・バクリ(脚本も担当)、
   ロラン・グレヴィル、ヴィルジニー・ドゥサルノ、カイン・ボーヒーザ
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■STORY
微妙な心の動きを、ていねいに描き出した人間ドラマ。
ロリータは、女優を目指す20歳。太り気味の体格がコンプレックスだ。
その容姿のせいで何もうまくいかないと思っている。
父は有名な大作家だが、若くきれいな妻と再婚して自分に関心を寄せてくれな
いし、やってくる男たちは皆、父目当てなのも辛いこと。

演技と同時に歌のレッスンをはじめたロリータは、歌の先生、シルヴィアと親
しくなる。売れない作家を夫に持つシルヴィアもまた、彼女の父の大ファンだっ
たのだ。ロリータ父娘と家族、シルヴィア夫妻の交流もはじまって……

■COMMENT
他者の無神経には敏感に傷つくけれど、自分の無神経には案外気づかない。優
しいと言われる人も、性格が悪いと言われる人も、多くの人間はそんなもので、
それが、誰かとの関係を絶つほどの問題に発展することもあれば、楽しい笑い
話の思い出を追加することもある。
この作品にはその、両方、というかその両極端と、その中間にあるいろんな次
元での発展、がたくさんつまっている。

自分がこうありたい、と思うのと現実はもちろんのこと、「自分はこうだ」と
いう自己分析と他人の評価はズレているもの。
自分ではさんざん気にしていたことが、相手には覚えてもいないささいなこと
だったり、気を引きたい人は気にしてくれず、思いがけない人に好かれていた
り。

自分のこととなるとちっとも見えないが、他者のズレはよく見える。そんな様
子をスクリーンを通して、時には意地悪く、時には微笑ましく観察できるのが、
この映画の面白いところだ。

ここに出てくる人たちは、ロリータに限らず、みんな何かにコンプレックスを
抱き、悩んでいる。シルヴィアと夫は、作品が注目されないことにひどく傷つ
いていたけれど、成功しはじめれば今度は、それまで付き合いのあった人たち
とのズレに苦しみ出す。
ロリータの父も、名声ばかりは高いが、最近では大スランプに陥って、1行も
書けない日々だ。
ロリータを愛するセバスチアンは、ロリータになかなか自分の気持ちをわかっ
てもらえず、駆け出しのジャーナリストとしては、まだ思うように仕事がない。

各自の問題は、解決されるものもあるし、この先ずっとこの繰り返しなんだろ
うな、と思うようなものもある。
そうやって問題を抱えてズレにもがく人たちを見つめ、イヤな部分はイヤーに
強調するんじゃなく、日常的なちっちゃな「イヤ」として、愛らしく微笑まし
いものも、ことさらに描かず、いつも誰かに訪れる日常の温かさとして、静か
に描くトーンがいい。それが物足りないという人もたぶんいると思うが、好き
な人にはそこが堪らない。

練習風景や、コンサート風景などでの、ロリータとその仲間たちの歌声が、静
かな人間観察をさらに昇華させ、美しく印象に残る。

■COLUMN
最初にこの作品を観たのは、横浜のフランス映画祭。気に入ったから公開後に
は、映画館にも観に行って、DVDが出たら、うっかり買ってしまった。1作品に
ずいぶんお金かけちゃったなー、と思うけれど、作品が終わりにさしかかった
時の「ああ、もうこの世界が終わっちゃうんだ」という寂しさを考えれば、私
には何度観ても価値のあるものなのだ(と無駄遣いを言い訳している)。

今回DVDで3度目を観て、意外なところで注目したのがインテリアだった。映画
の中のインテリアを参考にしたりすることは珍しいことではないが、今回の私
の注目点はソファとかテーブルとか照明ではなくて「本の収納」である。

我が家の本収納は、混沌と化している。スライド式でもないのに二段構えにさ
れた棚に、題名の一覧性は無いに等しく、映画のパンフレットなど大判専用の
棚はとうにパンク済み。読み終わった本は本棚前の床に積み上げるのが昨今の
習慣となっている。さらに、最近ではDVDが、ビデオテープとの体積差アドバン
テージをはるかにしのぐ勢いで増殖しはじめた。わがままや実用や優柔不断か
ら、捨てるに捨てられない知的財産の数々。これを何とかしなければ、と頭を
抱える私に、作家が2人も出てくる映画は、恰好のヒント集だ。

気軽に自宅に人を招き、引越祝いでホームパーティをするフランス生活を眺め
ながら、私の視線はその背後、本棚やCDラックなどなど。何度も観ればそんな
細かいところを観察できるのだ。結論を言うと、たくさん収納するためには、
天井まで高くスペースをとるということ。そして、本が並んでいる上に、本や
書類を、横に寝かして差し込んでも、そんなに汚くは見えない。雑然と置かれ
た状態にも、それほど神経質にならなくてもいいと思うと気が楽になった。

ちょっと一工夫を学ぶのもいいけれど、あ、その程度でも大丈夫なのね、の安
心を仕入れるのも、素敵なこと。

■COLUMN 2
そうそう、気になる情報がもうひとつ。

脚本を担当するジャウイとバクリの名コンビ、最近私生活ではパートナー関係
に終止符を打ったらしい。以前このメールマガジンで紹介したもので言えば
「ムッシュ・カステラの恋」は本作と同様に、この2人の脚本にジャウイが監
督したもの、監督は異なるが「恋するシャンソン」も脚本を書いたのはこの2
人だ。

通称「ジャクリ」と言われる脚本コンビ、私はかなりお気に入りだから、ぜひ
とも続けて欲しいのだけれど、どうなるのだろう。
フランス人は、プライベートで別れてもあまり気にせず、仕事は一緒にしたり
することが多いようだから、脚本の仕事は今まで通り続くのかも知れない。そ
んなサバサバした男女関係に期待したい。

■おしらせ
来週の配信はお休みです。
次回は8月18日の配信を予定しています。

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編集・発行:あんどうちよ

Copyright(C)2004-2005 Chiyo ANDO

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