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欧 州 映 画 紀 行
                 No.103
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 過ぎ去り行く夏におくる ★

作品はこちら
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タイトル:『クリクリのいた夏』
製作:フランス/1999年
原題:Les Enfants du marais  英語題:The Children of the Marshland

監督:ジャン・ベッケル(Jean Becker)
出演:ジャック・ガンブラン、ジャック・ヴィルレ、アンドレ・デュソリエ、
   ミシェル・セロー、エリック・カントナ、イザベル・カレ
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■STORY&COMMENT
第二次世界大戦がはじまる少し前、自然に満ちた沼地で暮らす人々の悲喜こも
ごもを描く。そこの住人であった小さなかわいいクリクリが、おばあさんになっ
てから、その頃のできごとを「人生初めての輝かしい記憶」として語る構造に
なっているけれど、クリクリは別に主人公ってわけじゃない。

1次大戦からの帰還兵のガリスは、ふらっと立ち寄ったこの沼地に住んで12年。
どこかに行きたいと思いながら、何となくここにいる。クリクリの父リトンは、
人は好いが物を知らず、とことん間が抜けている。器用なガリスにこの12年間
何かと世話を焼いてもらっている。

町に住むアデルは、本を読んで音楽を聞いていられたら幸せで、どこか浮世離
れしているお金持ち。階級でいえばまるで接点がないのが普通なんだろうが、
ガリスやリトンの自由な生き方に憧れて、しばしば彼らとともに時を過ごす。
かつて沼地に住んでいて、ゼロから事業を起こして大金持ちになったペペも、
貧乏だけど幸せだった頃を懐かしみ、頻繁に訪問するようになる。

登場人物たちにそれぞれちょっとくせのあるところが楽しい。リトンは、やる
ことなすこと本当にダメで、見ていると本気でイライラさせてくれる。だけれ
どまったく悪人ではない、ということも痛いほど伝わってきて、ジャック・ヴィ
ルレの演技がリアリティあるのだな、と実感。クールでどことなく哀愁の漂う
ガリスとのコンビが不思議としっくりくる。

日雇いの仕事でどうにかやっている沼地の住人たちと、無為にのんびり暮らせ
る人と、大会社の創業者、等々。皆が嫉妬することも、卑屈になることもなく 
つきあっている。小さなことで「あの人とは住む世界が違うから」と人とのつ
きあいを狭めてしまう、現代人としてはちょっと反省。
とはいえ、現実にあんな世界が成立するかというと、やっぱり難しくて、だか
らこそこんな映画で、あり得ない素敵な世界を見せてもらって心に元気をつけ
るのである。

■COLUMN
寒さより暑さに強い私は夏が好きだ。Tシャツ1枚で身軽に動けるのも、夕方、
思わず涼しい風にあたって、浮き浮きと安堵が混じる心持ちも好き。

冬には、早く暖かくなれ暖かくなれと、ちぢこまって過ごし、春にはようやく
活動意欲を芽吹かせながら、ああ、早く開放的にぐわっと暑くならないか、と
夏の熱を待望する。しかし、夏も終わりに近づけば、暑さに強いったって限界、
振り払っても振り払ってもまとわりつく湿気にうんざりして、あー、とにかく
もうここから解放して、涼しくて落ち着いた秋になれ、と呪うかのごとくに疲
弊する。
そんな晩夏を何度過ごしても、やっぱり春先には、幾度やっても懲りない恋の
ように私は、灼熱の季節を恋しがる。

主人公でもないクリクリの名を冠し、冬の場面もあるのに「夏」に限定してい
ると、この邦題は評判が悪い。私も、なんだかなあとは思うが、「夏の思い出」
を強調した配給会社の気持ちは分からないではない。

長じたクリクリが何度も頭に思い浮かべる映像は、陽光に光る沼地の草や木々、
その傍らで笑い合う人々。その年に会った素敵な人々との楽しい思い出は、5
月から9月の明るい季節に起きたこと。幼い日の輝く思い出は、夏の光のもと
がいちばんしっくりくるものだ。現地版のDVDのパッケージだって水面と草々
に陽光がふりそそぐ、まぶしい夏の思い出に彩られている。

今日で8月も最後。夏ももう終わりだなあ。


■INFORMATION

筆者の“本棚”出し惜しみしながら公開中
http://booklog.jp/users/feuille
blog版もどうぞ
http://mille-feuilles.seesaa.net/

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編集・発行:あんどうちよ

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