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欧 州 映 画 紀 行
                 No.088
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 駆け足でめぐる人生 ★

作品はこちら
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タイトル:『モンパルナスの灯』
製作:フランス・イタリア/1958年
原題:Les Amants de Montparnasse 英語題:The Lovers of Montparnasse

監督・脚本:ジャック・ベッケル(Jacques Becker)
出演:ジェラール・フィリップ、アヌーク・エーメ、ジェラール・セティ
   リノ・ヴァンチュラ、リリー・パルマー
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■STORY
生前はその作品の価値が理解されなかった画家・モディリアーニの晩年を描く。

肺結核にかかり、薬や酒におぼれていた売れない画家モディ。応援してくれる
わずかな友人を支えに極貧の生活を送っていた。
ある日、ジャンヌという女性に一目惚れし恋に落ちた。彼女のために禁酒さえ
いとわない熱のあげようだったが、ジャンヌの親の反対で引き裂かれ、モディ
はまた絶望につきおとされる。

■COMMENT
クラシックな恋愛映画が観たくなった。だから録画してあったこの作品を手に
取ったのだけれど、今観ると恋愛映画という枠にくくるのは不自然かな、とい
う印象だった。
私の観点が変わったのか、単純な記憶違いか。その両方かも知れない。

酒におぼれて金がなく、芸術家のプライドばかりが高い。が、そういう男はな
ぜだかモテるのだ。モテダメ男がうっかり本気になった相手は、美しく気品が
あり、彼の芸術を深く理解して、極貧生活でもやりくりして生活しようとする
強さも兼ね備えた人。「そんな女性を逃すなよ」と前半は若き恋人たちに肩入
れして、応援して観られる映画だが、別に恋愛とか純愛とかが必ずしも中心に
あるとは言い難い。

じゃあ何が中心なのかなというと(必ずしも中心を指し示す必要もないといえ
ばないが)、人間の関係と現実だ。

芸術家特有の気高く、見ようによっては醜い振る舞いからモディの人柄や苦悩
がよく伝わる。彼の周囲の、ジャンヌだけではない彼を支える人々、こずるく
利用しようとする人、かつての女、そして大勢の何の関心も払わない他人たち。
ある人の人生を駆け足で見たなら、きっとこんな風に周りの人間は配置される
だろうと思う。

そして、良い人間関係も必ずしも現実世界で良い方向に導くとは限らないし、
悪意を持った人間が必ずしも報いを受ける訳ではない。やるせない現実を受け
入れながら生きる。それが人生……。

人間をものすごく観察してるからできる描き方なんだろうなあ、と思う。

何かおいしそうなものが出てくる映画やテレビ番組を観ると、次の日それが食
べたくなる。同じようなことが絵でも起こる、ことがよくわかった。無性にモ
ディリアーニの絵が見たくなって、うちの近所ではどこにあるのかなー、と検
索したら、ブリヂストン美術館が1枚所蔵しているらしい。近々ふらりと行っ
てみようか。

■COLUMN
モディリアーニは認められぬまま35歳で死んでしまう。モディを演じたジェラー
ル・フィリップは今作の翌年36歳で没した。
モーツァルトも芥川龍之介も正岡子規も、最近ではアンディ・フグも35歳で生
涯を閉じたらしい。“ジェジェ”と同じ36歳でこの世を去った人には、ダイア
ナ妃、マリリン・モンロー、ロートレック、などがいるという。
(参考:http://art-random.main.jp/samescale/index.html
このサイト面白かったです)

若くして亡くなった人は、人生が伝説化しやすい。しかしとにかく、その年ま
でに、才能がもっと長い時を駆けなかったことを多くの人々から惜しまれるだ
けの業績を残しているのだから、すばらしい。
35歳、36歳といえば、私にはすぐ目の前の年齢。35,6年も生きていたら、それ
なりのなにがしかをしていたって、おかしくないってわけだ。

だけれど我が身を振り返ってどうだろう。偉人と較べたって仕方がないことは
わかっているが、今死んだところで、この人はこんなことしましたとプロフィー
ルにできることも何もない。

このあいだ近所の神社の張り紙が私の生まれ年を前厄だと伝えていた。確か、
つい最近に厄年というヤツは終わったと思っていたのだが、その手のことに疎
くのんきな私を笑うように、新しい厄年がはじまっていたらしい。
有名な幾人もが生涯を終えた年齢に近づき厄年にもさしかかる生暖かい不吉と、
そこまでの人生で何も残さぬふがいなさが身にしみる。

人生何事も遅すぎるってことはないさ、虚勢でもはったりでもなくその言葉に
間違いはないと思うが、そう言いながらも、もうすでにあんなことこんなこと
が手遅れなのではと怯えている。なかなか微妙で難しい大人の思春期である。

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編集・発行:あんどうちよ

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