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欧 州 映 画 紀 行
                 No.073
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★
++ とっても楽しく、けっこう辛い。カップルで生きること ++

作品はこちら
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タイトル:「フレンチなしあわせのみつけ方」
製作:フランス/2004年
原題:Ils se marièrent et eurent beaucoup d'enfants
英語題:...And They Lived Happily Ever After

監督・脚本・ヴァンサン役:イヴァン・アタル(Yvan Attal)
出演:シャルロット・ゲンズブール、アラン・シャバ、アラン・コーエン、
   エマニュエル・セニエ、アヌーク・エーメ、クロード・ベリ
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■STORY
イヴァン・アタルとシャルロット・ゲンズブール、実生活も夫婦である2人に
よるカップル物語。(その第1弾作品はこちら

ガブリエルとヴァンサンは、息子のジョゼフと3人暮らし。家族で仲良く暮ら
しているが、ヴァンサンはどうやら浮気しているらしく、ガブリエルは不安な
気持ちを抱えながら、素知らぬ顔を続けている。
ヴァンサンの友人のジョルジュ宅では、隣人がうんざりするほどに、夫婦げん
かが絶えない。二人はあちこちに恋人を作る独身貴族のフレッドを羨ましがる。
だが、フレッドは家に待っていてくれる人がいるなんて幸せ者だ、と。

それぞれのカップルの事情の行方は?

■COMMENT
やたら長い原題は、おとぎ話の最後の決まり文句、日本語にすれば「二人は結
婚し、末永くしあわせに暮らしました」という感じか。
結婚生活といえば「しあわせになる」と相場は決まっているが、そうならない
人もいるし、全体的にみればしあわせかなー、でも不満もあるし、秘密だって
あったりして、と人それぞれ、微妙な目盛りをいったりきたりするものだろう。

それでも「末永くしあわせに暮らしました」はみんなの頭にこびりついて離れ
なくって、きっとあの人もこの人も、そして自分も、そこに至るんだと信じて
る。信じたい。
「幻想さ」とクールに笑い飛ばすこともできず、理想通りにもふるまえず、と
りあえずそこそこしあわせで、そこそこ不幸な、みんなの物語である。

ガブリエルとヴァンサンのカップルを中心に、そのまわりにいる複数のカップ
ルのスケッチの数々。あるあるー、とうなずくものも、絶対変だ、と笑うもの
も、ひょっとして自分と同じ? と臆するものも、多彩にとりまぜられ、愉快
で刺激的だ。

ヴァンサンが、そーっと帰宅して入浴中の妻子を驚かせてお茶目なパパをする
ところや、ケチャップやらクリームやらを互いにかけ合って、けんかとじゃれ
合いの間で大騒ぎしている二人を見ていると、この二人のあいだに影がさして
いるなんて、信じられない気分になる。
お互いいろいろあるけれど、「微笑ましい二人の物語」と感じるか、「微笑ま
しい中にも実は闇が迫ってる」と薄ら寒く感じるか、それは観る人の実生活の
「今」に依るんじゃないかと思う。

私自身はどう感じたか、て?
今春、劇場で観たときには、複雑に重い気持ちにさせられたのだけれど、これ
を書くために、改めて二日前に見直したときには、素直に微笑んで鑑賞。その
真意はいずこに。

幼いジョゼフ(演ずるのは主演二人の実子)が、父親譲りの女たらしぶりを発
揮したり、祖父母がやたらと孫に甘かったり、細かい描写も、ひねりがきいて
いて面白い。

ジョニー・デップのカメオ出演にも注目。

■COLUMN
なんでもない普通のカップルのいる風景には、異国のなんでもない日常が映さ
れていて興味深い。(ただし、なんでもない普通のカップル、と言ってしまう
には、皆リッチすぎるかなあ、とも思うが)

男3人で愚痴り合って、女の話をしている姿なんて、日本にもこんな光景あり
そうだ。その友から夜にポーカーの誘いが舞い込んで、ガブリエルが不機嫌に
なったり。カップル社会で家族と過ごす時間を大切にする西欧社会と日本は違
う、とよく言われるけれど、似たようなケンカはどこにでもあるものだ。

家庭生活の描写も多いから、インテリアにも目をひかれる。リアルに雑然とし
たキッチンの棚の整頓具合は、きれいに使いやすい部屋をつくる参考にできそ
う。間接照明を多様する彼の地の生活には、かわいいランプやかっこいいライ
トが各部屋いろいろ置かれている。部屋に何かひとつアクセントになるものを
探している人には、きっといいヒントになる。

最近のフランス映画を観ていると、ちょっと「今風」な生活している人が、床
に座ったりソファにあぐらかいたり(座禅のつもりかも)して、日本料理か中
華を箸で食べてるシーンによく出くわす。そういうスタイルを持っていること
を、あたかも「ちょっとセンスがあって、おしゃれなものに敏感な人」の記号
として使っているかのようだ。

この作品にも、寿司っぽいものだろうか、ご飯を盛ってある器、おかずを盛っ
てある器、それぞれそこから自分の皿に取り分けて食べる、なんだかわからな
い料理を、低いテーブルに箸を使って、というスタイルのディナーが登場する。
どんな料理か今ひとつ判別できないのが残念だけれど、カリフォルニア・ロー
ルとか、豆腐サラダのように、こういう料理やスタイルを逆輸入するのもいい
手かもしれない。

遠い国の映像に、自分の国の類似を見つけるのも、手本を見つけるのも、痕跡
を発見してふいをつかれるのも、どれもどれも、楽しい体験である。

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編集・発行:あんどうちよ

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