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欧 州 映 画 紀 行
                 No.079
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

他人事だと思っていたら、インフルエンザにかかりました。
無断で1回お休みしてしまってごめんなさい。
読者の皆様もお気をつけくださいね。
手洗い・うがい・マスク・加湿は、バカにできませんぞ。

★ ドキュメンタリーって、そーゆーこと。 ★

作品はこちら
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タイトル:『炎のジプシー・ブラス 地図にない村から』
製作:ドイツ/2002年
原題:Brass on Fire

監督・脚本:ラルフ・マルシャレック (Ralf Marschalleck)
出演・音楽:ファンファーレ・チォカリーア
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■STORY
ルーマニアの小さな村に、ジプシー・ブラスバンドがある。
ジプシー伝統の旋律を、エネルギッシュにパワフルに金管の音で繰り出す、ス
ピーディーな曲の数々。たまたまこの地を訪れたドイツ人が彼らの音楽と生活
に惚れ込み、マネージャーとして、ドイツ、フランスなど、ヨーロッパ各地で
のツアーを企画した。
地図にも載っていない村のブラスバンドは、今や世界にファンを持つ。

このバンド「ファンファーレ・チォカリーア」を題材にしたドキュメンタリー。

■COMMENT 
ここのところドキュメンタリー映画が人気なんだそうだ。「ドキュメンタリー
ブーム」で、ここ1、2年、公開数が増加しているとか。

以前はは先入観で、ドキュメンタリーというのはニュース番組の特集の延長か
ちょっと長くなったヤツだろう、くらい思って敬遠していた私だが、いくつか
作品を観ればそれはまったくの間違いとわかった。
語り口も映像もテーマも様々で、ひとくくりにドキュメンタリーは好きとか嫌
いとか言えるものじゃない。
ただ、魅力は理解しても、よくいわれる「ドキュメンタリーだって演出するし、
脚本も存在するんだよ」ということの正当性というか、妥当性に、いまいち納
得できない自分がいた。

前置きが長くなったが、それを「ああ、そーゆーことね」と理解させてくれた
のがこの作品だ。

この作品はひとりの少年が凍った湖から楽器を拾い出す、というシーンからは
じまる。ルーマニアの片田舎の広々とした景色に、鮮やかな赤い服をまとった
少年。このおとぎ話のような映像を見て私は「今からこの映画で何がどう展開
しようとも、この映画、ゼッタイ好き」と確信した。

楽器を拾って修理してくれよとせがむ少年マリウスの、このシーン自体はフィ
クションだ。しかし、マリウスが情熱をもって音楽を勉強したがっていること
は事実。彼の情熱と希望をこめて作り出したファーストシーンだったのだろう。

そうして考えると、ヨーロッパ各地のツアーや、村の日常、ドイツ人マネー
ジャーの奮闘の様子も、どこまでが厳密に事実なのか、というのはわからなく
なる。
しかし、そこにとびきり弾けて楽しい音楽を届ける人たちがいて、情熱に弾け
て踊る人たちがいて、それに憧れ、それを支える人がいる。そのことが、映像
と、音楽と、あらゆるファクターで私に迫ってくる。そうやって迫ってくるた
めに、演出や脚色ってのがある。なきゃあ伝わらない。

あえて言うまでもないので強調していないけれど、村で練習する場面でも、ツ
アーの演奏でも、頭を空っぽにしてリズムにまかせられるジプシー・ブラス・
サウンドは、やっぱり凄い。

■COLUMN
映画の最後には日本ツアーのときの映像が収められている。
東京・渋谷のハチ公前広場で、ゲリラ的に演奏し踊るメンバーと、止めに入る
お巡りさん。少し離れたところから面白そうに眺める「ヤマンバギャル」たち。
監督はよほどヤマンバギャルが気に入ったらしく、何度もカメラを向け、いろ
いろなギャルが作品に残されている。

やたらにいろいろな音が辺りには満ちているのに、人々の群れは黙々と素早く
歩き去る。思いがけず、見慣れた光景をあらためて映し出されると、なつかし
いような、まるで知らない街のような、不思議な感覚に包まれる。
色に満ちて、キラキラしていると思っていた東京の街は、こうして見ると、な
んだかずいぶんくすんでいる。

渋谷駅前のスクランブル交差点は、何年住んでも私はまともに歩くことができ
なくて、人の波に流れ流され、自分が思う岸とは違うところにたどりついてし
まう。何かの用事で渋谷に赴くと、必死に流れに呑まれないようにと、しゃち
こばって歩くから、周りを見渡したり、風景をつくづくと眺めたりもしてこな
かった。

そこは確かに渋谷だけれど、そこは私の知ってる渋谷だっけ? 
元に持っていたイメージと目の前の映像とを整合させようと、手がかりをたぐ
り寄せたけれど、掴んだ糸は遠い記憶をたどった末に消失点の雲へと溶けていっ
た。

外からの目にふいに自分の街がさらされると、なんだか妙に新鮮な感覚に浸れ
るもんだなー。


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編集・発行:あんどうちよ

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