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欧 州 映 画 紀 行
                 No.069
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。
★心にためる今週のマイレージ★
++ 変われる自分を愛する。それが思いがけなくも。 ++

作品はこちら
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タイトル:「歌え! ジャニス★ジョプリンのように ジャニス&ジョン」
(公開題:「歌え! ジャニス★ジョプリンのように」)

製作:フランス・スペイン/2003年
原題:Janis et John  英語題:Janis and John

監督・共同脚本:サミュエル・ベンシェトリ(Samuel Benchetrit)
出演:セルジ・ロペス、マリー・トランティニャン、フランソワ・クリュゼ、
   クリストファー・ランバート、ジャン=ルイ・トランティニャン
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■STORY
平凡な主婦が、自分の中に眠っていた意外な本性に気づくコメディ。

妻と子、3人で平凡に暮らす保険会社勤務のパブロ。職務を利用した詐欺で小
遣い稼ぎをしようとしたが失敗。50万フランもの大金を補填しなくてはならな
くなった。

そんな折、クスリで頭のいかれた従兄弟レオンに、100万フランの遺産が転がり
こんだ。レオンはジョン・レノンとジャニス・ジョプリンを敬愛し、何しろ頭
がやられているから、2人がとっくに死んでいる事情をうまく理解できていな
い。こいつから金を巻き上げよう。
かくして妻のブリジットをジャニス・ジョプリンに変装させてレオンのもとに
送り込む。

はじめは嫌がっていたブリジットだったが……

■COMMENT
突拍子もない設定を、うまい具合にスピーディにリアリティを持たせて、乗せ
てくれるコメディだ。
「誰かがジャニス・ジョプリンになりきる」という設定を、観る人にすんなり
受け入れさせることは難しいと思うのだが、「遠い昔にクスリであっちの世界
に行ってしまった」キャラクターを登場させてうまくいっている。
この頭をやられた従兄弟レオンが、かなりピュアにジャニスとジョンを敬愛し
ているから、このファンタジーに乗るのも悪くないと観客は感じるのだ。

現代人の生活を、笑いと皮肉で言い当てたパブロのモノローグは、冒頭からしっ
かり心をつかむから、せこい悪事を働いた彼もなんとなく受け入れてしまう。

設定はととのった。
己の中のジャニス的な部分に気づく主婦ブリジットの変身ぶりを楽しもう。

人を紹介されて握手しようにも、掃除を途中で抜け出してきたため、ゴム手袋
がぴったりついて外れない。そんな象徴的シーンに見られるように、悲しいほ
ど板についた平凡な主婦だった彼女が、60年代ファッションに身を包み、ジャ
ニスの振りをするうち、精神的にも解放されていく。不仲だった義母とうちと
け、子どもの学校のお母さんがたとおしゃべりし、他人の目に怯えなくなる。

彼女がジャニス役で忙しいから、家ではふんぞり返っていたパブロが、毎日の
買い物や家事に追われはじめるところは、ストレスの溜まった主婦にはきっと
痛快だろう。
心地よく人が変わり、己の世界を築きあげるのを見るのは嬉しい。

ジョン・レノンのそっくりさんとして、売れない役者ワルテルを雇うのだが、
こちらもだんだんその気になっていく姿がおもしろい。実際ほんとうにそっく
りだし。後半、あまり出番がなくなってしまったのが少し惜しい。最後のほう
で彼の描写を増やしてくれてもよかったかな。

■COLUMN
高校生の頃、私はわりとジャニス・ジョプリンという人が好きだった。
その昔、せっせとレンタルして、歌詞カードをコピーして、曲目を書き込んで、
カセットテープにダビングしたものが、たぶん段ボールの奥底でのびきってい
るか、カビが生えているかしていると思う。

いろんなレコード(!)やCDを、レンタルしてダビングして、自分のオリジ
ナルライブラリを作るなんてマメなことをしたのは10代まで。
しかしその頃の手間と思い出が愛おしく、捨てられずにいたカセットテープ群
を、MDにおとして保存しておかなきゃと、CDMDラジカセを買ったは、も
う6、7年前。何の作業も進まないまま、世の中MDの時代も終わったらしい。

今では、また聴きたくなったらCD買えばいいもんねー、iTunesストアもある
しさー、とドンと構えている。大人になるとは、なんと気楽でぜいたくで、味
気ないもの。

話は戻って、私がなんでジャニス・ジョプリンという人がわりと好きだったか
というと、絶対に私にはないものがあるように見えたからだ。
感情をたたきつけるようなシャウト、今その瞬間に全霊をかける歌。
動くより先にうじうじと頭でっかちに考え込み、ちょっとばかし優等生である
ことが逆にコンプレックスであった思春期の私には、現実にそうなりたいわけ
じゃないけど「次に生まれてくるならあんな風に」という理想の選択肢だった。

だけれど、私のように「絶対ああはなれない、だからいいのよ」と横目で見て
いる輩には、実はかなり具体的で下世話な羨望と欲望が、きっと隠れている。
いつか直情的な人に変われる時を、意識の下ではねらっている。
ジャニスの存在さえよく知らず、変装してはじめてその“しっくり”具合に気
づく、そんなところにこそ、変身のチャンスは転がっているのかもしれない。

ブリジットが最後に披露する「コズミック・ブルース」はジャニスになりきっ
て、かつブリジットのオリジナルとして生き生きしている。その様子はやっぱ
り羨ましい。

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編集・発行:あんどうちよ

Copyright(C)2004-2005 Chiyo ANDO

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