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欧 州 映 画 紀 行
                 No.093
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 悲しみ合うことはできなくても ★

作品はこちら
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タイトル:『息子の部屋』
製作:イタリア・フランス/2001年
原題:La Stanza del figlio 英語題:The Son's Room

監督・共同脚本・主演:ナンニ・モレッティ(Nanni Moretti)
出演:ラウラ・モランテ、ジャスミン・トリンカ、
   ジュゼッペ・サンフェリーチェ
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■STORY&COMMENT
イタリアの小さな港町で、精神分析医として開業しているジョバンニ。妻、娘、
息子と4人で穏やかに、仲良く暮らしていた。ある日息子のアンドレアが、友
だちと潜水に行って事故に遭い死んでしまい、暖かな家族の暮らしは、少しず
つ壊れていってしまう。

映画で身近な人の死を描くことは新しい試みではない。
単純化しすぎることを恐れずに言えば、たいてい、突然の(とは限らないが)
死を受け入れられずに奇行に走ったり、悲しみで何もできなくなったりする登
場人物が、だんだんと死を受け入れ、悲しみを乗り越える。

しかし、この作品は悲劇が一度にやってきて徐々に回復するのではなくて、家
族それぞれが、ゆっくりと少しずつ壊れて、関係も少しずつおかしくなってい
く。最後には前向きな展望が用意されているものの、悲劇をを乗り越え、家族
のきずなを回復していくといういでたちでは決してない。

同じ悲しみを共有しているはずの家族だが、悲しみ方はそれぞれ。

当日、ジョギングに誘っておきながら、急患の往診に出かけてアンドレアと時
間を過ごせなかった。「もしもあのとき往診を断っていたら」とずっと自分を
責め続けるジョバンニ。
喪失の哀しみに浸っていた妻パオラは、存在を知らなかったガールフレンドの
登場により、死んだアンドレアと新しい関係を見つけて行こうとする。しかし
それにジョバンニはついていけない。
娘のイレーネは両親の気遣いに苛立ちをつのらせる。

ふりかかった悲劇は家族のきずなを強くすると思いがちだが、悲しみやその解
消の仕方がバラバラなためにこの家族は、むしろ、少しずつ離れていく。一緒
に暮らすメンバーは、悲しみ合うことができず、それぞれの悲しみは孤立する。

考えてみれば、それが現実に近いのかもしれない。大げさにしすぎずに、家族
の姿を淡々と追ったドキュメンタリーのような現実感がある。だからこそ、前
向きをほのめかすラストに心が打たれる。

■COLUMN
いろいろな都合で少なくとも3度は観ている映画だが、どこか不思議な雰囲気
で、観るたびに微妙に印象が変わり、何度観ても「何の映画」と名付けるのが
難しい。
家族の関係や、死を悲しむ心など、何か1つに焦点をあてて語ると、他の何か
がこぼれ落ちるようで、一稿でコレと決めるのは、なんだか怖いというかもっ
たいないというか、そんな映画だ。

本筋ではないところでも、焦点をあてて語ったら面白いであろう要素が多くあ
る。それは例えば、一家全員の趣味であるスポーツのこと、海のある大きすぎ
ず小さすぎないこの町のことなど、いろいろあるけれど、今回特に目がいった
のはジョバンニの患者達だ。

強迫神経症でなんでもきっちりやらないと落ち着かない主婦、来るたびに「今
日で終わり」と告げては、帰りに「ではまた次回」と言って去る女性、自殺の
ことしか考えられない独身男などなど。
多数の患者がそれぞれに自分の窮状を訴え、本人は真剣に悩んでいても、はた
から見ていると、微笑ましくて笑ってしまう例だってある。全体のテーマが重
いから、こうした笑いを誘う登場人物はとてもいいアクセントだ。ほっと一息
つく意味でも、悲しみを際だたせる意味でも。

そして、ジョバンニと一緒に幾度かの診察を経た後、私にはなんだか彼らが友
人のように思えて、よくなる兆しが見られたら、うれしくなってしまうのだっ
た。

■INFORMATION
ちょっと構成の仕方を変えてみました。
ひょっとしたらどこが変わったのかわからないかもしれませんね。
さーぁて、どこが変わったでしょうか?

ついつい長くなるのがクセなので、
努力してもう少し短くまとめようと模索中です。

今のがいいとか、前のがいいとか、どっちでもいいとか、
ぜひ感想などをください。
アンケートもとろうかなと思っていますが、まだ検討段階です。

ご意見は
enaout@infoseek.jp

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編集・発行:あんどうちよ

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