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欧 州 映 画 紀 行
                 No.098
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ ワインは誰のものなのか ★

作品はこちら
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タイトル:『モンドヴィーノ』
製作:フランス・アメリカ・イタリア・アルゼンチン/2004年
原題:Mondovino 

監督・脚本:ジョナサン・ノシター(Jonathan Nossiter)
出演:ミシェル・ロラン、エメ・ギベール、ロバート・パーカー
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■STORY&COMMENT
ワインに携わる人に多くのインタビューを試みたドキュメンタリー。

アメリカや南米での取材も多く「欧州」から外れるかな、という気もしたけれ
ど、「フランスの文化」をテーマにしたものとして興味深かったので取り上げ
てみた。

大雑把に言って、ワインのグローバル化・ブランド化を進める人々と、それに
反対する人々の対立を中心に展開する。前者の代表は、世界中を渡り歩くワイ
ンコンサルタント、ミシェル・ロラン、アメリカのワイン生産者モンダヴィ一
族ら。後者の代表はエメ・ギベール、ド・モンティーユ一族など、頑固なワイ
ン生産者。

ミシェル・ロランは、果実味たっぷりで力強く、若くても飲みやすいモダンな
ワインを世界中に広げ、新興国でも一定の水準のワインを生産させることに成
功している。その一方でワインに人工的に手を加えたり、多くの人に受け入れ
られやすい均一なものにするとして批判も多い。
ロランの友人で著名なワイン批評家、ロバート・パーカーの影響力は強く、彼
に高得点をつけてもらうべく、世界各地でワインの造り方を変える生産者さえ
いるという。

中立の立場でインタビューは行っているが、大きなオフィスを構えたグローバ
ル派のインタビューに対し、澄んだ空の下、畑で実直に話す昔ながらの醸造家
と、撮り方は対比的。ワインのブランド化と、均一化を批判する雰囲気でドキュ
メンタリーは進む。

しかし、そう望む人には詳細を追わず、世界各地のワイン畑を眺めるだけで楽
しめる<柔らかさ>がこの作品にはある。
アメリカ人が(監督の生まれはアメリカだが、ヨーロッパ各地で子供時代や学
生時代を送ったそうで「何人」なのかはよくわからないのだが)、フランス文
化の奥深くに触れるときは、ずいぶん繊細で尊敬の念にあふれ、眼差しが優し
いものだな、と思う。以前読んだルポルタージュ『パリ左岸のピアノ工房』
(T.E. カーハート著・新潮クレストブックス)でも、パリの職人に対するアメ
リカ人の優しく尊敬のこもった眼差しを感じたのを思い出した。

たぶん、こういう作業をフランス人にやらせたら、もっとラディカルで辛辣な
タッチになって、身も蓋もなくなるんじゃないかと思う。

ワイン好きにも、これからワインの世界をかじってみたいという人にも、おす
すめの一作。ちなみに自身もソムリエの資格をもつノシター監督がすすめる、
和食に合うワインは、アルコール度数が低く酸味の強いドイツの白ワインだそ
うだ。

■COLUMN
このような問題提起をされると、つい反グローバリズムに傾いて、ワインを商
売道具としてではなく、自分の信念をこめて文化の一端を造り上げているよう
な発言に共感したくなる。
それは確かに素晴らしいし、決してその信念が失われないようにと願わずにい
られない。世界中が同じようなワインをもてはやして、似たような印象を与え
るものばかりが生き残るようであれば寂しい。

しかし、一人の無知な消費者として、誰もがわかりやすい批評から市場のワイ
ンを選んだり、とりあえず名の通ったブランドに惹かれてみたりすることを否
定することもできない。自分の味覚だけを頼りに<良いワイン>を探すほどの
能力はなし、ロバート・パーカーが95点をつけたワインと聞いたら、有り難く
味わうだろう。

ワインは文化であり芸術であるのと同時に(芝居やアートや映画や文学作品が
そうであるように)、商売として流通する品物でもある。
メジャーな流通ルートに乗せることも必要だろうし、市場の開拓も必要だ。そ
れは、ワインを詳しく知らない人にもそのすばらしい芸術を届ける手段であり、
その世界に入る人を増やす業界全体の底上げ手段でもある。
大衆化は誰にもチャンスを与える民主化にもつながっている。

しかし、メジャーなものはそのパワーでそれ以外のものを駆逐しかねない。大
衆化は平板化をもたらし、多様性や、古くからのよさをなくしてしまうことも
あるだろう。その結果、その文化全体が硬直することがあるかもしれない。

ワインや芸術は、その世界に精通し、見極める能力を持つ者のものなのか、大
衆のものなのか。
どのように多くの人に届け、かつ硬直を避けるのか、どんな分野においても共
通の課題だと思う。


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編集・発行:あんどうちよ

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