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欧 州 映 画 紀 行
                 No.074
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★心にためる今週のマイレージ★
++ まっすぐに、生き抜く ++

作品はこちら
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タイトル:「キャロルの初恋」
製作:スペイン/2002年
原題:El viaje de Carol 英語題:Carol's Journey

監督・共同脚本:イマノル・ウリベ(Imanol Uribe)
出演:クララ・ラゴ、フアン・ホセ・バジェスタ、アルバロ・デ・ルナ、
   マリア・バランコ、ロサ・マリア・サルダ 
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■STORY
スペイン内戦のさなか、キャロルは母に連れられ、ニューヨークからスペイン
の田舎町にやってきた。
そこは母の故郷、キャロルの父と駆け落ちして以来、母ははじめて帰ってきた
のだった。

国際旅団のパイロットとしてフランコ将軍と闘う父は、ずっと不在で寂しいし、
村のガキ大将にいじめられたり、はじめは慣れないキャロルだったが、優しい
祖父や、母の恩師のおかげで、少しずつ生活に溶けこんでいく。
いじめっ子だったトミーチェとの間にも友情と淡い恋が芽生えはじめた。

そんな矢先、母が病気で亡くなってしまう。

■COMMENT
大人にとっても戦争は悲しいけれど、子供に落とす影はとりわけ色濃い。もっ
とあっけらかんと笑って人生を謳歌していい時期に、キャロルは父の不在に苦
しみ、フランコ派の村人からこそこそしなければならない。

悪ガキ・トミーチェとの幼い恋も、平和な頃ならもっと違う形で思い出に残っ
たかも知れない。そのトミーチェはトミーチェで、貧しさと内戦の苦しみに身
を置いて、にっかと笑った顔の下には、苦しみをしまいこんでいる。

しかし、この作品が「かわいそうな子供」の話だったら、そんなに印象には残
らない。はっきりと力強いキャロルのキャラクターに惹かれる。
母を亡くしたあと、預けられた叔母の家で、辛く当たられたら、黙っていない
で言い返す。
親フランコの人たちに落書きをされて、祖父は波風を立てたがらないが、不正
に屈するのは卑怯だと、はっきり指摘する。

祖父の例などはいわゆる「大人の事情」のようなもので、正しいか否かを聞か
れれば正しくないかもしれないが、世の中正しいことばかりじゃないから、ム
ニャムニャ、で目配せする類のものだが、子供らしさと、まっすぐな正義感の
両方から、キャロルはおかしなことにはおかしい、と言う。

あまりにもまっすぐで正直すぎて、フランコ派の人にそんなところ見つかった
らまずいよー、と冷や冷やする場面もある。冷や冷やしながら改めて、言いた
いことを口に出せない状況がいかに異常で、それを子供たちに強いることがど
んなに悲しいか、実感した。

戦争のなかで、母を亡くして、ニューヨークっ子には異国の地で、逆境も逆境
にいるキャロルだが、意志を貫いて自分の方向を決めていく強さに、大人たち
は励まされる。大人たちとは、祖父をはじめとする画面の中の大人たちも、画
面を見つめる観客も、両方だ。そしてキャロルは異国の地で、いいこと、悲し
いこと、いっぱいの経験を積んで、まっすぐなままに大人へと踏み出していっ
た。

まっすぐなキャロル役の女の子もいいけれど、いかにも田舎のガキ大将の雰囲
気をもったトミーチェ役の子役が、どこで探してきたんだろう、ていうくらい
にはまっている。

■COLUMN
高校生の時に世界史の授業をさぼったため、私には歴史の知識が著しく欠落し
ている。ヨーロッパの映画を観たり本を読んだりして、あー、もっと知識があ
れば楽しいかもしれないぃっ、と、かつての怠惰を恨みがましく思うことがよ
くあった。ついでに言うと日本史もかなりさぼったので、洋の東西を問わず歴
史の知識には自信がなく、幕末ものなんか、ちんぷんかんぷんだったこともあ
る。

最近はネットでちょっと調べれば、簡単な知識は引き出せるようになったこと
もあって、「あの時の怠惰」を呪っている限りは、今も怠惰に流されているだ
け、と反省し、知らないことはピンポイントで調べるようにした。
例えば今回の映画なら「スペイン内戦」って何が発端で、どう終結したんだろ
うか、キャロルの父が入団している国際旅団はどんな経緯で生まれたんだろう
かとか。

たまたま映画や本で見て、興味をもったところしか調べないから偏っていて、
その上調べたそばから忘れていくから、きちんと知識を持ったとも言えないだ
ろうけれど、それでも「前は知らなかったけれど今は知ってること」は増えた。
年代や国が近いものがあれば、ちょっと前に知ったこととつながったりして、
うれしかったりする。歴史の知識ってのはこうやって広がっていくんだ、とい
い大人が「知る喜び」に感動。

思えば、いろんなことを記憶するのがめんどくさくて「歴史」の勉強を敬遠し
(思春期のこと故、別の理由もあった気もするが)、その後は「歴史の勉強を
さぼったから」を何となく隠れ蓑にして、「歴史」が絡むものを敬遠する悪循
環に陥ったのだ。

記憶するのも勉強するのも面倒だった私には、「歴史」なんて他人事だった。
自分のことに忙しくて、別の時代の赤の他人のやることなんぞに心を配るのは、
ばかばかしく思えた。だけれど、当時もたまたまマンガなどである時代のこと
を読んでいると、その部分には詳しかったりしたし、現在、物語から興味を持っ
て調べるときには、その時代に親近感を持ち、他人事ではなくなっている。

別の時代の赤の他人のすることだと思っている間は頭に入らず、残らず、で当
然だ。ある所ある時の他人の所作を、自分のこと、とまでは言わずとも、自分
に関係あること、として感じること。想像力を働かせて、他人の存在を自分の
方にたぐり寄せること。それが歴史を学んだり、知ったりすることなんだろう。


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編集・発行:あんどうちよ

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