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欧 州 映 画 紀 行
                 No.071
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★
++ あの選択が最良だったかはわからない。だがとにかく前に進むのだ。 ++

作品はこちら
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タイトル:「ウェルカム・トゥ・サラエボ」
製作:イギリス/1997年
原題:Welcome to Sarajevo

監督:マイケル・ウィンターボトム(Michael Winterbottom)
出演:スティーヴン・ディレイン、エミラ・ヌシェヴィッチ、マリサ・トメイ
   ウディ・ハレルソン、ケリー・フォックス、ゴラン・ヴィシュニック
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■STORY
内戦中のサラエボを、取材に訪れたジャーナリスト、マイケル。
衝撃の映像やスクープを求めてやってきたのだが、あたりまえのように弾丸が
飛び交い、市井の人々が毎日ふいに銃弾に倒れるところを目の当たりにするう
ち、彼は違和感を持ち始めるのだった。

ある日、前線にある孤児院を取材したマイケルは、スクープをとるよりも、危
険地帯にいる子供たちの存在を、世に知らしめたいと思うようになる。

■COMMENT
イギリス人ジャーナリストの実体験を元にした小説が原作。ところどころに実
際のニュース映像が差し込まれ、悲しく激しいリアリティを生みだしている。

銃撃で人が倒れ、血まみれの人が地面に転がる。そこにカメラを向けるジャー
ナリストたち。「撮ったか?」。今そこにある惨禍は絵におさめなくてはなら
ない。それがジャーナリストの仕事だ。
しかしその悲惨な映像を本国に送っても、トップニュースは誰やら貴族の離婚
ニュースであったり、国連の偉い人は優雅に飛行機から降り立って、サラエボ
よりも悲惨な国が13ヶ国あるんだと言い放つ。

これは戦争を扱った映画だが、その視点はジャーナリストとしてこの戦争にど
う関わるのか、という葛藤である。
爆撃に曝される孤児院を取材し、マイケルはこの子供たちを安全なところに移
してやりたいと考えた。孤児院の取材を続け、国連の代表団に子供たちのメッ
セージを毎日伝えようと主張するが、同僚は、それではニュースじゃくてキャ
ンペーンだと言う。

私は、いかなるものがジャーナリズムなのか、確固たる考えを持ち合わせない。
同僚のように、政治的背景を探ったり、様々な方向から戦争を伝えることも、
ニュースの大事な役割だと思う。彼らの言い分もわかる。
お涙頂戴だと言われても、今そこで危険にさらされている子供の声を流し続け、
その子たちを救おうとするのも、大切なことだ、とも思う。
多角的に取り上げ、真摯に取材・報道しても、さしたる興味を得られないなら、
ひとつでもふたつでも、実際に何かを助ける方が、人間として自然なことかも
しれない、、、とも思う。

ジャーナリストに何ができるのか。いくら世界を真剣に考えていても、所詮は
野次馬根性に支えられているだけなのか、それでもその場で生の声を聞いて実
際の映像をとることは、力になることなのか。どの言い分もそれぞれに正しく、
しかしそれだけが真実ひとつの答えではない。
だが少なくとも、マイケルが最終的に選ぶ行動には、誰も異をとなえられない
だろう。

■COLUMN
手元に『サラエボ旅行案内』という本がある。
紛争のさなか、包囲状態にあったサラエボの町を、ミシュランのガイドブック
風にサラエボを紹介したものだ。紛争状態になる前は、主にテレビ番組などを
制作していたプロダクションのクリエイターが執筆をした。


「飲み物」─サラエボの水はうまいと評判がよかった。今では沸騰させるか浄
水剤を入れてきれいにしなければ飲めない。

「市内交通」─タクシーは存在しない。…駐車は手りゅう弾と盗難の心配がな
い場所でのみ可能。だがそんな場所はめったにない。…ガソリンスタンドは営
業していない。

「医療」─薬局は営業しているが、薬品はほとんどない。常用のビタミン剤を
もっていくのがいいだろう。

などなど、強烈なパロディに皮肉をこめながら、逆境にいるからこそ生まれる
ユーモアを光らせている。
ここでは、映画や演劇がどこに行くと見られるか、展覧会はどこで開かれてい
るか、そんな案内もある。どこで砲撃されるかわからない状態のなかで、人々
は映画を上映し、公演をうち、私設のラジオ局を立ち上げ、文化によって「生
き延びた」のだと言う。

映画の中でも、丘の上で開かれたコンサートに、多くの住民がぞろぞろと階段
をのぼって向かうシーンは印象的だ。
建物が破壊され、死ぬことが日常と化した世界では、文化活動やスポーツや、
皆で言い合う冗談によって人々は生き抜ける。悲しいのやら、勇気が出るのや
ら、わからない事実がそこにある。

題名「ウェルカム・トウ・サラエボ」は、町の入り口の家屋の壁に、報道や国
連など外からやってきた人々に向けて、大きくペンキで書かれた、メッセージ
の言葉である。

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編集・発行:あんどうちよ

Copyright(C)2004-2005 Chiyo ANDO

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