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欧 州 映 画 紀 行
                 No.087
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 父の肖像は、大きい? ★

作品はこちら
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タイトル:『Dear フランキー』
製作:イギリス/2004年
原題:Dear Frankie

監督:ショーナ・オーバック(Shona Auerbach)
出演:エミリー・モーティマー、ジャック・マケルホーン、
   メアリー・リガンズ、ジェラルド・バトラー 
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■STORY
暴力を振るう夫から逃れるため、母と9歳の息子フランキーとともにスコット
ランド各地を転々とするリジー。フランキーには、父が暴力男だということは
伏せ、「アクラ号」という船に乗り世界中をまわっていると教えている。

フランキーは船上の父にせっせと近況を知らせる手紙を書き、父からは珍しい
切手が同封された手紙が届くが、それは実は母リジーが父になり代わって書き
続けていたものだった。真実を言い出せないまま、ウソの手紙を書き続けるリ
ジーだったが、ある日「アクラ号」という船が彼らの住む町に停泊することと
なった。

父に会えると楽しみにするフランキーを見て、リジーは1日だけ父親のフリを
してくれる人を雇うことにした。

■COMMENT
このウソの行方はどうなるんだろう、と心地よくハラハラしながら、最後には
ちょっとホロリと、そしてハッピーな気分になれる。
ハラハラも含めて安心して観られる作品。

難聴というハンディキャップを背負ったフランキーは、賢く愛らしい。リジー
は暴力夫から逃げ回る日々で、人生全般にいじけ気味だけれど、息子を思う心
は純粋でまっすぐで、幸せになってねと願わずにはいられない。
間近で彼らに接するうち、お金で一日だけと雇われたはずだった男も、仕事分
を超えてもっと何かをしたくなってしまう。彼の心境の変化が、観る側に自然
と伝わってくる。

フランキーが地理が得意で、転校先の先生をびっくりさせるが、それは父の航
海先をしっかり調べて地図を毎日眺めているから。なんていう表現のしかたも、
父への憧れの強さと、賢さの両方をていねいに浮かび上がらせていてうまいと
思う。
各キャラクターの描写が、説明しすぎず、かと言って難解にしすぎず、ほどよ
くうまいところにおさまっている。

リジーは、フランキーに「よき父」のイメージを持っていてほしくて手紙を続
けながら、それが自分にとっての大切な息子との接点となってやめられなくなっ
ていたり、代理父が現れ大喜びのフランキーを見るや、自分で創りあげた「よ
き父」に息子の心が奪われるんじゃないかと軽く嫉妬をしたり、母心は複雑だ。

そんなちょっと入り組んだ心たちを抱えながら、物語は人と人とのふれあいの
基本を、観る者に思い出させてくれる。そして、何かで新しい一歩が踏み出せ
ないでいる人には、優しく背中を押してくれる作品だ。

どうってことない町だけれど、日本の港町とは確実にどこかが違うスコットラ
ンドの港町の風景も要チェック。

■COLUMN
この作品では、赤ん坊のうちに別れたのでフランキーは父を知らない。そこで
リジーは、ゼロから理想の父を創り上げた。
こうした母子家庭じゃなくても父の姿を母が少し脚色したり権威づけたりする
ことは、どこの家庭でもやることなんじゃないだろうか。

私が小さい頃、夕食の仕度をする母に「お父さん何時に帰るの?」と尋ねると
「『帰っていらっしゃる』でしょ」と言い直させられた。だいたい我が父は、
「帰っていらっしゃり」そうな風体の人でもなし、飲み歩いて毎日遅く帰る父
を、母はしょっちゅう愚痴り嘆いていたはずで、その事実との乖離にしっくり
こなかった。

今思えば、父を軽く見たりせず尊敬してほしいという願いがあったのだな、と
思うし、まあおかげで、酔っぱらって玄関先で寝ているのがしょっちゅうでも、
根底のところでなんとなく「お父さんはエラい」という意識があって、父との
関係を良好にしたかな、と思う。

そして、さらに今そのことを考えてみると、あれは父と娘の関係を良くするだ
けではなく、妻として、威厳と気品のある夫でいてほしいという願望も込めら
れていたんじゃないかなと思う。だから、たぶんに事実にそぐわないイメージ
を創りあげて、子どもの私が少し戸惑うことにもなったのかもしれない。

父が語る「母」でも、きっと同じ。子どもからしてみれば、大人は不思議で複
雑な生き物だ。
映画では、そんな不思議で複雑な大人をまっすぐに見るフランキーの姿に、い
い大人が胸をつかまれるだろう。詳しくは観てのお楽しみ。


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編集・発行:あんどうちよ

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