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欧 州 映 画 紀 行
                 No.105
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 歌が心を解き放つとき ★

作品はこちら
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タイトル:『歓びを歌にのせて』
製作:スウェーデン/2004年
原題:Så som i himmelen 英語題:As It Is in Heaven

監督・脚本:ケイ・ポラック(Kay Pollak)
出演:ミカエル・ニュクビスト 、フリーダ・ハルグレン、ヘレン・ヒョホルム、
   レナート・ヤーケル
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■STORY&COMMENT
世界的に評価の高い指揮者ダニエルは、長く第一線で活動してきたが、ある日
舞台で倒れ、心臓がボロボロだと医者に告げられる。
スケジュールが真っ白になってダニエルがやってきたのは、雪につつまれ一面
真っ白な小さな村。そこは幼少期を過ごした地だったが、いじめから逃れて離
れて以降、一度も訪れたことはないところだった。

村を離れると同時に名前を変えたから誰も彼を知る人はいない。ひっそりと暮
らそうとするダニエルだが、田舎の人というのは悪く言えば図々しく、よく言
えば純朴だ。世界的な有名指揮者ダニエルに、教会の聖歌隊を指導してくれな
いかと頼む人が出てくる。
隠遁生活を希望していたし、何より音楽一筋できたから人づきあいが苦手だか
ら、と断ったが、何となく断り切れず、あとはちょっと美人なレナに惹かれて、
また、昔自分をいじめていた男にDVを受けるガブリエルを知って、彼は、聖歌
隊の指導をを決意する。

これは双方にとって大きな変化を呼ぶできごとだった。素人ばかりのメンバー
の歌がうまくなったことはもちろんだが、有名指揮者としてプレッシャーにさ
らされて音楽の楽しさを忘れていたダニエルは、もう一度音楽の原初的な素晴
らしさに心を動かされる。聖歌隊のメンバーたちは心をリラックスさせて「声
を出す」の基本の訓練からはじめ、全身で歌う、全身が楽器になることの解放
感を覚えてゆく。
そしてそれは、ダニエルが少年の頃より抱いていた夢「音楽で人の心を開きた
い」の意味を自身で再確認することでもある。

音楽、ことに歌で何かから解放されるとは、肉体を動かすことに歓びを見いだ
すこと、肉の底からわき上がってくる情を表に出すこと。田舎の教会では、禁
欲的な神父や、一部の信者によく思われない。
コンサートを開いたりして聖歌隊の人気は鰻登り、参加希望者は礼拝へ行く者
よりも増えていく。これはさながら、小さな村をおそった異教徒の文化みたい
なものだ。よくも悪くも村の安定はゆるがされる。

音楽が人の心を開く話は、よくある話といえばそうだが(正直なところ、あん
まり期待しないで私は観たんだな)、登場人物がそれぞれ、なんというか男も
女も「チャーミング」。DVを受けるガブリエラ、夫の禁欲ぶりに嫌気のさした
神父の妻、ダニエルの恋、等々、登場人物それぞれの抱える問題がどこに落ち
着くのか、目が離せなくて、オリジナリティあふれる作品になってると思う。

■COLUMN
どこの国でもどこの文化でも、人が集まれば「コップの中の嵐」的な争いがあっ
たり、小さなことで人がもめたり、あー、ドロドロ、めんどくさっ、な感じが
あるものだ。
この聖歌隊も例外ではなく、小さな村だから、うわさがすぐに広まって、家庭
の事情や色恋沙汰、みんなが互いの事情を把握してる。幼い頃からずっとご近
所さんで、積年の恨みを募らせているメンバーもいる。

お国柄なのか、田舎のよさなのか、作品を成り立たせるための設定なのかはわ
からないけれど、いかにドロドロないさかいがあっても、メンバーたちがめげ
ないところがいい。

どうしても黙ってられなくなったら、言い合いをする。意見の相違や感情のぶ
つかり合いやらで、誰かがヒステリーを起こして出て行ったら、別の誰かが連
れ戻しに行く。けんかになったら、誰かがとめたり、見守ったり、何らかの形
でぶつかり合いをフォローする。
別にそれは全員が仲がいいとか、気が合う、とかいうことではない。しいて言
えば、気に入らない人でも、そういう人だ、と認めて、関係を持続させようと
する状態。

濃い人間関係なんて、私がまーっさきに敬遠するもののひとつで、ぶつかり合
い自体も、ぶつかり合ってけんかして「その後」をふつうに続けていく、気力
も体力もおおらかさも自信がない。だけれど、人間こうやってぶつかり合って
みれば、なんとかなることもあるのね、と作品からヒントをもらえた気がする。

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編集・発行:あんどうちよ

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