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欧 州 映 画 紀 行
                 No.091
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 異形のモノとの出会いから ★

作品はこちら
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タイトル:『ガッジョ・ディーロ』
製作:フランス・ルーマニア/1997年
原題:Gadjo dilo 英語題:The Crazy Stranger

監督・脚本:トニー・ガトリフ (Tony Gatlif)
出演:ロマン・デュリス、ローナ・ハートナー、イシドア・セルバン
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■STORY
ルーマニアの小さなロマ(ジプシー)の村にやってきたパリの若者ステファン。
彼はカセットに吹き込まれた「ノラ・ルカ」という歌姫に魅せられて、本人を
探しにやってきたのだ。出会ったイシドールという老人にすっかり気に入られ、
しばらく村に滞在することとなるが、言葉はまったく通じないし、憧れの「ノ
ラ・ルカ」にはさっぱり会えない。
はじめは拒絶していた村人とも、少しずつうち解けていくが、歌姫探しはやっ
ぱりなかなか進まない。

■COMMENT
間があいたので自分でも気づかなかったが、二度続けてロマン・デュリス主演
映画を選んでしまった。前回紹介した『ルパン』ではおしもおされぬ大スター
に成長した状態だろうが、本作の時点ではまだ「若手の有望株」くらいだった
と思う。(きちんとは知らないがたぶんそう)

私は特別彼のファンという訳ではないけれど、「くしゃあっ」とした笑顔は好
きだ。3つくらいの単語以外は、ロマの言葉も、ルーマニア語も話さず、たい
がいの会話を全部フランス語で済ませようとするステファン(もちろんフラン
ス語なんて一言も通じない)。そんな若者の無謀さを見せながら、くっしゃり
満面に笑われるとなんだか許してしまう。この笑顔が、ロマの村人の心を動か
したのかな、とも思う。

ガッジョ=よそ者を発見した村人たちの反応が面白い。「すごい大男だ」とか
「歯が大きくて出てた」とか、知らない人が来た、を通り越し、異形のモノを
発見した驚きに似ている。西洋の人をはじめて見た昔の日本人もこんな感じだっ
たのだろうか。
知らない者同士が寄せ集まって暮らすことがあたりまえの環境にいると、「よ
そ者がやってくる」ということ自体にイベント性が皆無だから、それがどうい
うことなのかをほとんど知らない。子どもは怖がりながらも珍しがって恐る恐
る近づき、大人はきっとニワトリ泥棒だ、悪事を企んでいる、と議論する。村
の人たちの反応には笑っちゃったり、そういうもんなのかと、妙に感心したり。

出会いの大騒ぎを笑い、村になじんで恋するステファンに微笑みながらも、最
後には、ロマの人々には避けられない差別の問題がつきつけられる。
いや、この問題は本当は作品の冒頭からすぐそばにあったのだけれど、やりと
りの楽しさや、ロマたちの素晴らしい音楽や、女性たちのカラフルなドレスや、
悲しみも喜びも託すダンスの心地よさやらに目を奪われて、ステファンと一緒
にくしゃっと笑っているうちに、気に留めなくなっていただけだ。

最後まで観てからもう一度最初に戻ると、笑いと音楽とダンスの隣に横たわる
悲しみを、そしてそれを吹き飛ばす日々の喜びを、さらによく理解できる。

■COLUMN
ステファンを警戒して村の人たちは、家に泊めているイシドール老人を非難す
るが、イシドールは必死に「彼は友人だ」と皆を説得する。なぜだかわからな
いが、彼はステファンが神様からの贈りものだと信じているのだ。
息子が逮捕され、荒れていた夜に出会ったからか。定かな理由はわからない。
とにかく彼は神様からの贈りものなのだと信じ、手放したがらない。

ステファンはしだいに村に馴染んで、村の人とも仲良くなったので、結果的に
誰から見ても「神様の贈りもの」となったかもしれない。でも、野暮なことを
言えば、ふらふらとやってきた青年が(憧れの歌い手を捜していることはイシ
ドールはいまいち理解していなし)「神様の贈りもの」である確率は非常に低
い。
だが、そうして信じたからこそ、ステファンが馴染む状況を作り出したとも言
える。

そう考えたら、無根拠に人やら物やらを信じられるって、実はすごく大きな力
なんじゃないだろうか。
何かを選択するとき、何かを信じるとき、私たちはたいがい客観的な視点で、
いろいろな面から慎重に検討する。それは大切なことだけれど、それはまず疑
うことからはじめることで、その疑いはバリアを作り出す可能性もある。たま
には「神様の贈りもの」ととりあえず頭から信じてみれば、危ういものもうま
く転がったりするかもしれない。

とは言っても、そんなことはなかなかできない。この素敵な信心を私の生活に
も使えるとしたら……。

くじけそうなとき、難しいことをやらなきゃいけなくてプレッシャーに押しつ
ぶされそうなとき、この状況は神様の贈りものだな、と前向きになってみる。
友人や恋人とぎくしゃく関係が悪くなってしまった時、この人との関係は神様
からの贈りものよ、とつぶやいてみる。ちょっと心に留めておいたら、役に立
つ日が来るかなー。来ないかなー。


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編集・発行:あんどうちよ

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