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欧 州 映 画 紀 行
                 No.075
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。


★心にためる今週のマイレージ★
++ 人つき合わせれば生まれる喜怒哀楽 ++

作品はこちら
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タイトル:「キッチン・ストーリー」
製作:ノルウェー・スウェーデン/2003年
原題:Salmer fra kjøkkenet 英語題:Kitchen Stories

監督・脚本:ベント・ハーメル(Bent Hamer)
出演:ヨアキム・カルメイヤー、トーマス・ノールシュトローム、
   ビョルン・フロベリー
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■STORY
1950年代初頭、主婦の台所仕事を研究してきたスウェーデンの「家庭研究所」
では、独身男性のキッチンでの行動を分析することになった。

ノルウェーとフィンランドの独身男性を対象に、調査が開始される。
雪に包まれたノルウェーの片田舎、初老の男性イザックのもとに、調査員フォ
ルケがやってきた。キッチンの隅に、見下ろすように据え付けられた高い椅子
に座るフォルケ。イザックは警戒し、キッチンでは調理せず、寝室でこっそり
料理する。

調査員は、対象者と「話をしてはならない」「交流してはならない」と、厳し
く言い渡されている。
物言わず表情も変えない調査員に、イザックの不信感は募るが、小さなきっか
けが重なり、2人は少しずつ言葉を交わすようになるが……

■COMMENT
ゆっくり熟成する友情を描いたコメディ。
ユーモラスで、繊細で、ときにはちょっとブラックな語り口がいい。吹き出す
とも、にやりと微笑むともつかない笑いが、自分から飛び出していること、そ
のことにまたにんまり。

実際にスウェーデンで行われた調査の台所動線図を見て、監督はこの物語を思
いついたそうだ。実際の調査風景はわからない。だがともかく、テニスの審判
員かプールの監視員のような椅子に座り、小さなキッチンでただ黙って人を観
察する様子は、奇妙で滑稽だ。

異国から、まるで<侵攻>するかのようにやってきた調査員ということもあり、
調査対象者たるイザックのガードはさらにかたい。対象者と交流してはならな
いルールは、あいだに横たわる不信感を増長させる。

だけれど、頑なに調査員を拒否しているかのように見えるイザックは、本当は
この調査員に興味津々。穴を開けて、2階から逆に観察しかえしたり、素直に
なれない老人のかわいさも微笑ましい。
言葉を交わしはじめ、ふたりに友情が芽生えてくれば、長らくの、イザックに
とっては唯一といってもいい茶飲み友だちであるグラントが、2人に嫉妬しは
じめたり。グラントもいい年のおっちゃんなんだけども、人と人が関われば、
そういう事態は生まれてくるのも自然なわけだ。

そして、交流が上司にバレて、芽生え、不可欠になった友情にも終わりが忍び
寄る。
悲しいことも滑稽なことも、楽しいことも、人と人が関わるところには全てが
ある。高い椅子から眺めているだけでは、知ることのできないふれあいがある。
大げさすぎずつつましすぎず、人の交流を味わわせてくれる。

雪にすっぽり包まれた景色にもかかわらず、暖かい。
女性の姿はほとんどなく、初老の男たちばかりが画面にいるのに、けっしてみ
すぼらしくない。
不思議なぬくもりの世界を、ぜひご堪能あれ。

■COLUMN
この物語の設定当時、ノルウェーの道路は右側通行、スウェーデンは左側通行
(67年に変更され現在では右側通行)だった。道路自体は何変わりなく続く両
国の国境で、通行ゾーンが切り替わる様は面白い。当時の国境の様子を知って
いる人がこの俯瞰の映像を見たら、「そうそう、あったねー」と懐かしがるん
じゃないだろうか。
調査活動のボスが、右側を走らなければならないことの不平をブツブツたれる
シーンもあり、隣国ならではの微妙な対立意識も見られて興味深かった。

私は残念ながら、北欧のどの国も訪れたことはないし、「各国にこう」という
確固たるイメージもわかず、ノルウェーもスウェーデンも、なんとなくすごく
似たような国のような気がしてしまっている。イザックとフォルケの会話のな
かでは、戦争の時にどっちがどうした、と国同士の小さなしこりも顔を出す。

遠く離れた国からは、似たようなもんだ、と思う隣国同士こそ、互いの違いを
意識することがあるだろう。それは日本の人たちが、中国や韓国との違いを、
確固たるイメージとして頭に持っておきがちなのと同じだ。

会話方法も興味あるところ。両者は言葉も似ているので、おそらくスウェーデ
ン語とノルウェー語をいろいろとり混ぜて、2人は会話を工夫していたのでは
ないかと思う。
それとも「しゃべる方は難しいけれど、言われていることは分かる」てな状況
から、双方とも自国語を話していたのか。中途半端にしかできない言語を共有
しているとき、使う方法だ。

どちらも響きはそっくりなので、私には区別が付かない。その辺が理解できる
と、もっともっと楽しめたかもしれないなー、と思う。

そこんとこの事情を分かる人がいたら、ぜひ教えてください!


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編集・発行:あんどうちよ

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