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欧 州 映 画 紀 行
                 No.077
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

こんな言葉をきくのもそろそろ久しぶりかもしれませんが、
みなさま、あけましておめでとうございます!
しばらくお休みしたので、なくなったの? と心配してくっださった方も
いらっしゃいましたが、年末年始の休みを終えて、今年最初の配信です。
今年も「欧州映画紀行」をよろしくお願いいたします。


★心にためる今週のマイレージ★
++ 恋と友情と、体制への反逆は両立するか ++

作品はこちら
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タイトル:『ベルリン、僕らの革命』
製作:ドイツ・オーストリア/2004年
原題: Die Fetten Jahre sind vorbei 
英語題(インターナショナル・タイトル):The Edukators

監督・脚本:ハンス・ワインガルトナー (Hans Weingartner)
出演:ダニエル・ブリュール、ユリア・イェンチ、
   スタイプ・エルツェッグ、ブルクハルト・クラウスナー
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■STORY
社会に異を唱える若者たちの、恋と友情と理想の青春物語。

正義感が強く理想主義のヤンと、15年来の親友のピーター。どこにでもいる普
通の若者に見えるが、彼らには秘密があった。金持ちの家に忍び込み、何も盗
まず、家中かきまわし家具をめちゃめちゃに移動させ、“ぜいたくは終わりだ”
(原題はこの意味)というメッセージを残していく。近頃ベルリンを騒がせて
いる“エデュケーターズ”なのだ。富裕層ばかりが優遇され弱者が切り捨てら
れていく体制に対する、彼らの抗議行動だ。

ピーターの恋人ユールは、反グローバリズム運動をしながら、自身の借金返済
のために必死に働く毎日。恋人とその友人の秘密を知った彼女は、仲間に加わ
ろうとするが、これが彼らの活動の歯車を少しずつ狂わせていく。

■COMMENT
一言でくくってしまえば「青春映画」なのだろうが、スリリングな犯罪映画、
三角関係もある恋愛映画、世代を超えた対話の見られる人間ドラマ、ドキュメ
ンタリータッチな社会問題への切り込み、いろーんな側面がぎゅっとつまった
見応えのある作品だ。
どういうところを強調して売るのか、宣伝する人も悩んだんだろうと思う。

私も詳しい内容を知っていて見た訳ではないので、前半、理想のための犯罪か
ら少しずつ歯車が狂って墜ちて墜ちていく、辛い物語かとハラハラした。
物語の「肝」というべきは後半にあったようで、世界に左翼運動が吹き荒れた
68年頃に学生運動をやっていた「大人」が、今の若者と体制や理想について語
る場面は、刺激に満ちた問題意識を届けてくれた。

そうした、ともすれば「社会派人間ドラマ」とくくられてしまいそうなところ
でも、行く先のわからないサスペンスな雰囲気と、若者らしい恋と友情のさわ
やかなムードを忘れない。
きっとこの監督は「○○映画」とくくられることを、周到に拒否しているんじゃ
ないだろうか。

様々な側面を入れ込んだからと言って、テーマがぼやけたり、何でもありのぐ
ちゃぐちゃカーニバル映画にはなっていない(いや、場合によってはそういう
のもパワフルでいいですよ)。社会に何らかのメッセージを送る作品としての
品位を保ったまま、受け手がいろんな面で共感を覚えられようにつくられてい
る。

生活感にあふれるベルリンの町、富裕層の住むひっそりとした住宅街、空と緑
の映える山、様々な景色に目を楽しませてもくれる作品だ。

■COLUMN
何も盗まず、おちょくるように部屋を荒らして去る“エデュケーターズ”の活
動は、マスコミでも騒がれ、バルセロナ旅行から帰ってきたピーターは、向こ
うの新聞でも取り上げられていたと、ヤンに得意気に記事を見せる。
いずこの国も、新しいタイプの犯罪にはマスコミが飛びつくし、「わけのわか
らなさ」は話題になり、<複雑に入り組んだ現代社会>を象徴するものである
ように語られたりもする。

最近、宮城県で乳児が誘拐される事件が起きた。
誘拐された子が無事戻り、犯人も逮捕されたことが何よりだったが、この事件
は、はじめ「乳児連れ去り」と大々的に報道された後、マスコミ各社が報道協
定を結んだ。赤ちゃんが連れ去られたと大騒ぎした後、続報が急に少なくなっ
たから、私はなんか変だと思ったけれど、新聞もニュースもあまりていねいに
見ていなかったせいもあって、深くは考えなかった。

1月9日の朝日新聞によれば、突然報道が少なくなったことで「身代金要求が
届いて協定を結んでいるんじゃないか」という憶測がネット上で多く流れたら
しい。
少々不謹慎だけれど、「変だな」と思ったところまではいったのに、協定のこ
とに気づけなかった自分に、まるでいい線まで気づいていたミステリーのトリッ
クをあと一歩で解けなかったような脱力を感じた。

なんでそこに考えがいたらなかったかと言えば、通常、協定を結ぶなら事件発
生自体を報道しないから、ということと、「連れ去り」という言葉から、最近
よく心配される、子供の「連れ去り」だと思いこんだことがあるだろう。

身代金を要求するような「誘拐」ではなく、子供もをかどわかしていく、最近
よく起きるああいう事件なんだ、と思いこんだところがある。それは私だけで
はなく、世間の多くの人もマスコミも、第一報の時点で、最近頻発する「わけ
わからない系」だと、連想したのではないか。(はじめに身代金目的ではない
と判断したのは警察だが)

以前は、誰かが子供を連れ去ったらそれはすなわち「誘拐」だったと思う。名
詞形「連れ去り」は、クラシカルな身代金目当ての誘拐ではない、誰か(特に
子供)が誰かに不気味にさらわれる事件につけられた名称なのだ。
その証拠に、犯人逮捕後に多くのメディアが「誘拐事件」と名称を変えた。
(用語・事件名の統一のためか朝日新聞は一貫して「連れ去り」を使っている
ようだ)

「誘拐事件」はこの映画でも重要なファクター。映画の中の「誘拐」は「連れ
去り」なのか「誘拐」なのか。
いずれにしても、日々新しいジャンルの犯罪が生まれ、それに新しい名称を必
要とするような社会状況は、もう終わりにしたい。


■INFORMATION
思うところあって、掲示板を閉鎖しています。
復活希望のリクエストが多ければ、復活させようと思いますが、
しばらくのあいだ、感想などはメールでお送りください。

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編集・発行:あんどうちよ

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