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欧 州 映 画 紀 行
                 No.080
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ ちっぽけな存在でも意地がある ★

作品はこちら
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タイトル:『堕天使のパスポート』
製作:イギリス/2002年
原題:Dirty Pretty Things 

監督:スティーヴン・フリアーズ (Stephen Frears)
出演:オドレイ・トトゥ、キウェテル・イジョフォー、セルジ・ロペス、
   ソフィー・オコネドー、ベネディクト・ウォン
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ここのところ、仕事がたてこんでいるために変則編成。
今週は、ストーリー紹介とコラムのみの構成でお送りします。

■STORY
舞台はロンドン。
トルコ人女性シェナイは、難民として仮滞在を許可されている。この期間は働
けないのだが、それでは生活できないため、こっそりホテルのメイドとして働
いている。
アフリカからやってきたオクウェは、夜はシェナイの働くホテルのフロント、
昼間はドライバーをしているが、どうも以前はエリートの医者だったらしい。

ある日オクウェは、ホテル内で人間の心臓が捨てられているのを発見する。調
べるうちにオクウェは、組織的に臓器売買がなされているのではないかと気づ
く……

スポットのあてられることのない移民たちの辛い状況を背景に、サスペンスタッ
チで観客を引きこむヒューマンドラマである。

■COLUMN
はじめて観たとき「どうなるんだろ、どうなるんだろ」と先を気にしながら堪
能したものの、全部観終わってから振り返ると、どうも最初の設定に少し無理
があったような気がして、紹介しないでいた作品だ。

でも、とあるきっかけから急にこの作品を思い出し、また観たくなった。

きっかけのひとつは、フランス在住セネガル移民の女性が書いた小説『大西洋
の海草のように』
を読んだこと。
母国の共同体社会からは、フランスに移り住んだ者として別種の人間のように
扱われ、フランスでも移民は暖かくもてなされはしない。自伝的なこの小説で、
貧しく抑圧された第三世界にいる者が、きらびやかで豊かな国に託す夢と、そ
れがいかに幻滅をともなうものか、両方の現実を知る主人公の視点を興味深く
読んだ。
それで、夢を抱いて豊かな国にやってきて過酷な現実にうつろう<移民たち>
を描いた物語を、もう一度みなおしたくなったのだ。

もうひとつのきっかけは、今の私の個人的状況にある。

この映画に出てくる移民たちの多くは、存在すら認められない。不法滞在の黙
認とひきかえに、安い労働力として買いたたかれ、搾取され、いいようにしゃ
ぶりつくされる。利用する側も、たまたま少し運が良かった移民だったりして、
そこには近親憎悪的ヒエラルキーが存在する。

今私は、取り組んでいる仕事において、自分がどう位置づけられているのか、
いぶかしむ日々が続いている。
「ライター」として参加しているはずの仕事である。なのに、スケジュールの
連絡も納期の連絡もなく、ミーティングの日時を決めるのに都合も聞かれず、
書く内容の具体的な指示はこない、それでいて「そっちが書かないからこっち
が困っている」とくる。

単純な連絡ミスやら、単純に私の力不足の部分もあるけれど、あまりにもいろ
いろなことが重なるから、存在を否定され、孤立無援に荒野でひざを抱いてい
るかのような気分におちいっていた。

この作品に出てくる移民たちに比べたら、私はずいぶんお気楽。けれど、誰に
も頼れない、前にも進めず後にも戻れない、そんな状況と萎えた気分を、映画
の人物たちに、なぞらえたくなった。
そうして観てみたら、設定のアラなんて一切気にならない、一筋元気をくれる
作品だった。


参考文献
『大西洋の海草のように』ファトゥ・ディオム著 飛幡祐規訳 河出書房新社

■INFORMATION
2月中は、配信日や編成が不規則になることがあると思います。
ご了承ください。

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編集・発行:あんどうちよ

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