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欧 州 映 画 紀 行
                 No.084
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 一筋縄ではいかない二人の関係 ★

作品はこちら
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タイトル:『ふたりの5つの分かれ路』
製作:フランス/2004年
原題:5x2

監督・共同脚本:フランソワ・オゾン (François Ozon)
出演:ヴァレリア・ブルーニ=テデスキ、ステファン・フレイス
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■STORY
フランス。1組のカップルの離婚調停が終わるところ。
財産分与、子どもと父親が会う回数、細々ととりきめをする。今やどこにでも
転がっているありふれた光景だ。

この「離婚」からはじまり、「特別なディナー」「出産」「結婚」「出会い」
と、時をさかのぼりながら2人の5つのエピソードを展開する。

■COMMENT
「離婚する」という結果がわかっていて、そのカップルのこれまでを振り返っ
ていく展開。んー、これは見ていて切なくなるんだろうなー、それに、なぜ別
れなければならなかったか、この最初のシーンの謎が少しずつ解かれるように
なっていくんだ、これは面白そう。

と、まあ期待して見た訳だけれど、なんか、そんな安直な期待は、いい感じで
裏切ってくれた。予想の範囲内にはおさまらない魅力のある作品だった。切な
いし、観客の好奇心も見捨てられないけれど、気軽な一筋縄では手強い作品だ。

このカップル─マリオンとジルの5つのエピソードは、1つ1つが短編映画の
ように独立している。離婚から出会いまでをさかのぼりながら、その期間のあ
る時を切り取ったものだから、エピソードとエピソードの間は明確につながら
ない。
2人がすっかり冷めてしまうところから、熱く愛し合うところまでが、流れる
ように理解できる訳ではない。

邦題の影響もあってか、「あ、ここが2人の岐路だったのだなー」と見終わっ
たときに納得できるように準備してしまうのだが、「岐路」とはっきりわかる
なにがしかが見つけられる訳ではないし、結末が複数用意されたもののように、
「もしこうでなかったら、こう」と可能性が示される訳でもない。

でもそういう「納得」は、本当は複雑でいりくんでいるものに、簡単な筋書き
を与えて分かりやすくするもので、人と人との結びつきを分かりやすいところ
で決着させる安易な発想とも言える。
1組のカップルが別れた。その理由は、これ、と1つを指させるものでもない
し、破局までの道筋をピンと1本の糸で結べることもない。結果からさかのぼ
れば、「何か決定的な理由は」と探したくなるけれど、言葉にならない事象や
気持ちが積み重なり、微妙なニュアンスが進路をゆらゆらと揺さぶり、1つの
大きな結果(例えば離婚のような)に至る。

人間関係や人の心の動きは、はっきりと「こうなって、こうなって、こうなり
ました」と説明できない。たやすく納得、理解できない。だからこそ、1つ1
つの関係は貴重なのだと、この映画は思い知らせてくれた。

映画館でなくDVDで見るのなら、最後のエピソードから時間順に見ていくことも
できる。さかのぼって見るときとは、また違った受けとめ方も生まれるだろう。
おうちでシネマの<特典>を生かしたい作品だ。

■COLUMN
自分の好きな映画を、他の誰かがほめていたらうれしい。それが、カッコいい
なと思う人や尊敬する人なら、なおさら。
自分の好きな映画が、他の映画の中で触れられていたらうれしい。その映画も
好きだと思えるなら、なおさら。

5つのエピソードは、それぞれ意図的にスタイルを変えて作られていて、その
ことがさらに、5つの独立した短編のようなイメージを抱かせる。

前にもこのメルマガで書いたが、私はエリック・ロメールというフランス人映
画監督が大好きで、もちろん他にも好きな監督はいるけれど、好きな監督と言
われて真っ先に挙げるのはロメールで、ロメールのこととなるとなんだか身び
いきもはなはだしく、要するに単なる大ファンである。

で、この『ふたりの5つの分かれ路』では5つめ、つまり最後、時間的には最
初の「出会い」のエピソードに、ロメール映画からの「引用」があったから、
とってもうれしかった。

男女が海辺で並んで座るショットや、男女が海に向かっていくショットには、
ロメールの『夏物語』の連想を誘う。恋人のいる男が他の女に惹かれる設定、
ごつごつした岩場の多い人気のない海辺という場所も引用をうかがわせる。
勝手な想像で書いているが、オゾン監督自身が「出会い」の章ではロメール作
品を意識したと言っているから、まあ、だいたいは間違いないだろう。
そもそも『夏物語』中の男女が海辺で座るシーンをはじめ話の構造も、13年前
に同じ主演女優を使ったロメール自身の『海辺のポーリーヌ』からの引用で…
…、、以下自主規制。

メルマガをやっていて楽しい理由はたくさんあるが、そのうちの1つは、こう
やって、何の益にもならないような細かいことまでをつらつら言う場所があるっ
てことだ。

自分の好きな映画のことを、誰かに伝えられたらとてもうれしい。それが見も
知らぬ人でも、大好きな人でも。

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編集・発行:あんどうちよ

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