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欧 州 映 画 紀 行
                 No.067
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★
++ 料理と人生、民族と政治と国境のあいだに ++

作品はこちら
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タイトル:「タッチ・オブ・スパイス」
製作:ギリシャ/2003年
原題:Politiki kouzina (Πολιτικη Κουζινα)
英語題:A Touch of Spice

監督・脚本:タソス・ブルメティス(Tassos Boulmetis)
出演:ジョージ・コラフェイス、タソス・バンディス、
   マルコス・オッセ 、バサク・コクルカヤ
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■STORY
トルコとギリシャの政治対立に翻弄されたギリシャ人一家の物語。
両国の対立が深まった60年代、コンスタンティノープル(イスタンブール)に
住んでいたギリシャ人たちに国外退去の命令が下る。

アテネで宇宙物理学者をするファニスのもとに、トルコにいる祖父が訪れると
いう知らせが来る。料理上手なファニスは、祖父の好物料理で迎えるべく準備
をはじめたが、祖父は急病で倒れて、来られなくなってしまう。祖父とは、ファ
ニスと両親が国外退去を命じられた35年前に別れて以来、一度も会っていなかっ
た。
コンスタンティノープルで雑貨とスパイス店を営んでいた祖父との、幸せな暮
らしの記憶をファニスは思いめぐらす。

■COMMENT
ギリシャとトルコ、隣国同士は何かとトラブルを抱えやすいことはいずこも同
じ。長い歴史の中で、二つの国は対立し、その度に互いの土地に住む相手側の
住民は、割を食ってきた。
祖父に、宇宙のことも人生のこともスパイスのことも教えてもらって、楽しく
暮らしていたファニスは、完全なおじいちゃん子だ。しかしトルコ国籍を持た
ないがために、ギリシャへ移住を強いられ、祖父とは離ればなれになってしま
う。

祖父とともにいた暖かい幼少時代から、アテネに移った後の少年・青年期、そ
して現在までを回顧する物語。
こういうと、重く苦しい物語に聞こえるかも知れないが、楽しい子供時代はも
ちろん、故郷を追われた後にも、笑いにつつまれた愉快な瞬間がたくさんあっ
て、微笑ましく観られる作品である。

子供時代を前菜、少年・青年期をメイン・ディッシュに、現在をデザートとし
た章立てをはじめ、料理に例えた進行、台詞が楽しい。スパイス使いの達人で
ある祖父からファニスは、天空のことも人生のことも、スパイスを通して教え
られた。苦くも、甘くも、辛くもある人生の様々な側面を、それとして受け入
れて生きる。しっかり受け入れた者だけが享受できる味わいが、画面にはあふ
れている。

タイトルやパッケージから、料理の映画かとの印象を抱きやすいが、それは半
分だけ“あたり”。料理を通して人生を語ることも、人生を通して料理を語る
ことも、双方向に行き来ができることを体現した映画だ。
全編通して、たくさんのたくさんの料理が登場。見終わったら、心地よくおな
かがすいて、近所のギリシャ料理屋(もしくはトルコ料理屋)を探してみたく
なるだろう。

そして、アテネとコンスタンティノープル(イスタンブール)、2つの美しい
街並みにも息を飲む。ついでに格安ツアーも探してみたくなるかもしれない。

■COLUMN
映画の中で、イスタンブール出身のギリシャ系住民は、自身を“Politiki(ポ
リティキ)”と分類する。原題にもあるこの言葉は、“Polis(町)の”、とい
う意味で、ギリシャで“Polis(町)”といえば“Constantinoupolis ”を指
す。
現在、通常はイスタンブールと呼ばれる、アジアとヨーロッパを結ぶ土地は、
世界で最も美しい町。それこそが“Polis”の名にふさわしい。だから“Polis
の”といえば“コンスタンティノープルの”以外の何ものでもない。

そして、“Politiki”は、Politicの語源でもある。「イスタンブールのギリ
シャ系料理」(“Kuizina”は料理、キッチンの意)と同時に「政治的キッチ
ン」の意味ももつ、政治対立に翻弄されてきた一族の物語として、うまく詞を
をかけたタイトルだと思う。
(参考:http://us.imdb.com/title/tt0378897/usercomments

トルコではギリシャ人扱いをされ、ギリシャではトルコ人扱いをされる。二つ
の国のあいだに生きる人々は、かように不安定な立場にありながらも、同時に
二つの文化のあいだをとった、豊かな文化を創り上げる。

何かと何かのあいだにいる人たちは、その両方に属し、また両方ともにも属さ
ない。険悪になった誰かと誰かの、双方の事情をよく知る人が、そのあいだに
立って仲直りを促すように、政治的に険悪になった両国のあいだに立って入れ
るのは、“Politiki”のような人たちだろう。あいだの一族の辛い歴史ととも
に、美しい希望も備えている。
だが、彼らが両方からつまはじきにされるのだとすれば、あいだに立つことを
気軽に期待するのは、辺境にいる他人の都合のよい美談なのかもしれない。

ともかく、両方のよいところ、悪いところを知り、うまくその文化をミックス
させる、あいだに生まれた人たちには、そのミックスが限りない幸せと強みで
あり、同時に深い哀しみと弱さなのだと思う。

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