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欧 州 映 画 紀 行
                 No.092
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 何か変わりたい、でも変化はちょっと怖いすべての人へ ★

作品はこちら
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タイトル:『ローサのぬくもり』
製作:スペイン/1999年
原題:Solas 英語題:Alone

監督・脚本:ベニト・サンブラノ(Benito Zambrano)
出演:マリア・ガリアナ、アナ・フェルナンデス、
   カルロス・アルヴァレス=ノヴォア
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■STORY
家族と人のふれあいを描いた心温まるドラマ。

田舎を出て一人暮らしをしているマリアのもとに、母がやってきた。父が町の
病院に入院したため、看病のあいだ娘の家に泊まることになったのだ。
マリアは父とは仲違いしているようで、看病を手伝うことはできないと言う。
いい仕事が見つからず、酒浸りですさんだ生活をしているマリアを、母はいろ
いろと世話を焼きたがる。それをマリアは明らかに煙たがっている様子。

ぎくしゃくした親子関係に変化は訪れるのか。

■COMMENT
はじめは親子の事情もよくわからず、「何かの事情で仲が悪いらしい」くらい
しかわからないところから、観客にその事情や、マリアの抱えている問題が少
しずつ知らされていく。同時に、じわじわと少しずつ彼らの取り巻いている状
況が変化していく様を、ていねいに描く。人の心理を繊細に捉えて、よく練ら
れた脚本だと思う。

親子の事情やマリアの悩みを知らないで観る方が、このじわじわと心にしみ込
んでくる感覚を味わえて、ずっと楽しいと思うから、ここではそうした予備知
識には触れない。
私が字幕で観ている限りでは「ローサ」という名前も最後の方にはじめて出て
きて、それまでは「奥さん」であり「母」だったから(クレジットされる役名
でも「母」)、題名でしっかり「ローサ」って明示するのも、それでいいのか
なあ、とちょっと思う。

同じ所に寝泊まりしながらも、病院通いを続ける母とマリアの生活はほとんど
クロスせず、物語もそれぞれ別個のもののように進んでいく。それが少しずつ
クロスしはじめるとき、それぞれの人生に少しずつ変化が訪れる。
マリアと同じアパートに住む老人と母との交流もそのひとつ。寂しさやあきら
めを抱えて孤独に生きていたそれぞれに、いつでも人生は変わるのだよと告げ
られる。

この作品は、家族にしても近所の人にしても、人がふれあうことって大事なん
だと、優しい気持ちを届けてくれる。
そして、生活がマンネリだから何か変わらないかな、と思っている人、もっと
良くなって欲しいけれど無理だよと、投げ出したくなってる人、変わりたい変
えたいけれど、それはそれでやっぱり怖い人、そんな人たちにさりげない勇気
をくれる一作だ。

■COLUMN
母がやってきた当初のマリアには表情が2種類しかない。つっけんどんな応対
と、怒って叫ぶか、この2種類。私にも経験があるけれど、心が順調じゃない
ときというのは、反応にバリエーションがなくなる。
マリアの場合は、きっともういろいろ傷つきたくないから、何にも感じないよ
うにつっけんどんに感受性を殺している。そしてそれができなくなるとわめく。

外に出る表情は、まったく正確にではないにしろ、内面を表すから、2種類の
表情しかないと、心の中もきっと2種類の状態しかない。何にも何とも思わな
いか、もうやけになっているか。

そうすると選択肢が限られる。
人間関係なら、無視に近いかやたら攻撃的か。事象に対してなら、興味なしか
毛嫌いか。人生の選択肢も自然と少なくなる。何にもないか絶望するかを繰り
返す。

母の買ってきた植木は「どうせ枯らすしジャマ」としか感じられなかった。し
かし後半、母の残していった植木を見ながら、もっともっとあいまいな表情を
浮かべるマリアの心の中には、「世話できなくて枯らすかも」も、「でも家の
中に植物があると和むかも」も、母との生活を思い返すこともあるだろう。

自暴自棄になっているマリアを見ていたら、「私の気分の悪い状態のときはこ
ういう風なんだ」と、妙な親近感と反省の気持ちを抱いた。私が調子の悪いと
きは、眉間にしわを寄せてため息をついているか、泣きそうな顔をしているか、
泣いているか。つまり「面倒だな」か「嫌だな」か「もうやめ!」のどれか。

心の体力がないときには、反応をパターン化しておくのも楽ちんで、ちょっと
した治療法だ。だけれどそれが習い性になって日常になると、結局自分の選択
肢を狭めてしまう。多様に感じることはきっととても大事だ。
感じ方をすぐに変えられなければ、反応や表情を少し変えてみるだけでも、選
択肢は増えるかもしれない。ちょっと心がけてみようかな。

■INFORMATION
メルマガスタンド「まぐまぐ」の映画情報ページに、
5月30日まで当メルマガが紹介されています。
他にも楽しいメルマガの情報あり。よかったらのぞいてみて下さい。

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編集・発行:あんどうちよ

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