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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.065
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★
++ 固有名詞に笑う ++

作品はこちら
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タイトル:「おとぼけオーギュスタン」
製作:フランス/1995年
原題:Augustin

監督・脚本:アンヌ・フォンテーヌ(Anne Fontaine)
出演:ジャン=クレティアン・シベルタン=ブラン、ステファニー・チャン、
   ギ・カザボンヌ、ノラ・アビブ、ティエリー・レルミット
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■STORY
ちょっとおかしな青年を主人公にした、61分と短めのコメディ。
1日3時間28分、保険会社で督促業務をするかたわら、俳優を志望して、小さ
なCMや、映画の端役に取り組む、32歳、オーギュスタン。

3時間28分きっちりしか働かない、しかし就業時間内はさぼらず集中して仕事
に取り組む。オーディションで自分をアピールするのだけれど、自分のキャラ
クターをどこか自覚していない。細かいところまで説明しないといられなくて
饒舌にはまりこむ。小さい役でも役作りは徹底的にする。

生真面目で単純で、緊張するとどもりグセが出て、ちょっとずれたセンスを持
つオーギュスタン、映画のオーディションのチャンスを掴んだけれど……

■COMMENT
物事に執着しやすいから、話がやたらに長くなったり、本人は大真面目だから、
人が自分を面白がるところが理解できない。そんなキャラクターを主人公にす
るコメディは割と頻繁に見られるんじゃないだろうか。
だが、そういうカテゴライズで整理して納得することが、映画を楽しくすると
は思えない。

たとえば、これを「仏版Mr.ビーン」と説明しているサイトを見かけたが、
まあ、確かに、そう説明すればこの映画の雰囲気の一端は伝わるだろう。
だけれど、何版の何とか、ではなくて、これはオーギュスタンなのだ。題名に
堂々と、固有名詞が使われていることから見ても(日本語では少し親切に「お
とぼけ」とつけてくれているが)、これはオーギュスタンというキャラクター
であり、オーギュスタンのおかしさであって、オーギュスタンだから面白い。

他の誰かと比べて説明がつくものではない。「〜系キャラ」とか、それを一般
的な表現に換言することは不可能だ。とにかくオーギュスタンにとことんつき
あってオーギュスタンを観る。これが正しい鑑賞方法。

などと意地を張っていても作品紹介にはならないので、この映画の「おかしさ」
を支えているものを考えてみよう。

私がみたところ、少しドキュメンタリータッチに作られているおかげで、オー
ギュスタンという主人公が、リアリティある身近な存在になっている。
オーディションを受けるオーギュスタン、同僚や上司とおしゃべりするオーギュ
スタン、日常のワンシーンワンシーンを、カメラがそばで観察しているような
視点が多い。
この雰囲気が、何かのストーリーで作り込まれた誰かではない「オーギュスタ
ン」というその人を、現実的な存在感で目の前に表してくれる。おかしさがく
どくなく、素直に笑わせてくれるのだ。

リアリティと言えば、無名の俳優が大半を占める中、メジャー俳優ティエリー
・レルミットが、本人役で出演し、ふだんからこんな感じの人なのかな、とい
う印象を残すおまけもついている。

オーギュスタンの言動に、思わず吹き出し、思わず顔をほころばせる。
日常のストレスを吹っ飛ばすのにも最適の1時間。

■COLUMN
自宅近くのTSUTAYAでブラブラしていたら、新作コーナーに私を立ち止まらせる
ものがあった。
「なんだろう、これ、知ってる、でも、何だっけ。うー、思い出せない、でも、
確かに知ってる。」
これがオーギュスタンとの再会。
確かに知ってるけれど、定かには思い出せない。

パッケージをじーっと見ているうちに、なんとなく思い出されてくる。
─そうそう、なんか、笑える青年のコメディだよね。だいぶ前に映画館で観た。
どこで観たんだったかな。上映時間が短いから、1000 円とか、格安で観られた
んだっけ。ん? なんか違う。そうだ、値段はふつうなんだけど、短い分の埋
め合わせにと、もれなく絵ハガキがついたんだ。

観たときには「面白かったよ」といろいろな人に行って回った気がするのだけ
れど、時が経った今、その作品の存在さえすっぱり忘れてしまっていた。なん
だか申し訳ないような気持ちと、パッケージを見ただけで、長年すっぱり横に
追いやっていた記憶が、芋づるのように引き出されるおかしさ。二つの気持ち
が入り混じって、DVDをつかんだまま、一人で小さく笑ってしまった。

こんな風に日常の記憶からすっぽり抜け落ちている作品は、他にもあるかもし
れない。
何かの拍子にその記憶を取り戻す感覚は面白かったけれど、できれば、次には、
DVDのパッケージなんていう直接的な刺激ではなくて、マドレーヌと紅茶を口に
含んだ瞬間だとか、花の香りが漂ってきた瞬間だとか、もう少しロマンチック
なきっかけで思い出せたら、なおいいと思う。


なお、今回のDVD(ビデオ)化は、続編が日本で公開されるためらしい。
東京ではもう終わってしまっていて残念だが、これから巡回する地方の方はぜ
ひどうぞ。
続編「オーギュスタン 恋々風塵」公式ページ
http://www.wisepolicy.com/augustin_roi_du_kung-fu/
■おしらせ
読者の paris-neko(パリネコ)さんのブログを紹介いたします。

パリに渡って4年目、仔猫を飼い始めたのをきっかけに、
パリネコさんは、愛猫ナツメちゃんとの暮らしや、パリのできごとを
ブログで配信しはじめました。

念願の黒猫と思ったら、意外な秘密も潜んでいたナツメちゃんは可憐、
パリの生活を通して気づいた日仏文化比較なども展開してくれて、
読みどころ、見どころたっぷり。おすすめブログです。

「パリで猫と暮らす日記」はこちら


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