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欧 州 映 画 紀 行
                 No.081
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 愛であれば、それが正しい ★

作品はこちら
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タイトル:『世界でいちばん不運で幸せな私』
製作:2003年/フランス・ベルギー
原題:Jeux d'enfants 英語題:Love Me If You Dare

監督・脚本:ヤン・サミュエル(Yann Samuell)
出演:ギョーム・カネ、マリオン・コティヤール
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■STORY
母が病気で孤独なジュリアンと、ポーランド移民でいじめられているソフィー
は、小学校の同級生。ふとしたことがきっかけで「のる? のらない?」とい
うかけ声を合図にはじまるゲームにはまった。

相手に困難な条件をつきつけて、ゲームにのったら必ずその条件をクリアしな
ければならない。例えば先生に思いっきり下品なことを言うとか、お姉さんの
結婚式で物をひっくり返すとか。

相手がクリアすれば今度は自分が相手の条件を受ける。孤独をかかえた二人の
慰め合いだったこのゲームも、二人が成長するに従って、いたずらの範疇から
外れ、出し合う条件はどんどん悪趣味の域に達していく。
互いを愛しているのに、屈折したゲームでしかつながり合えない。少しずつ二
つの人生は別方向へと進みだす……

■COMMENT
愛であればそれは正しい、どんな愛も認めよう、そんな「フランス人気質」が
たっぷりつまっている。
屈折したゲームで相手が困ることを散々やらせて、悪のりを続けて、それでも
それが愛ならいいのだ、覚悟と寛容の映画である。たぶん、二人のゲームが悪
趣味すぎて、ついていけなくなる人もいるだろうし、嫌悪感をもよおす人もい
ると思う。少なくとも日本では、観客を選ぶ作品だと思う。

でも、きっとこういうことだろう。
嫌悪感をもよおさせようが、迷惑かけようが、それが愛ならそれでいいのだ。

二人の「ゲーム」は異様で、目新しさもあるかもしれない。だが、メロドラマ
ばりのすれ違い、道徳をコケにしたような二人だけの世界、考えてみれば骨子
はクラシカルな恋愛映画だ。無理難題をつきつけてケラケラ笑い合う二人の姿
には、訳わからん、と思いながらも、どこか自分には絶対に入り込めない禁断
の世界として、背伸びしてのぞき見たくなる。考えてみれば、それはクラシカ
ルなフランス映画ともいえるかもしれない。

絵本を思い起こさせるような叙情的な映像も手伝って、大人のおとぎ話とも捉
えられる。こんな二人はおかしい、理解できない、と拒絶する人のなかにも、
子どもの頃のまま大人にならずに、二人だけの世界に浸れたら、という願望を
心の深くに隠してる人もいるんじゃないのかな。

誰にでもおすすめできる映画ではないけれど、屈折した愛の世界と、それを純
粋に貫く世界をのぞいてみたい人、あと、きついブラックジョークがたまらな
く好きって人にはおすすめ。

■COLUMN
エスカレートしていって、悪趣味になるゲームにどうしても目がいくけれど、
本当にまっとうでクラシカルな恋愛映画でもある。

素直になれないまま、すれ違いそうになるところは切ないし、幼い頃の彼らが
周囲の圧力で引き離されるのは悲しい。

でも何より私が、ものすごくまっとうな恋愛映画だな、と思うのは、互いを信
じる力だ。人生ではすれ違うし、二人顔合わせれば、ゲームを介してしかつな
がりあえない。だけども、底のところで二人とも、相手は自分のことを決して
忘れないし、二人のことは決してなかったことにもならない、と信じている。
何年経っても、どこにいても、きっとあなたは私を覚えていて思い出す。そう
いう自信を二人は共有している。

恋愛じゃなくっても、どこにいても何していても、きっと忘れない、と思える
人間関係というのはあって、会うことがなくても、信じているそのことが自分
のなかで力となる。

めげてる時には、けっこうこの「信じる力」に元気づけられちゃう映画でもあ
る。疲れて、いろいろ投げたくなって、そんな時には、ただ信じられることっ
て、ものすごく大きなことに思える。
よくなるよと信じる力があれば、とりあえずここは乗り切れるかなーって。そ
んなこと、ない?


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編集・発行:あんどうちよ

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