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欧 州 映 画 紀 行
                 No.068
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。


★心にためる今週のマイレージ★
++ やっかいで心地よい、難しい恋人のような映画 ++

作品はこちら
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タイトル:「アパートメント」
製作:フランス・イタリア・スペイン/1996年
原題:L'appartement 英語題:The Apartment

監督・共同脚本:ジル・ミモーニ(Gilles Mimouni)
出演:ロマーヌ・ボーランジェ、ヴァンサン・カッセル、モニカ・ベルッチ、
   サンドリーヌ・キベルラン、ジャン=フィリップ・エコフェ
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■STORY
仕事は順調、結婚も目前。エリート商社マン、マックスは誰が見ても幸せの絶
頂にいた。
しかしそんなある日、パリのカフェの電話コーナーで、かつての恋人リザの声
を聞く。リザとは熱烈に愛し合い、結婚も考えたが、2年前、彼女は突然行方
をくらましてしまったのだ。
婚約者には、出張で東京に行っていると思いこませ、切れ切れに聞いた彼女の
会話と残したホテルのキーをてがかりに、マックスはリザを探しに行く。

■COMMENT
ミステリータッチでスピーディな物語展開、倫理観や恋愛観を揺すぶられるエ
ピソード。やっかいといえば、やっかいだけれど、心地よい刺激をもらえる作
品だ。いろいろ振り回されて、感情もかきまわされて、持て余してしているの
に、やめられない恋しい人に似ているかもしれない。

リザを探すマックスの様子を追いながら、かつての思い出が少しずつインサー
トされて、ミステリーが解明されていく。

「リザはなぜあの時いなくなったのか」「リザの身に今何がおきているのか」。
これはマックスも知らない謎である。マックスは捜索から少しずつその核心に
迫っていく。
そして「リザとマックスはどうやって出会い、どう別れたのか、二人には何が
あったのか」これは観客の知らない謎。マックスが、リザを探しながら過去を
思い出すシーンの中で、観客に知らされていく。

さらに、捜索を進めるうち、リザのアパルトマンにたどりついたかと思ったら、
そこにいたのは「リザ」という名の別の女性。核心に迫ると思いきや、「一体
この女は誰なのか」と、謎は増えてしまう。二重三重にしかけられたミステリー
に、とにかく先が気になって仕方がない。
この物語は、はじめてならば、あまり予備知識を持たないで観た方が面白いか
ら、これ以上のストーリー説明はしない。

はじめは何も事情を飲み込めず、マックスの捜索と回想を頼りに事実を把握し
ていた観客が、最後には、マックスよりも誰よりも事情をよく知る神の視点を
持つ。このスリリングな展開は、本当のラストまで目が離せない。

全てが分かった後も、こんな恋愛の始まり方って、あるだろうか。こんな風に
人を好きになってもいいんだろうか、こんな方法でアプローチすることは祝福
につながるのか、人を愛する気持ちは何にも勝るのか……。
いろいろ、いろいろ、ああだ、こうだ。考え込んでみるのもいい。誰かと一緒
に観たのなら、意見を言い合ってみるのもよし。

事情を理解した神の視点をもって、もう一度前のシーンに戻ると、「ああ、こ
こはこうなっていたんだ」と改めてストーリーを認識することができる。2度
目、3度目、そして気になったシーンを確認するのも興味深い。ビデオ鑑賞な
らではの楽しみもつまっている。

■COLUMN
題名になっているだけあって、いくつも登場するアパルトマン(アパートメン
ト)を眺める楽しみもある。

らせん階段でコツコツ昇っていくアパルトマン。そのらせん階段のすぐ横に、
中の籠がしっかり見えるエレベーターがあったり。日本のマンションやアパー
トはだいたい、廊下がまっすぐあって、片側にドアが並んでいるけれど(最近
の新築マンションはいろいろ変わった工夫もされているのかもしれないが)、
そういう整然とした並びじゃない、フロア内での配置が面白い建物もある。

内部に入れば、大きなリビングを磨りガラスでセパレートするインテリアの知
恵も面白い。窓の横ぴったりとベッドを寄せる部屋には、朝の目覚めがよさそ
うだと思う。建物は自分ではどうしようもないけれど、部屋の中なら、真似で
きるところもありそうだ。

そして、日本人にはなかなか馴染みがないことと言えば、向かいのアパルトマ
ンから、通りの反対側のアパルトマンの様子がよく見えることだ。向かいの部
屋の様子をのぞくというシチュエーションが、この作品には複数回登場する。
これは、登場人物の特異性の問題だけではなくて、のぞこうと思わなくても、
向かいの部屋が見えてしまう、アパルトマン群の構造がなければ成立しないこ
と。

ここ東京でも、暑い日に、窓が思いっきり開いていて、通りから中で見てるテ
レビまではっきり見えてしまう家に出会うことがあるけれど、そういうときは、
なんだか、間違いを犯したように、見たこっちが恥ずかしくて目をそむけたり
する。
それがたぶん、少なくとも都市部では一般的な反応で、だから、屋外や向かい
のビルから、容易に中が見えるつくりは、日本の住宅建築では少ないはずだ。

対して、パリの人は、他人から生活を見られることに頓着しないのか、恥ずか
しいことをしていないなら、中が見えてもそんなには気にしない人が多いのだ
ろう。
いろいろな人がいるから決めつけられないけれど、たまたま向かいの部屋の様
子が見えるという設定は、日本の物語なら、あんまりリアリティを持たないこ
とは確か。ふだんは気づくことがない、こんな日常文化の違いの発見も一興で
ある。

■おしらせ
都合により、来週は発行をお休みさせていただきます。
次号は、10月20日配信の予定です。

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編集・発行:あんどうちよ

Copyright(C)2004-2005 Chiyo ANDO

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