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欧 州 映 画 紀 行
                 No.089
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 笑いは世界を変えるか ★

作品はこちら
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タイトル:『ノー・マンズ・ランド』
製作:フランス・イタリア・ベルギー・イギリス・スロヴェニア/2001年
原題:No Man's Land

監督・脚本:ダニス・タノヴィッチ(Danis Tanovic)
出演:ブランコ・ジュリッチ、レネ・ビトラヤツ、
   フィリプ・ショヴァゴヴィッチ、カトリン・カートリッジ、
   ジョルジュ・シアティディス
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■STORY
泥沼化するボスニア戦争さなか。前線で起こったあるできごとを、皮肉と悲痛
をこめて描く。

ボスニア兵たちは濃霧のなかに迷いこみ、敵陣に入り込んでしまった。
1人生き残ったチキは、なんとか“ノー・マンズ・ランド(中間地帯)”の塹
壕にたどりつき身を潜めた。そこへ、偵察を命じられてやってきたセルビア兵
ニノと老兵士2人。一度踏んで離すと爆発するという地雷を死体の下に仕掛け、
引き揚げようとしたその時、チキが2人を銃撃し、ニノは負傷、老兵士は死ん
でしまう。

ボスニア兵・チキと、セルビア兵・ニノのにらみ合いが続くなか、死体だと思っ
ていたボスニア兵・ツァラが息を吹き返す。しかし、少しでも体を離せば地雷
が爆発し、辺り一帯が吹き飛んでしまう。

切羽つまった状況のなかで、にらみ合いが続き、しかしそのうち世間話もする
ようになるチキとニノだが、国連軍や話を聞きつけたマスコミもやってきて…


■COMMENT
公開時には痛烈なコメディとも評されていた(「宣伝されていた」かもしれな
い)。コメディと言い切ってしまうには、いくら「ブラック」をつけたところ
で、不自然さが残る。ジャンルわけが難しかったんだろう。だけれど、コミカ
ルな場面がたくさんつまっているのも事実だ。

チキとニノが、ボスニアとセルビアどちらが先に手を出したのかで言い争って
いる様子はほとんど子供のケンカだし、国連軍の司令官の俗物ぶりや、戦場で
新聞を見ながら「ルワンダはひどいなあ」というシーンなどは悪い冗談のよう。

緊迫した状況だからこそ、そこからちょっとズレたものに笑いを禁じ得ないの
は人の性。シチュエーション・コメディは、そういうところをうまく利用して
物語を組み立てる手法だろう。

少し前までは同じ国でやってきた者同士が、中間地帯に敵として取り残される。
そばには、少しでも動けば爆発する者が横たわっている。独特の恐怖と、行き
過ぎた緊張が笑いさえ生みだすギリギリのシチュエーション、まるでコメディ
のためにしつらえたかのような設定ではある。
そして、どんな相手にでもまず「フランス語話せるか?」と尋ねるフランス人、
時間きっかりなドイツ人、どんなものでも「インタビュー」と「画」を欲しが
るマスコミなど、数々の小さなステレオタイプの表現も笑わせる。

別に不謹慎なんて事はないから、笑えるところは笑ってしまったらいい。どの
笑いも、戦争をすること、戦争に群がること、愚かでばかばかしい行いがまか
り通ることを笑うことにつながるだろう。世界の理不尽に対する痛烈な批判と
なるのだ。

いろいろ笑っても、最後には心におもりをどすんと残していく作品。見るのな
ら、上映時間98分プラス20分くらいは、沈痛な気分に浸るために、確保してお
く方がいい。

■COLUMN
ボスニアの戦争では、ボスニア・ヘルツェゴビナ側が、ルーダー・フィン社と
いうPR企業と組んで、メディアをうまく利用し、国際世論を味方につけたこ
とが後に話題になった。だからどっちが悪いと言いたいわけではない。メディ
アの流す情報によって情勢は変わるし、事実とは別のところで意味づけがされ
たりすることもあり得るということの例だ。
「エスニック・クレンジング(民族浄化)」がセルビアによって行われている
という図式が定着したのも、このPR活動においてだったという。
(参考:『戦争広告代理店』高木徹 講談社)

映画の中でも、中間地帯の兵士を救出したいのに上官から止められた国連軍の
軍曹が、ジャーナリストにこの事件を報道させて、上を動かす作戦に出る。マ
スコミが騒ぐことを警戒し、うとましく思いながら利用するところは利用する
共犯関係ができあがっているのだ。
カメラを引き連れたジャーナリストは、塹壕で取り残された兵士に直接インタ
ビューを試みて、私たちがよく目にする「やりすぎ」のマスコミ行動の典型に
出るが、それだって、テレビの前にいる人間が「もっと見たい」と思うところ
から、元はといえば始まっている。

執拗なインタビューや意味のない言説を見て、その場でチャンネルを変えたり
はするけれど、他のニュースは「役立つ」と思って見ていたりする。「マスコ
ミを信じますか」と大雑把に質問されれば、「不信感が強い」ときっと答える
だろうけれど、興味のあることはテレビの前で「ふーん」と真剣に信じて見て
いるし、日々流される情報に頼っている。どんなに不信感を募らせても、結局
「知りたい」という欲求からマスコミ、メディアのすべてを拒否することはな
い。

どんなにやりすぎても、誤報をしても偏っても、大きなメディアがそうそうつ
ぶれないのはそのせいなのか、そこまではわからないが、少なくともその情報
を受け取る者の「もっと見たい」という欲望と共犯して、報道はできあがって
いるのだと思う。

■INFORMATION
以前ご紹介したヨーロッパ情報サイト『欧州経済新聞』様より
お知らせをいただきました。

ドイツワールドカップ開幕まで1カ月あまり。
サッカーの熱狂を目前に、『欧州経済新聞』では、ワールドカップマスコット
「ゴレオ」(本名「ゴレオ6世」)のキーホルダーを現地直送で販売をはじめ
たとのこと。
日本国内では品薄でなかなか手に入りにくい状態だそうです。
ぜひこの機会に話題になること必至のゴレオ君とご対面を!

販売ページ
http://interpreter.oushu.net/goleo.php
『欧州経済新聞』
http://www.oushu.net/

※注意※
当メルマガでは商品や販売に関する質問は受けられませんので、
ご質問等は、上記『欧州経済新聞』様に直接お願いいたします。

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編集・発行:あんどうちよ

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