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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.064
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★
++ 素直な夢、素朴な願いの行方は ++

作品はこちら
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タイトル:「エブリバディ・フェイマス!」
製作:ベルギー・フランス・オランダ/2000年
原題:Iedereen beroemd! 英語題:Everybody Famous!

監督・脚本:ドミニク・デリュデレ(Dominique Deruddere)
出演:ヨセ・デパウ、エヴァ・ヴァンデルフフト、
   ウェルナー・デスメット、ヴィクトル・レーヴ、テクラ・ルーテン
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■STORY
ベルギー北部の小さな町。ビン工場で働くジャンは、妻と歌手を目指す17歳の
娘マルヴァと3人暮らしだ。
マルヴァは町ののど自慢大会に出ては、冴えない成績に終わることを繰り返し
ている。ジャンは娘の才能と将来のデビューを信じ、いつも応援にでかけてい
るが、思春期の娘にはすっかり疎ましがられている。

そんな折、勤めていたビン工場が倒産、ジャンは失業してしまう。家族に言い
出せず、仕事に出かける振りを続け、精神的にも追いつめられた頃、偶然人気
歌手のデビーに出会う。
ジャンが思いついた計画はなんと、デビーを誘拐し、身代金代わりに自分のオ
リジナル曲でマルヴァをデビューさせること!

■COMMENT
私好みのばかばかしいコメディ。
こういう場合の「ばかばかしい」は、もちろんほめ言葉だ。

人前で歌うのが好きなのはわかる。しかし率直に言って端から見ればそんなに
歌は上手くなく、外見もぽっちゃり型のマルヴァ。
だが父はそんな娘を、きっとデビューして大歌手になるだろうと、信じて疑わ
ない。この父、家族にはそれなりにサービスしているのだけれど、どうも嫌わ
れるばかりで、さらに失業までしてしまう。

こんな冴えないお父さん、日本でも「典型的」な形でよく描かれる。
親近感もわく。

そんなお父さんの奇策が、有名歌手を誘拐して、娘をデビューさせよう、とい
うもの。見ようによっては、その愚直さはとっても悲しい。実際、見ているう
ちに哀れだな、という思いを禁じ得なくなるときもあった。だけれど、その善
人がうっかり一生懸命になったあまりに起こした行動は、子供っぽくて平和な
笑いを誘う。
周りの登場人物もいろいろと、おかしくて楽しい所作をしてくれる。

それでも誘拐は、笑ってられない犯罪だし、マルヴァの夢も客観的に見てどう
も叶いそうにもない。これをうまく着地させるなんて無理じゃないかと、と先
を心配しながら見た。ひょっとしてものすごく暗く辛い結末に突き落とされる
んじゃないかと。

デビーのプロデューサーも加わって、状況は二転三転、思いも寄らない方向に
進んでいって、あらあら、最後には画面の登場人物と一緒に拍手しちゃいたい
気分。上手に作り込まれたコメディだった。

マルヴァの歌う、劇中歌「ラッキー・マヌエロ」は見た人の耳について離れな
いに違いない。今でも私の頭の中では「ゥラッキー、マヌエーェロォー」と鳴
り響いている。

■COLUMN
マルヴァが学校で、イヤミな教師に「この素敵な詩をこんな風にしか朗読でき
ないなんて、人に心を伝える才能がないのね」なんて言われて落ち込むシーン
がある。表現して伝えて人の心を打つ才能がないなんて、歌手だったら致命的
だ。

歌手に限らず、人に自分の気持ちを伝えることを、人間は日々やらなきゃなら
ないのだが、面倒でサボったり、うまく伝えられなくてそのままにしていたり
する。

この映画でジャンが娘マルヴァに想う気持ちを伝えることができないのもそう、
マルヴァの方だって、自分の微妙な気持ちや夢を、父に伝えることはうまくで
きていない。夫婦間でも互いの愛をきちんと伝えているとは言い難い。
多くの人に感動を与えているスター、心を伝える才能にあふれているはずのデ
ビーでさえ、好きな自動車修理でもしながらのんびり暮らす夢を、いくら伝え
てもプロデューサーの理解は得られない。

小さな夢や願いだから簡単に叶うわけではないように、小さな気持ちだから、
たやすく伝わるというものでもない。だけれど、冴えない曲だった「ラッキー
・マヌエロ」がどうにも忘れられない迫力の曲に変身したように、<場>と
<タイミング>を得れば、伝わる素地ができることもある。

伝える努力を忘れてはいけないが、ちっとも伝わらなかったものが、状況によっ
てするりと伝わることもある。実現させる努力は無視できないが、ちっとも叶
わなかった夢が、ある日つるりとつきぬけることもある。
だから、一度ダメでもいつもダメでも、再挑戦、再々挑戦は無駄じゃないのだ。
笑いながら泣きながら、そんな素朴な勇気ももらえる物語である。

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編集・発行:あんどうちよ

Copyright(C)2004-2005 Chiyo ANDO

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