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欧 州 映 画 紀 行
                  No.101
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 浮遊する人生、浮遊する物語 ★

作品はこちら
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タイトル:『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』
製作:スウェーデン/1985年
原題:Mitt liv som hund  英語題:My Life as a Dog

監督・共同脚本:ラッセ・ハルストレム(Lasse Hallström)
出演:アントン・グランセリウス 、メリンダ・キンナマン 、
   トーマス・フォン・ブレム、アンキ・リデン
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■STORY&COMMENT
1950年代終盤。少年イングマルはスウェーデンの海辺の町で暮らしている。
彼が好きなのは愛犬シッカンとママ。しかしママは体調が悪くノイローゼ気
味。兄のエリックはちょっと意地悪い。パパは外国にいて帰ってこない。
辛いことはたくさんあるけれど、人工衛星に乗せられて宇宙に置き去りにさ
れた、あのライカ犬よりはいい。そう自分をなぐさめながらイングマルは毎
日を過ごす。
ママの病状は悪化し、兄は祖母宅へ、イングマルは田舎の叔父宅へと預けら
れることになる。

何の映画と名状するのが難しい映画だ。預けられた先の田舎で出会う人たち
との交流が主の内容ではあるが、例えば少年時代の山村での美しい思い出を
描いたというと、雰囲気は違う。何しろイングマルは「あの犬よりはいい」
「事故で死んだあの男よりはいい」と新聞でより不幸な人を探して自分を納
得させている。
じゃあ、悲しい少年時代を描いたかと言えばやっぱりそうじゃない。

悲しいことがたくさんあって、小さい心で受け止めるのはとても大変だけれ
ど、楽しいことだってちゃんとある。何より、スポーツが大の得意で、男の
子になりたがっている少女サガとの恋は、素敵で楽しい。ちょっと変わった
人々に囲まれて過ごす山村での毎日は、まぶしいほどだ。

人生いいことばっかじゃないし、悪いことしか起こらないわけでもない。辛
いときにも温かく迎えてくれる人がいるけれど、悲しいことが自分を避けて
通ってくれるわけではない。そんな本質を描いている。

するときっと「何」とは指し示せない、普通の人の普通の人生がそうである
ように、どこに着地するわけでなく、どこか結論を先延ばしにした浮遊する
物語になるのだろう。
そのあたりが、誰かの人生の一時を切り取った、リアリティを生んでいると
思う。

北欧の田舎、海辺の町、四季の移り変わりを眺めるのが楽しい作品でもある。

■COLUMN
7月から8月にかけて、東京・日比谷のシャンテシネで、BOW30周年映画祭
が開かれていた。フランス映画社という配給会社が「Best (films)Of
(the) World」というシリーズ名をつけ、商業的にハデではないけれど秀
作だっていう世界各国の作品を買い付けて30年、それを記念しての催し。
そのBOWシリーズから50近くの作品をセレクトして特別上映された。ミニシ
アターなんてものはまだない時代に、いろんな国の未知の作品を紹介し、そ
の動きを定着させた功績は大きいと思う。

その映画祭で本作を久々に観てきたのだが、それというのも、この作品は私
の夫の「マイ・フェイヴァリット」であり、平日に2人で休みをとって
(2人ともフリーランスですがね)行ってきたのだった。
おそらく私はこれで2回目か3回目の鑑賞、彼が何度目か知らない。もちろ
んいい作品であることは間違いないが、つねづね、なんで彼がこの作品をそ
んなに好きなのかがわからなかった。

こんな着地点のふわふわした映画を「マイ・ベスト」にするほど、「アート
系」好みでもない。根っからの都会っ子なので、田舎暮らしには特に魅力を
感じないはず。あの独特の頑固さを持ってるイングマルに自分を投影して共
感するのか(確かに似たところはある)、ボーイッシュな女の子が好みなの
か。おそらくその辺りじゃないかなあ、と思うけれど、はっきりはしない。

イングマル役の男の子は、俳優業はやめてしまったようだが、ヒロイン・サ
ガ役のメリンダ・キンナマンは役者を続けている様子。現在の彼女の写真を
検索して見つけ、「これあの子だって」と彼に見せたら、「ずいぶんオバチャ
ンになった…」とがっくりきていたから(私と同い年だよ!)、やっぱりそ
んなところか。

少しひねりのある青春映画とも言えるのかもしれないなあ。

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編集・発行:あんどうちよ

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