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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.061
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★
++ 父子のジェネレーションギャップを埋めるもの ++

作品はこちら
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タイトル:「BARに灯ともる頃」
製作:イタリア/1989年
原題:Che ora è? 英語題:What Time Is It?

監督・共同脚本:エットーレ・スコラ(Ettore Scola)
出演:マルチェロ・マストロヤンニ、マッシモ・トロイージ、
   アンヌ・パリロー
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■STORY
ローマから約100キロ、小さな港町チヴィタヴェッキア。
兵役中の息子に会いに、父親がやってきた。

久しぶりの再会に、ゆっくり話がしたいという父と、父を気遣いながらも、
どこか気恥ずかしさを持つ息子。

互いの近況を話しながら散歩が始まる。 BAR(バール)で一休みしながら、
息子は恋人と別れてしまったことをうち明ける。

うち解けはじめたようにみえた二人だが、ささいな口論が重なり、
しだいに気まずさばかりが漂ってしまう……

■COMMENT
かつて、子は長じて親を超えていくことが当たり前だった。世界は常に進んで
いて、より進んだ社会に出ていく息子は、親より出世するものだった。

しかしある程度豊かになった社会では、進歩の方向はひとつではなくなった。
やみくもに出世を求めるよりも、ゆっくりと自分のペースで歩もうとする息子
たちが登場する。ガツガツと大物になることを狙うより、自分の好きなことを
細々とでもいいから、見つけていきたい。
競争社会を生き抜いて、豊かになることを目指してきた父は、この新しき世代
を理解できない。

そんな息子と父の物語である。

やり手の弁護士として大成し、今もなお精力的に仕事をこなす父は、文学なぞ
を専攻した息子が理解できず、きっと作家になって一旗揚げる気なんだろう、
と勝手に解釈する。息子は、文学が好きだったから専攻したまでのこと。明確
な野心を持ってはいない。

息子に高級マンションと高級車というびっくりプレゼントを用意する父だが、
息子はそんなものをもらっても、父の価値観の押しつけのように感じて、素直
に喜べない。父からのプレゼントで、息子がいちばん喜ぶのは、祖父の形見の
懐中時計だ。家より車より、懐かしい思い出とともにある小さな時計が、ぐっ
と息子の顔を晴れやかにする。

そもそもこの父子、以前からそれほど仲がよかったわけでなく、会話をしよう
にも、いちばんすんなりくるのが「今、何時?」などの事務的な会話だ。祖父
の時計を手にして、おどけながら時間を聞き合う時が、いちばん仲がよさそう
にさえ見える。

父子の確執の物語などというと、ドーンと重たい空気が流れることを想像する
方も多かろうが、コミカルなシーンも多く、「微笑ましいな」と思うなかから、
二人の確執が見えてくる、という雰囲気だ。
いい年の父子が遊園地のコインで動く木馬に乗っている(というかしがみつい
ている、と言う方が正しい)シーンや、父が息子の恋人に急に会いにいくとこ
ろなど、声をあげて笑うところも少なからずあり。

確執の中にも親子の情愛を感じる、味わい深い作品である。

■COLUMN
「BAR」は「バール」と読む。手元にある公開時(日本公開は1999年)のパンフ
レットには「BAR」に「バール」とルビが振られ、ルビごと題名となっているよ
うだ。しかし、インターネットでの情報発信が多い現在、ルビつきで題名を書
くのは難しい。いろいろ探してみたが「BAR<バール>に…」と書いたり、ルビ
は無視したり、それぞれ工夫があった。

1999年には、インターネットがこんなに普及して、ルビを振れない状況にある
人が情報発信するとは思わなかっただろうし、ネット上で検索しやすい題名に
する必要もなかったのだろう。たった6年で、こんなに時代は変わるのだ。こ
れからは、親子どころか、ちょっと離れれば兄弟だって、世代間に著しいギャッ
プが生まれるかも知れない。

原題は「今何時?」、物語の重要な舞台となるとは言え、テーマはバールでは
ない。苦労して「バール」を題名に入れ込む必要は必ずしもなかったのだが、
この題名をつけた人たちは、この映画が、イタリア文化の発信源であってほし
いと、願っていたのではないか。
西洋の喫茶店といえば、すべて「カフェ」とひとからげにされた頃。イタリア
のものは、「カフェ」なんて言葉で表せない、現地の言葉で「BAR(バール)」
としか呼べないものだ、という強い思いがあったのだろう。

この映画から見える「バール」は、たむろする客同士が家族のように時を過ご
し、店主は客の好みを熟知し、飲み物だけではなく、軽い料理も出す、居酒屋
にも似た感じ。フランスの「カフェ」とはひと味違った雰囲気で、地元密着の、
家族的な雰囲気をよしとするイタリアらしさが伝わってくる。

イタリアのバールチェーン「セガフレード・ザネッティ」が日本に第1号店を
出したのが1998年12月。現地の家族的な雰囲気は出なくとも、本当に濃いエス
プレッソ、カプチーノといった「本物の」イタリアを、(誰が図ったか知らな
いが)日本にも定着させようという流れがあった頃。
この映画の日本公開はそんな時期で、その流れに乗って、映画を通して「イタ
リア」を体感してほしい、と配給した人たちは考えたのだと思う。
私も、作品に登場する「バール」の独特の雰囲気を楽しんだ。

しかし現在、バールという言葉自体は、興味を持ちそうな層にはもう浸透した
だろうし、ルビつき題名は時代にそぐわない。たった6年で、この邦題の賞味
期限は切れかかっているように思う。
だけれど、なんでもない小さな港町で普通に暮らす人を眺めて、現地の空気を
味わう魅力は、日本語でなんと呼ばれようとも、決して減ることはない。


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